第167話 カーバル遊覧

「えっと、部屋割は、アルファーとカズコ、カローラとヤヨイ、シュリとマリスティーヌとポチ、で、俺が一室貰うって形でいいのか?」


 リビングでお茶を啜りながら、皆にそう告げる。


「あぁ、わらわはポチと一緒で良いぞ、というかポチと一緒でないとまた寒くて天に召されそうになってしまうのじゃ」


 そう言ってシュリは、骨付きあばら肉でベトベトになった口の周りをぺろりと舐める。


「私も寒さにまだ慣れていないので、ポチさんと一緒に寝たいです」


「わぅ!」


 マリスティーヌはそう言うとポチの首に抱きつく。


「まぁ、お前ら二人は寒さに弱そうだからな… しかし、なんだかポチを寝取られた気分だ…」


「くぅ~ん」


 ポチが申し訳なさそうな顔をする。まぁ、ポチはあのクリスに自分の餌を恵んでやる優しい奴だからな…仕方がない。


「カローラはヤヨイと一緒でいいんだな?」


 次にカローラに向き直って尋ねる。


「はい、イチロー様、私はヤヨイと一緒ならそれでいいです。ねっ、ヤヨイ」


「………」


 笑顔でヤヨイを見るカローラに、ヤヨイは無言を貫く。


「えっ? ちょっとヤヨイ? なんで答えてくれないの?」


 カローラは必死にヤヨイに縋りつくが、ヤヨイはゆっくりと俺に向き直ってくる。


「いや…お前の俺に対する熱意は分かったが、少しはその熱意をカローラに向けてやってくれ…カローラが泣き出すぞ…」


 というか、すでにカローラは半べそになっていた。もうこうなったら二人の信頼関係の問題だし、これ以上付き合っていたら面倒なので、俺は無視して次の二人に目を向ける。


「旦那様っ!! あたしはどうして旦那様と一緒の部屋ではないのですか!?」


 カズコに視線を向けると同時に、カズコが瞳を潤ませて俺に詰め寄ってくる。そして、その体勢の為か、大きく開いた胸元で乳首が見えそうで見えない所に視線がいってしまう。


 その状態にマイSONがまた伏臥上体逸らしを始めそうなので、アルファーに視線を向けて気を紛らわせる。


「カズコがこんな状態なんで、アルファーがちゃんと手綱を握っていてくれ…頼むぞ…」


「そう言う事で、私とカズコさんが同室だったのですね…、努力いたします……」


 アルファーにしては珍しく自信なさげな返答である。


 そんな時、このリビングの扉が大きな音を立てて開かれる。


「入るぞ!!」


 何事かと思い視線を向けると、先程の代表老人が部下を従えて姿を現す。


「さっきの爺さん!?」


「どうじゃ、ここカーバル学園都市の官舎は? いいじゃろ?」


 そう言いながら、ズカズカと部屋の中に入ってきて、当然のごとく、俺達と一緒にソファーに腰を降ろす。そして、部下の男を顎で使う。


「ほれ、シュリちゃんや、じいじが骨付きあばら肉のお代わりを持って来たぞ、たんとお食べ」


 汗だくのヘロヘロになった部下の男が、骨付きあばら肉山盛りの大皿をテーブルの上に置く。この部下の男、またパワハラで骨付きあばら肉を買いに行かされていたのかよ…気の毒だな。


「おぉ! 骨付きあばら肉のお代わりじゃ!! 皆も食え食え! 美味いぞ!」


 シュリは置かれた大皿の骨付きあばら肉に、何の躊躇いもなく手を伸ばす。


「おい、爺さん…一体、何をしに来たんだよ」


 皆が躊躇いなく骨付きあばら肉に手を伸ばす中、俺は爺さんに怪訝な顔をして向き直る。


「それはシュリちゃんの好感度を稼ぐために、骨付きあばら肉のお代わりと、ここを案内すると見せかけてデートする為にきまっておるじゃろうが」


「いや…正直なのはいいが…正直過ぎるだろ…爺さん…」


 冗談のように見せかけて、本気そうな老人の姿に俺はドン引きする。


「そういえば、自己紹介がまだじゃったな、わしの名は、ルイス・ウルリッヒ・チャップリンじゃ、人呼んでロリコン賢者と言われておる、よろしくな同志イチローよ」


 爺さんは堂々と自分の事を『ロリコン賢者』と名乗って、片手に骨付きあばら肉を持ちながら、俺に握手の手を差し出してくる。


 なんだか握りたくない手であるが、俺に対する査問の担当者だし、この官舎も借りている手前、仕方なく、その手を握る。


「…よ、よろしくな…爺さん…ってか、爺さんは自ら堂々と『ロリコン賢者』と名乗ってんのかよ…もしかして俺の事を同志って?」


 そういうと爺さんはネットリとした視線をシュリ、カローラ、マリスティーヌに向ける。


「これ程の逸材を侍らせながら同志では無いとは言わせんぞ! そもそも、我ら七賢者全員を唸らせる逸材をとりそろえておるからなのぅ~ お主を我ら七賢者の一員に加えたいぐらいじゃ」


「なんだか七賢者が変態の意味に聞こえるからいやだ…ってか、俺はロリコンじゃねぇぞ! こいつらは…その…未来の為に養殖しているだけだっ!」


 俺は必死に自分の名誉の為に弁明する。


「養殖…あぁ、前に読んだ『光源氏計画ストーリー』に出てきた奴か…手元で育てて収穫を待ちわびるのじゃな…いいぞ!わかるぞ!」


 いや、確かにそうなのだが…この爺さんに言われるとかなり変態チックな事をやっているように思えるな…


「なぁ…爺さん、ちょっと聞いていいか?」


「なんじゃ?」


 疑念に思った事を爺さんに尋ねてみる事にする。


「俺は爺さんたちが異端者という事で、このカーバルに追放されたと聞いているんだが…その異端とされた理由ってのは何なんだ?」


「あぁ、その事か懐かしいのぅ~ わしは、女の子の成長が第二次性徴期でとまる薬を作って配布しようとしたんじゃ」


「いや、それはマズいだろ!?」


 あっけらかんと答える爺さんに色々な意味でヤバさを感じる。


「いや、わしなんかはマシなほうじゃぞ? 髭の奴は6歳ぐらいで成長とまる薬を作ったし、禿の奴は動物のメスを獣人化させるものを、眼鏡は巨乳じゃな、ババはガチムチのオスのモンスターを盛らせ合っておったわ」


「爺さん…お前ら異端者じゃなくて、普通に性犯罪者じゃねぇか!!」


「何を言う! 別に当時は法律で禁止されていたわけではないぞ!! ただ、周りに理解されなかっただけじゃ!!」


「いや…だけって…十分追放される理由になるよ…」


 処刑されないだけ温情だよな…


 しかし、中世の宗教的事案の異端審問とか、地動説をとなえたとかの異端扱いだと思ったら、性的嗜好の異端だったとは…人外ばかりを囲っている俺が言うのもなんだが、追放されて当然だ!


「まぁ…いい…その事は兎に角…」


 俺は「んんっ」と喉を鳴らして、話を切り替える。


「この後、外をぶらつこうと思っていたから、案内されるのは有難いな」


「そうじゃろ!そうじゃろ! 自慢の学園都市を案内してやるわ!!」


 こうして俺達は、ロリコン爺さんにカーバル学園都市内を案内されることになった。


 ロリコン爺さんが俺たちの為に用意してくれた馬車は、案内用の観覧馬車の様で、ガラス張りの物で観光にはもってこいのものであった。


 まず、都市内ではなく学園内を案内されたのだが、ここの学園内は現代でいうところの高校の様な物ではなく、研究所よりの大学のような設備であった。


 他国でも教育施設や研究所は存在するが、大体の所がこの世界観にあった時代通りの設備である。しかし、ここのカーバルの設備は現代に近い見た目の設備である。それだけここの先進性が伺える。確かに知識と技術で他国と渡り合っているだけある。


 同席しているロリコン爺さんの自慢の説明も納得できるものばかりだ。


「では、次は外の方の街に繰り出すぞ!!」


 次は学園の外に出て、街の中を巡っていく。その中で先程回り損ねた魔道具やもあった。しかも、他国にあるような辛気臭い店主が薄暗い店舗で怪しいグッズを売っている様なものではなく、現代の家電量販店に近い作りだ。


 そこではもちろん、官舎で見かけた、魔熱式のコンロや魔力式冷蔵庫も販売している。しかも一番目を引いたのが魔力式のエアコンである。これは滅茶苦茶欲しい!! 馬車だけではなく、根城のカローラ城にも取り付けたい。


 だがしかし、現代でもいい家電は値を張るが、この世界ではこの国にしか存在しない品物なので、驚くほど値が張る。最低でも現代で買う事を考えれば10倍の金額が提示されている。


「ぐぬぬ…これは気軽に手を出せんな… 馬車に付ける分だけで我慢するか…いや…」


「すぐに決めんでもひと月は滞在するんじゃから、ゆっくり考えればよい」


「そ、そうだな…じっくり考えるか…」


 俺は取り出しかけていた財布を懐に仕舞う。


「イチロー様! イチロー様! ここでの用事が済んだのなら、隣のカードショップ行きましょ! カードショップ!!」


 カローラが俺の側でウサギの様にぴょんぴょんと飛び跳ねて、まんま幼女の様に強請り始める。


「まぁ、いくらカーバルでもカードの値段は他とは変わらないよな、行ってみるか」


「わーいカード! カローラ! カード大好き!」


 くっそ! まんま娘と買い物に出かける父親の姿だな…俺・・


 そんな感じで、俺はカローラと手を繋ぎながら、となりのカードショップへと向かう。


 カードなら俺の財布も大丈夫だと思っていら、そんな事は無かった。


「何だと!!! 初弾のカードのボックスが売っているだと!? だが…この値段… 元の金額の300倍じゃねぇか!!」


「そりゃ当り前じゃ、今更初弾のカード、しかもボックス買いなんてできるはずもないだろ、ホワイトロータスが出ただけで元手以上の価値があるわい」


 くっそ、この爺さんもカードに詳しいのかよ… しかも初弾のレアをもってそうな素振り… なめてたわ…


「イ、イチロー様…滅茶苦茶欲しいカードだらけだけど… カローラのお金足りない…」


 カローラは俺におねだりするつもりで、俺にあざとく甘えてくるが、目が血走っていて全くその希望に沿ってやろうと思えないほど可愛くない。


「い、いや…カローラ…お前に買ってやるどころか、俺自身買うのが無理な価格だ…」


 俺がそう答えると、その笑顔をすぐさまロリコン爺さんに向ける。


「初弾のカードボックス! カローラ、初弾のカードボックス大好き!」


「カローラ嬢ちゃん、髭爺の研究だけではなく、わしの研究にも付き合ってくれるなら、じいじが秘蔵しているカードボックス初弾から今までの弾、全部あげちゃうぞい(はーと)」


 ロリコン爺さんは血走った目をしたカローラ以上に可愛くない笑顔を作る。


「ぐっ…」


 カローラは唇を噛み、拳を握り締める。


「イ、イチロー様… 明日から、私…用事が出来ましたので…」


「おぉ…そうか…頑張れよ…」


 カローラは今まで適当に老人たちの研究に付き合うつもりだったが、本気で研究に付き合う事を覚悟したようだ。


「とりあえず…カーバル限定のカードパックと、クリーチャーメーカーの他の弾を買って帰るか…」


 そんなこんなで、俺達のカーバル一日目は終了したのであった。


 なお、ロリコン爺さんはしっかり晩飯も一緒に食っていった。


 











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