第164話 査問開始
「えっと、このカードはカローラさんの所へ置けばいいんですね?」
「そうじゃ」
「”そうじゃ”じゃないわよっ! なんでまたマリスティーヌまで私の所に私のカードを置くのよっ!!」
テーブルの端では、長い待ち時間に耐えられなかったマリスティーヌ、シュリ、カローラの三人が例のカードゲームを始めている。
最初は止めさせようとも考えたが、暇を持て余した三人が何をしでかすか分からないので、そのままにさせていた。担当の人物が来ても子供のしたことだから、許されるだろ…
って、いうか俺自身も暇だし、シュリへの雪辱戦が終わっていない俺は、自分も参加したくなってうずうずしてくる。そして、俺が手を伸ばそうかと思った瞬間、俺達が入ってきた扉とは別の扉が開かれる。
ようやく、御出ましか…
心の中でそう思いながら、担当者たちを出迎える為に立ち上がる。アルファーやカズコは俺にならって一緒に立ち上がるが、例の三人はゲームに熱中していてそのままだ。
「こら! お前ら、さっさとカードを片づけろっ!」
「イチロー様っ! 待って! 今、シュリに勝てそうだからっ! 待って!」
カローラが今までにない必死な表情をしてゲーム延長を申し出てくる。
「ダメだ、諦めろ」
「ぐぬぬ… せっかく自分のカードを倒せたのに…」
カローラは血の涙でも流しそうな勢いで、歯を食いしばって悔しがる。カローラの奴、ゲーム好きな癖に、マンチキンをしなかったり、勝負運がなかったりするんだよな…
とりあえず、三人がゲームを片づけ始めたので、入ってきた人物を見るために前に向き直る。
すると、俺達の前には担当者がいるのだが、一人ではなく、かなり高齢の爺婆達が七人程並んでいる。服装を見るとかなり高位の人物と思われるが、この爺婆たちは一体何者なんだ?
老人たちは俺達の前の記者会見でもするような座席に次々と座っていき、中央の代表と思われる爺さんが声を掛けてくる。
「あ~ 君たちも掛けたまえ、少し長い話になるから立ち話もなんじゃろ」
なんだか気の抜けた喋り方だが、俺達は言われたまま、腰を降ろしていく。
「あ~ イアピース王家、ウリクリ王家、後、ガイラウルの貴族の連盟の紹介状は読ませて貰った」
そういって、俺が渡した紹介状をピラピラとさせる。
「この紹介状に従って、わしらが今回の査問を担当させてもらう。わしらはこのカーバルの七賢者と呼ばれるものじゃ」
七賢者って、最初に追放されてこの地に流れ着いた連中じゃねえか!! まだ、生きていたのかよ!!
「えぇっと、査問の対象の中心人物であるアシヤ・イチローと言う人物は誰じゃ?」
「お、俺です」
ふいに名前を呼ばれたので、片手を上げて答える。
「ふむ、お主か…」
俺の返答に代表以外の老人たちが、手元で何か確認し始める。
「では、次にシュリナールと呼ばれているドラゴンは誰じゃ?」
「わらわじゃ」
シュリは俺の様に手を上げず、口だけで答える。
「ほぅ~ これはこれは…」
代表の老人が目を細め、他の老人たちも耳打ちをし合って、少し騒めき始める。
「これはかわぇぇお嬢ちゃんじゃ、あめちゃんを食べるか?」
代表とは別の老人が好々爺の顔をして飴玉を取り出して見せる。
「いや、甘い物は…わらわは骨付きあばら肉が好きなのでのぅ」
シュリがそう言って断ると、老人は眉を顰めて後ろに控えていた部下に声を掛ける
「おい、そこのお前! 今すぐ、骨付きあばら肉を買ってこい!」
「へっ?」
「だから骨付きあばら肉を買ってこいと言っておるのじゃ! あっそう言えば、シュリナールお嬢ちゃん、骨付きあばら肉は生でいいのか?」
部下にはしかめっ面で命令していた老人は、好々爺の顔でシュリに振り返って尋ねる。
「いや、ちゃんと調理したものがよい、しかも甘辛な味付けが好みじゃ」
「と言う訳じゃ!! 10分で急いで買ってこい!! 分かったな!! 10分じゃぞ!!」
目の前で突然に繰り広げられる不条理なパワハラに俺は唖然とする。
「では次に、カローラ・コーラス・ブライマと呼ばれるヴァンパイアは?」
別の髭老人がカローラの名を呼ぶ。しかし、返答がなく、静寂が流れるので、カローラに視線を向けると、カローラはブツブツと言いながら、先程のゲームのカードを眺めていた。
「おい、カローラっ!!」
俺が声を飛ばすと、カローラは肩をビクつかせて慌てた素振りで前を見る。
「嬢ちゃんがカローラ嬢かな?」
「は、はい…そうです」
買い物する時の店員は別として、カローラは人見知りする性格なので、怖気気味に答える。
「嬢ちゃんもあめちゃん食べるかい?」
「いいえ、私は結構です…」
「そうか… 今回の為に血の飴玉を用意しておったのじゃがのぅ…」
そう言って、飴玉を断られた老人は残念そうな顔をする。
さっきの爺さんもそうだけど、この爺さんもなんでさらりと飴玉が出てくるんだ? シュリやカローラ達を孫娘の様に感じているのか?
「では、次にフェンリルも仲間にしているそうだが、どの娘じゃ?」
そう言って別の禿老人が、残っているカズコ、アルファー、マリスティーヌに目を向ける。
「あのフェンリルのポチは、人化できませんので、馬車に残しています。連れてきますか?」
ここにいないポチが答える事が出来ないので、俺が代わりに答えて説明する。
「そうか…犬っ娘に会えると思っていたのだが…残念だ…」
何を言っているんだ…この老人は…
「では、次には蟻族の人物であるが… そこのメイド服の人物で間違いないか?」
また別の眼鏡を掛けた老人が蟻族であるアルファーについて尋ねる。
「はい、私です」
アルファーの返答に、眼鏡老人は眼鏡を怪しく輝かせて含み笑いをする。
「そのメイド服は…自分の意志で着ているのかな? それとも誰かの命令で…」
「最初はキング・イチロー様の指示で着ておりましたが、今は自分の意志で着ております」
「そうか…なるほど…ククク」
いや、なにがなるほど何だよ… ってか、なんだ? 先程から訳の分からん発言ばかりで、もっと人類に対する敵意とか、そんな事を聞かんでいいのか?
「で…」
今度は老婆が声を上げる。
「ハイオークも仲間にしているとありましたが…姿が見えませんがどういうことですか?」
「それがここに来る途中で…」
俺は言いづらそうに答える。
「亡くなったのですか?」
「いや、とある事故で、性別というか容姿が大きく変わりまして…」
そう言ってちらりとカズコを見る。
「もしや、そのご婦人がハイオークだと!?」
老婆ではなく、先程の眼鏡老人が驚愕した顔で立ち上がり、声を上げる。
「それは本当なのか!?」
剥げ老人も声を荒げて、カズコを見る。
突然に注目されたカズコは、恥じらいながらもじもじと少し身体をよじらせて口を開く。
「は、はい…あ、あたしが…そのハイオークの…カ、カズコです…」
「おぉ~ その恥じらっている感じがよいのぅ~」
「じゃな… ゴージャスな見た目と異なり引っ込み思案な感じがそそるわい」
「ええのぅ~ ええのぅ~」
「私は…ガチムチが見られなくて残念ですわ…」
カズコの反応に老人たちがそれぞれに性癖嗜好の自身の感想を述べていく。
…俺達は一体…何を査問されているんだ?
「さて…」
他の老人たちが騒ぐ中、代表の老人が皆を鎮める様に声を上げる。
「紹介状や報告書に記されている、敵性人種に関する確認は終えた訳だが…」
そう言って、代表の老人はマリスティーヌを見る。
「紹介状にも報告書にも記載されていない、その少女は誰なのかね?」
皆の視線がマリスティーヌに集中した。
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