第156話 異世界では野生化した女が常識のようです
俺はすぐさま崖の上から、驚いて落ちそうになる盗人修道女に手を伸ばす。折角手に入れた山芋も大事だが、このままでは修道女が落下してしまう。俺もそこまで外道ではない。
「落ちる!!」
人命がかかった緊急時は、時間が圧縮されてスローモーションになったような感覚に囚われる。
体勢を崩し驚いた顔をして、背中から崖から落ち始める修道女。
そんな修道女に必死に駆け寄って、右手を差し伸ばす俺。
手を伸ばす俺に気が付いた修道女は、自分からも俺に手を伸ばす。
「間に合え!!」
だが、俺の右腕は修道女の手を掴むことなく、むなしく空を切る。
「うそだろ!!!」
俺はそのまま勢い余って、崖の淵に倒れ込む。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
たかが山芋ぐらいで人一人を死に追いやった事から、地面に伏しながら叫び声をあげる。
『森で出会って、追いかけた生き物が、ふと見ると女だった。そんな時、なんで嬉しくなるんだろう』
『それは人間がそれだけエロな動物だから。でも、それこそが人間の最大の取り柄なんだ。心にエロがある生物…なんとすばらしい!!』
『だから…いつまでもメソメソしないで、疲れるから自分で持って…パパ…』
空を切ったはずの右手に、急にグンッ!と重みが掛かる。
「えっ!?」
俺は突然の出来事に顔を上げると、差し出した右手の服の袖から、崖に向かって触手が伸びている。
俺は立ち上がり、右手の裾から伸びる触手の先を崖から身を乗り出して確認する。すると、崖の途中で気を失って触手に絡めとられた修道女の姿があった。
「ま、間に合ったのか…」
自分自身でもこの状況に驚きながら、触手を使って修道女を引き上げ、手の届く範囲に来てから左手で崖の上へと修道女を降ろす。
すると、自身の役目を終えた触手は、服の中をしゅるしゅると伝って、本来あるべき股間の位置へと戻っていく。
エイミーとの戦いの後、マイSONは眠りにつくと言ってた。だが、いつでも俺を見守っていたんだな… 忘れていなかったんだな…俺の(女好きな)事を…(俺はお前の事を忘れたかったけど…)
俺がそんな複雑な感慨に浸っていると、崖の下から声が響く。
「旦那ぁ~ 盛大に魔法を使う音が聞こえたんでやすが、でっけえ獲物でも仕留めたと思って、運搬の手伝いにきやしたぜ!!」
崖から顔を出して下を覗くと、崖を途中まで昇ってきているカズオの姿があった。
「カズオか?」
「旦那、獲物があんまりデカいと運ぶのが面倒なんで、あっしが解体しやすよ… あっ…」
カズオが俺の姿を見つけて、手を上げた瞬間、カズオは体勢を崩して崖から落ち始める。
「カズオ!!」
俺は慌てて手を差し伸ばす。
「旦那ぁ!!!」
人命がかかった緊急時は、時間が圧縮されてスローモーションになったような感覚に囚われる。
ゆっくりと落下するカズオに、左手を差し伸ばす俺。
だが、修道女の時の様に触手は発動しなかった。
ドンっ!
「ひぃ~ 危なかったでやすね… まだ、途中だってんで助かりやしたぜ」
そこにはちゃんと地面に着地したカズオの姿があった。そして、カズオは唖然とした俺を見上げて声をあげる。
男には発動しないんだな…触手…やっぱ、俺のマイSONだよ…
「旦那ぁ! この崖はあっしには登るのは無理そうなんで、獲物を落としてもらえやすか? あっしが運んでおきやすんで」
「お、おぅ、す、すまないな…カズオ…」
俺は、修道女を助けた時に手放した、イワタバコとコゴミの束を掴んで、崖の下のカズオに放り投げる。
「おっと、あれ? 獣じゃなくて、山菜?」
束を受け取ったカズオは獣ではなく、山菜なので目を丸くする。
「後は俺が運ぶから、カズオはその辺りに落ちている山芋も、食える物があれば運んどいてもらえるか?」
「えっ? 山芋? あぁ、折れた山芋が転がってやすね… わかりやした!!」
二本の腕の大きさぐらいあった山芋は、こぶし大ぐらいしか回収できなかったようだ。くっそ! 俺の折角の山芋がこれだけしか残らなかった… これはこうなった原因を作った本人に償って貰わんといかんな…
俺は崖の上に引き上げられた気を失っている修道女に目を向ける。そして、修道女の側に立ち、俯せで倒れている状態から、姿を確認する為に仰向けにひっくり返す。
「あぁ… やっぱりか…」
追っている時から薄々気が付いていたが、捕まえた修道女は、小汚く擦り切れた修道服に、垢まみれの顔…そして、幼いというか若い…俺のストライクゾーンから2~3歳外れている。
また、これも引き上げた時に、気が付いていたが、親猫に捨てられた子猫の様にガリガリにやせ細っている。これでは例えストライクゾーン年齢に達していても、致したいとは思えないぐらいやせ細っていた。
薄汚れて艶の無い亜麻色の長髪に、瞳の色は深い翠眼。元の土台は良さそうだな…でも、今の状態では…
しかし、野生化した女騎士のクリスにしろ、今回捕まえた野生化した修道女にしろ、野生化した女はダメだな…食指が動かん…
といってもリリースするのは勿体ないんだよなぁ~ 山芋の償いもしてもらわないといかんし、こんな山奥で野生化している理由も聞かんといかん。
クリスの養殖は諦めたか、この修道女を養殖して太らせれば、いい女になるかもしれん。
「やはり、大きく儲けるためには、先行投資が必要だよな」
俺は修道女を米袋でも担ぐように肩に載せる。ストライクゾーンの女ならお姫様抱っこだが、この状態なら米袋と同じで十分だ。
俺は、野生の修道女を肩に担いで、崖を降りて馬車へと向かう。しかし、クリスもそうだったが、こいつもやはり臭うな… どこかの水場でアルファーにでも洗わせるか…
そう思いながら森の中を駆け抜けていると、馬車の所に辿り着く。丁度その時、アルファーも籠を抱えて帰って来たようであった。
「おう、アルファーも採取から帰って来たところか? その籠の中身は…キノコか?」
「えぇ、人族でも咀嚼可能なものを探していましたら、丁度キノコが生えていましたので採取してきました。一応、私自身が試して蟻族種が大丈夫なものを選んできましたが、他族が食べても安全なものをチェックしてもらえますか? それよりもキング・イチロー様…それは食材という意味で採取されてきたものですか?」
そう言ってアルファーは、俺が担いでいる修道女を指差す。
「いや…食材という意味では食わねぇよ… 森の中でたまたま拾って来ただけだ…それより、食事が終わった後、どこかの水場でこいつを洗ってきてもらえないか?」
「あぁ、他族は食中毒を起こしやすいので、先ずは食材を良く洗うという事ですね」
「いや、だから食わねぇよ!! ただ、置いとくにしても汚くて臭いから頼んでいるだけだよ」
「分かりました、では料理はカズオさんにお任せするので、私は、後ほどその人物を洗えるような水場を捜して参ります」
やはり、アルファーは人の言葉は話せても、文化と言うか生態が人類とは全く異なるからたまに会話が嚙み合わないな… まぁ、食わないというのはあくまで食材でという意味で、性的に食うか食わないかは別問題だが…
とりあえず、野生の修道女は馬車の近くに降ろし、馬車の外にある道具箱の中からロープを取り出して縛り上げて、逃げ出さないように車輪に繋いでおく。
「さてと、先に食材を持って帰ったカズオの姿が見えないが、馬車の中か?」
俺はさっきの食材をどう料理するか確認する為に馬車の中に向かう。
「カズオ、さっきの食材、どうやって料理…」
俺は中に入り、視線を上げると信じられない物が目に映り唖然とする。
むっちむちのエロエロ巨乳ボディーに裸エプロン、まるで夜空のような紺色の艶やかな長髪に切れ長の潤んだ瞳の絶世の美女の姿があった。
「ど、どなた?」
俺は唖然としながら、その美女に尋ねた。
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