第150話 でも、鶏肋って美味しいよね

「カズオ~ いるか?」


 俺は厨房へと向かい扉を開けて、カズオの姿を探す。するとカズオは骨メイド達と朝食の後片付けをしていたようで、俺の姿に気が付いて目を丸くする。


「旦那、どうしやんでやすか? 何か、あっしの朝食に至らぬことがありやしたか?」


 そう言って、カズオはフリルのついたエプロンで手を拭いながらこちらに向き直り、カズオと共に朝食の後片付けをしていた骨メイド達が、どういう訳か、俺から身を隠す様にカズオの後ろに隠れだす。なんなんだ?


「いや、朝飯は美味かったぞ、そうじゃなくて、これから又、旅に出るから、馬車や食料の補充とかの準備を始めてくれ」


 そう言って、カズオに近づいていくと、骨メイド達は更に怯えた様にカズオの後ろに隠れる。だから、一体、どうしたんだよ…骨メイド達は…


「えっ? 昨日帰ってきたばかりなのに、もう出発するんですかい?」


「あぁ、なんでも俺が、お前やシュリ、カローラ達を仲間にしている事で、人類に対して敵対する存在じゃないのかと、審査とか査問とかするそうなんだ」


「人類の敵って…あの村のでの一件がバレたんですか?」


「いや…あれは袋を被っていたから大丈夫だと思う…多分…」


 今から思うと、確かにあの一件はマズかったな…


「他にもハニバルでの淫魔王の姿を誰かに見られたって訳でもないんでやすね?」


「そ、それも多分大丈夫…って、なんだよっ! 淫魔王ってのは!!」


「い、いや…あの姿はとても人間の姿には見えなかったので…」


「あ」


「すいやせん…」


 俺の威圧にカズオは押し黙る。ってか…淫魔王って何だよ… ちょっと、マイSONが何本も伸びて暴れたぐらいじゃないか…… やはり、自分でも思うが普通じゃないな… あの後、マイSONは眠りについていつもの俺のマイSONに戻ったから良かったものの… あのままだったら、人の社会には戻れなかったな…


「ところで、どちらに向けて旅に出るんですか? 行程が分からない事には、必要量がわかりやせんので…」


「あぁ、そうだったな、今回の目的地はカーバルだ。場所はウリクリの北西、詳しく言うとプリンクリンのいたウマリホーよりもっと北の地域だな。距離的にはハニバルぐらいだと思ってくれ」


「でやしたら、途中で物資の買い足しも出来そうでやすね」


「あぁ、ただ、魔王の本拠地フナイグに近いルートを通ると襲われる可能性があるから、迂回ルートを通るかもしれんし、途中買出しも出来ないかも知れないからそのつもりでな」


「分かりやした」


 俺はカズオにそう告げると、次はカローラを捜しに行く。恐らく、いつものように談話室でゴロゴロしながら本でも読んでいるに違いない。


 俺は食堂の脇を通り、談話室に向かっていると、幼体たちに食事をさせていたアルファーに出会う。


「おはようございます。キング・イチロー様。お急ぎの様ですか、何か御座いましたか?」


「あぁ、アルファーか、これから旅出るからカローラを捜している所だ」


 俺は立ち止まってアルファーに答える。


「えっ? 旅? もうすぐですか? どれぐらいの期間がかかるのでしょうか?」


「そうだな… 距離的にはハニバルと同じぐらいだから、行ってこいだけで最低一か月はかかるだろうな…」


 そう答えるとアルファーは少し困ったような顔をして考え始める。


「どうした? アルファー、何か問題があるのか?」


「そうですね…一か月も旅に出られるのでしたら、先送りになっていました幼体たちの名付けをして頂きたいのですが…」


「あぁ、そうだったな…先送りにしていたんだったな…」


 俺はそう言って、頭を掻く。


 ハニバルからここまで帰ってくるのに二週間程あったので、十分に名前を考えて名付けする時間は十分にあった。だが、名付けをしなかったのにはそれなりの理由もあった。それは、幼体がアルファーのような蟻族のようになるのではなく、もしかしたら人間のように育つかも知れないと考えたからである。


 幼体たちは、女王の第二腹部で完全な成体まで成長せず、また、女王を頂点とした蟻族のような精神構造をインプットする前の状態であると考えていたので、元となった人間の人間性を取り戻した場合には、どこか子供を失った夫婦の所にでも、里子に出す事も検討していたのである。

 そして、二週間の旅でその様子を注意深く伺っていたのだが、どうやら虫たちの幼体は、生物としての身体がある程度、出来上がって来てから、蟻族の行動原理を多少、脳にインストールしているようで、比較的大きな幼体は蟻族の行動原理が強く、小さい子は弱いようであった。

 だが、最大の問題は、身体の構造は元の人間の様には戻らず、又、脳の奥深くに刻まれた種の頂点である存在に対する従属心という本能は拭えない様で、女王から新しい頂点となった俺に対する、従属心や好意などが拭えない為、例え人間の所に里子に出しても、俺以外の男性と結婚することなど不可能だろうという事を、面倒を見ていたアルファーが説明した。


 というわけで、結局、俺の所でこのままずっと預かる事になったのである。まぁ、俺としては女王にいう事を聞かせる為に、幼体を人質にしているという建前があったが、本音としては、自分の手元で育てて自分の子供の様に思ってしまっては、収穫時にやりづらい可能性があったので、里子に出して気兼ねなく頂きたかったのだが…残念だ。


「この辺りの夫婦に里子に出す可能性もあったから、俺が名付けするのも控えていたけど、ここでずっと養う事になるなら、そうそうに名前を付けてやらんといかんな…」


「はい、お願いいたします、キング・イチロー様。お前たち、こちらに来なさい、キング・イチロー様にお名前を貰うわよ」


 アルファーは食堂で食事をしている幼体たちに声を掛けると、昨日の様に黄色い声を上げて、幼体たちがわらわらと食堂から俺を目掛けて掛けてくる。


「イチロー様!」

「イチロー様だっ!」

「だっこ! だっこして!」


 幼体たちはあっという間に、俺を取り囲んで、俺の足にしがみ付く子供までいる。


「こら、お前たち、キングに甘えてはなりません」


「まぁ、いいじゃないかアルファー」


 俺はいい気になって答えるが、幼体の中に、特に年上と思われる子がなんだか潤んだ瞳で見てくるのが少し気になる… うーん、そんな瞳はもう少し大きくなってからしてくれ…


「キング・イチロー様がそう仰るなら構いませんが…とりあえず”名付け”を行ってもらえませんか? お前たちもこれからイチロー様から名前を頂きますから、ちゃんと一列に並んで順番を待ちなさい」


「はーい」


 アルファーの言葉に、幼体たちが素直に列を組んで俺の前に並んでいく。どうやら、個別の名前を貰えることが嬉しい様だ。


「しかし…どうすっかなぁ~ 俺、名付けはあまり得意ではないのだが… こいつらに最後に付けた名前がDVDだっけ… じゃあ、BD…」


「あるじ様…」


 突然、ドスの効いた声で呼ばれたので振り返ると、ジト目で見上げているシュリの姿があった。


「な、なんだよ、シュリ…」


「主様… また、変な名前を付けようとしていたじゃろ…」


「いや、そ、そそんな事は無いぞ、BDとかSSDとかUSB…やっぱ…マズいな…」


「まぁ、わらわには意味が分らんが、主様がVHSとDVDを呼ぶときには、何か違和感というか気まずそうな顔をしておるからのぅ~ 今度はちゃんとした名前を付けてやれ…」


 言葉には出さなかったが、VHSとDVDの件は気づかれていたのか… なんだかんだで、シュリは鋭いな…


「そうだな…もう少しマシな名前を考えるか…」


 とは、いってもギリシャ文字やドイツ語も使ったし…後は何か残っていたかな…


「そういえば、フランス語はまだ使ってなかったな…そうだ! フランス語で行こう!」


 俺は声を上げると、列の先頭にいる一番大きな幼体を指差す。


「お前の名は『アン』だ! そして、次の娘が『ドゥ』! 次の垂れ目が『トロワ』だ!」


 そんな感じに、俺は幼体の大きい子から順にフランス語の数のアン、ドゥ、トロワ、カトル、センク、シス、セット、ウィット、ナーフ、ディス、オンズ、ドォーズと名付けていく。

 名付けられた幼体は、名前が気に入ったのか、それとも名前を貰ったこと自体が嬉しいのか、飛び跳ねてはしゃいでいる。


「イチロー様! ありがとう!」

「嬉しいです! イチロー様!!」

「これからもアンを可愛がってくださいねっ!」


 俺は喜んでしがみ付いてくる幼体たちをワシワシしながら、アルファーに向き直る。


「そういえば、アルファーにも声を掛ける事を忘れていた。今回の旅にお前も付いて来て欲しいんだが、大丈夫か?」


「えっ?私も同行するのですか? それは大丈夫ですが、それはどうしてですか?」


「あぁ、俺やシュリ達は、この度で査問を受けにゃならん、お前も一族の代表として来て欲しいんだが、幼体の面倒見もあるからな…一応、確認したんだ」


「幼体の面倒でしたら、ベータやVHS、DVDもおりますので大丈夫です」


 アルファーがそう答えると、食堂の中から、ベータがウィンクしてサムズアップする姿が見えた。やっぱりやべぇままだな…ベータは…

 ベータは結局、あのまんまだからな… 査問に連れていくのは、色々な意味でやばすぎる… 幼体の面倒を見させるのも不安だが、VHSとDVDがまともそうなのでまだ安心だ。


「では、いつでも旅に出られるように準備しておいてくれ」


 アルファーにそう告げると、俺は談話室に向かいながらシュリに声を掛ける。


「で、シュリはどうして俺についてくるんだ?」


「わらわは、旅の事をカローラにも言いに行くのじゃ、旅の間の暇つぶしの本を準備してもらわんといかんからの」


「じゃあ、俺と似たようなもんか」


 そう答えると、目的である談話室の扉を開ける。すると予想通り、カローラがソファーの上で寝そべって本を読んでいたのだが、御付きの骨メイド達が俺の姿を見るなり、肩をビクつかせてカローラの後ろに回り込む。ほんとに何なんだよ…骨メイド達の反応が理解できない。


「おい、カローラ」


「なんですか?イチロー様」


 カローラは本を少し降ろして、瞳だけをこちらに向ける。


「旅にでるぞ」


「では、いってらっしゃい」


「いやいや、何言ってんだよ、お前も一緒に行くんだよっ!」


 俺がそう言うと、カローラは寝そべった状態から、起き上がる。


「えっ? なんで?」


「俺達は査問を受けないといけないらしい…お前も対象だ」


「そうですか…仕方ありませんね…でも、途中で本やカードを買えるからいいか」


 そう言ってカローラがこちらに向き直ると、カローラの後ろにいた骨メイド達が何やらカローラに耳打ちを始める。


「えっ!? 何を言っているの!! 貴方たち!!」


「一体、どうしたんだ? カローラ」


 目を尖らせて骨メイドに声を荒げるカローラに、俺は尋ねる。


「いや…その… 骨メイド達が今回の旅には付き添いたくないと言い出して… ホノカ!! 貴方は付いてきてくれるわね!?」


 そう言ってカローラは一番お気に入りだと思われるホノカの手を握り締めるが、ホノカは小刻みに身体を震わせながら返答に答えないようだ。


「どうなってんだよ? もしかして、全員、プリンクリンに寝取られたのか?」


「いえ、違います…その…骨メイド達がイチロー様に致されると言い始めて…」


「はぁ!? なんだよそれ!!」


 カローラの思っても見ない言葉に、俺は声を荒げる。最近、骨メイドの様子が変だと思っていたら、そんな事を考えていたのか!!


「な、なんでも、イチロー様に骨盤輪?や閉鎖孔?を蹂躙されるという事らしいです…」


「骨盤輪って…あの時の話か!!」


 俺はアソシエが言い出した話を思い出す。


「するわけねぇだろ!! そもそも、骨だけメイドのどこに欲情すればいいんだよ! 骨メイドをエロい目で見た事なんてねぇわ!!」


 そもそも、これから女満漢全席が用意されている学園都市に行って、色んな肉付きの女を頂けるというのに、髄も残ってなさそうな骨に手を出さなきゃいかんのだ…? しかし、女満漢全席…早く頂きたいな…


 俺が呆然とそんな事を考えていると、骨メイド達が更に身を竦める。


「イチロー様… 骨メイド達が、イチロー様が今、欲望に塗れた目をしていたと…」


「い、いや! 違う!! お前たちの事じゃねぇから!! 骨に興味はねぇから!!」


 俺は必死に弁明する。孕ませ魔とか淫魔王とかの言われは、好ましくないが自覚があるので我慢は出来る。だが、骨にまで手を出すというのは、男としての名折れ…我慢できない!!


「俺は骨なんかに興味はねぇぇぇ!!!」


「主様…さっきの顔では説得力が全然無いのじゃ… これで更に骨メイド達に嫌われたのぅ…」


 シュリがポツリと呟いた。



 

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