第149話 先にそれを言えよっ!!

 建物の中に入っていくフィッツを視線で追っていると、玄関を出た所で立っていたアソシエとまともに目が合ってしまい、今更、目を逸らす事が出来ずに、じっとアソシエと向き合う。


 そんな俺にアソシエは、漸くいたずら小僧を捕まえた母親の様に鼻を鳴らそうとするが、その時にクリスの残り香を嗅いで咽込み始める。


「おい、大丈夫かよ…アソシエ…」


「大丈夫…大丈夫だから… ちょっと、えずきそうになっただけだから…」


 涙目になりながらも、片手を突き出して俺を制止する。そのえずきそうになっている時点で、大丈夫だとは思わないのだが…


 アソシエは口で大きく呼吸をして息を整えると、俺を正面に見据えて直視する。


「それで、イチロー…あの手紙はちゃんと読んだのでしょ?」


「あぁ…読んだ」


「自分の置かれている、状況も把握しているのでしょ?」


「あぁ…している」


「だったら、どうしてすぐに査定なり査問なりの審問を受けないのよ… その審問を受けるまでの時間をかければかけるほど、人類の敵ではないかと周囲の疑念が膨らんでいくのよ?」


「そういってもなぁ…」


 俺はポリポリと頭を掻きながら、アソシエに答える。


 名称は査定でも査問でも審問でも…なんでもいいけど、どうせやるのは、俺やシュリ達を中世の魔女裁判や、異端審問会みたいなのに掛ける事なんだろ? どちらにしろあまりいい結果が出ないようにしか思えない…とくにその審問官とかが俺を妬んでいる奴らに買収されていたら、自分で死刑台に登るようなもんじゃないか…


 だったら、次々と魔族を倒していって、俺を妬んでいる奴らに文句を言わせないようにした方が、良いやり方だと思うんだが、俺の実力についてアソシエの信用が無いのか?


「はぁ…」


 悶々と考え込む俺を見て、アソシエがため息をつく。


「折角、ウリクリのマイティー女王や、イアピースのカミラル王子やティーナ王女、そして、私やミリーズが、イチローが公平中立な場所で審査してもらえるように、紹介状を書いているのに、肝心のイチローがその態度だとね… せっかくのカーバル学園都市国家なのに…」


 俺はそのアソシエの言葉にピクリと耳が動く。


「なん…だと…!?」


「ちょ、ちょっとっ! イチロー、突然にそんな血走った目で私を見て…」


 自分ではどんな顔をしているのか分からなかったが、俺の顔にアソシエが少しビクつく。


「アソシエ…今、何といった…」


「そ、そんな血走った目で…」


「いや、もっと前だ!!」


「都市…国家?」


 俺はアソシエがビクつくような顔で詰め寄る。


「そう!!もっと詳しく!!」


「カ、カーバル学園都市国家…」


「それだぁぁぁ!!!!」


 俺は両手の拳を振り上げて、天に絶叫する。


「この大陸の多くの王族や貴族の子弟…また成績優秀の学生がこぞって集まるカーバル学園都市国家!! 年頃の女の子が集まるところではないかぁ!!!!」


「はぁ?」


 アソシエが目を丸くする。


「JC!JK!JD!! フハハハハハ! より取り見取りではないか!! なんだったら職員のお姉さんOLだっていけちゃうぞぉ~!! アソシエ! どうして先にそれをいわなかったんだ!!」


「えっと…イチローが何言ってるかわかんない…」


「やだなぁ~ 僕はアソシエの誠意に報いたいって言っているだけだよ!」


 自分では爽やかイケメンフェイスで答える。


「いや…全然、誠意に報いる顔に見えないんだけど… 何ていうか…獲物を前に舌なめずりする欲望に塗れた顔にしか見えない…」


「やだなぁ~アソシエ~ まだ目ヤニでもついているんじゃないかぁ~?」


 俺はそう言いながら、アソシエの横を通り抜け城の中へと入っていく。


「ちょ、ちょっと! イチロー! 突然どうしたのよ!!」


「エ…いや、善は急げというではないか! 今から出立の準備をはじめるんだよ!!」


「い、今から!?」


 べアールで、蟻族相手に108人切りをした俺であるが、実はあれって不完全燃焼だったんだよな… みんな姿形の同じ奴ばかりだし、それどころか楽しめたのは最初の数人だけで、後はマイSONが自動でやっていただけだからな…


「ふふふ…」


 俺はぐっと拳を握り締める。


 前回のは、同じものばかり食うわんこそばの様な物…だが、今回のカーバル学園都市国家は様々な人種、様々な年齢、様々な性格、様々な見た目…大きい乳から小さい乳まで全てを取り揃えた、謂わば女の満・漢・全・席!! この席を用意されて喰わない男がいるであろうか…いやない!!(反語) 今回の一件は俺を査問するといいながら、実は俺に褒美を与える神の思し召し…いやおぼし飯に違いない!!(断言)フハハハハハ!! 食らい尽くしてくれるわ!!!


「ちょっと、イチロー…ワンコソバ?とか…マンカンゼンセキ?とか何よ… 一体何の事を話しているの?」


「えっ?」


 振り返ると、アソシエが意味が分からないと言う顔をして首を傾げている…また、俺の頭の中の妄想が駄々洩れだったのか?


「えっと、貴方…シュリだったっけ…貴方はイチローが何を言っているのか…分かる?」


 クリスの騒動か俺の大声のいずれかで、野次馬に来ていたシュリが、アソシエに捕まって質問される。


「えっ!? わらわか!?」


 シュリはアソシエに指名され目を丸くする。


「そうよ、貴方も直ぐ近くで聞いていたし、なんでもイチローの事を良く分かっているそうだから、あの言葉の意味が理解できるでしょ?」


「いや、確かにそなたの言う通りなのじゃが…主様の言葉をなんとなく分かったとしても…何というか…脳が理解することを拒んでおるというか…」


 シュリのその言葉に、アソシエはなんとなく察して目を細める。


「あぁ…今の貴方の態度と言葉で、イチローがどういう意味の言葉を言っているか分かったわ…」


「察してもらえると有難い… 口に出して言葉にすると、精神が汚染されるような気がするのでのぅ…」


 くっそ! 二人とも俺の事を言いたい放題言いやがって…


「別にいいだろ!! 今度は魔族側ではなくて人類側なんだから問題ねぇだろ!!」


「問題あるわよ!! 魔族側、人類側以前にモラルの問題でしょうが!! それに、種馬感覚で各国の王族や貴族の娘に手を出したら、別の意味で人類の敵認定されるわよ!!」


「ぐぬぬ…」


「何がぐぬぬよ!!」


 アソシエは俺に怒声を浴びせると、はぁ…とため息をついて頭を抱える。


「どうしたの?アソシエさん?」


 アソシエの怒声に二階の手すりからぴょっこりとミリーズとネイシュが顔を出す。


「やっとイチローが査問を受けに行く気になったのだけど…別の問題を起こしそうで…」


「でも、行かせない訳には行かないんでしょ?」


「そうなんだけど…はぁ… 私がついて行けるのならイチローの手綱を握れるのだけれど…この身体だから…」


 そう言ってアソシエはお腹を擦る。


「そう言う訳で…シュリ…貴方、何かいい考えはないの?」


「えっ!? また、わらわか!?」


「だって、なんだかんだ言って、最近のイチローの事を良く知ってそうだし…」


「それじゃったら、わらわよりもカズオの方が良く知っておるかも知れんぞ?」


 そうだ! シュリ! 逃げてカズオに振ってしまえ! カズオなら色々とやり方がある。


「あのオークの事ね、あのオークはダメ、イチローの言いなりになるわ」


 くっそ! 見抜いてやがる…


「だから、何かイチローを押さえつける良い方法を知らない?」


「とは言ってものぅ…わらわが知っている主様が頭が上がらなそうな人物は… そうじゃのう…今のところ、お主と、イアピースのカミラル王子…」


「ちょっと! シュリ何言ってんだよ!! カミラル王子に、カーバルに来ている他国の王族や貴族に手を出したのがバレたら、なまはげの様な恐ろしい顔して乗り込んでくるだろうが!!!」


 俺の怒声に、シュリもアソシエも驚いた様に目を丸くしていたが、互いに向き合って、次第に口角を上げてニヤつき始める。


 しまった!!! 自分でバラしてしまった!!


 俺はすぐに自分の口を手で押さえるが、もう遅い…


「シュリ! 学園でイチローが粗相をしそうになったら、すぐに連絡して! 私からカミラル王子に連絡するわ!!」


「わかったのじゃ! わらわも主様と共に全国指名手配されたくないからのう!!」


 シュリの奴…俺を裏切ってアソシエなんかに付きやがって…


「あ、主様…そんな恨めしそうな目で見られても…これも主様が人類の敵にならんようにとの配慮じゃ」


 俺はシュリに言い返そうと口を開くが、ぐっと押し黙る。


「まぁいい…道中いくらでも時間はある…その間にシュリを垂らし込むなり、シュリにバレない方法を使えば、いくらでも道はある!! って事を考えておる顔じゃ」


「ちょ!! おまっ!!」


 俺を指差すシュリに、俺の考えを一言一句違えずに読まれて、愕然とする。


「うん、それは私にも分かった」


 アソシエ!お前もか!!


 くっそ! なんだよ! 俺はカエサル状態じゃねぇか!!


「と言う訳で、イチロー、審問にぱっと行って、ぱっと帰っていらっしゃい、貴方の子供も待っているわよ」


 アソシエは含みのある笑顔でそう告げた。








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