第146話 浮気のバレた夫の気分

「はぁ~ 食った食った~ やはり、城でのちゃんとした食事は美味いなぁ~ 野外での食事は一品になってしまう事が多いが、ちゃんとした厨房で作った料理は色々と品数があって楽しめる」


 俺は久々に沢山の種類の料理が並んだ食事をとって、喰い過ぎでパンパンになった腹を満足に擦る。


「驚いたわ… 以前から骨メイドの作ってくれる料理は美味しかったけど、今日の料理は特に美味しかったわ…」


 貴族上がりで、舌が肥えているはずのアソシエが、素直な言葉でカズオの料理に感嘆している。


「旅の間の食事は、限られた食材じゃったので気が付かなんだが、カズオはまたしても腕を上げとるのぅ~」


 シュリがナプキンで口元を拭いながら、そう語る。


「しゅじんたまぁ~ 私達の作った野菜はどうだった?」


 ダークエルフの一人が、テーブルの上に身を乗り出して、俺に野菜の感想を尋ねてくる。


「おう、レタスはシャキシャキだったし、キュウリはコリコリだったし、トマトは濃厚でジューシーだったし、滅茶苦茶美味かったぞ!」


「わーい! しゅじんたまに褒められた~♪」


 俺が正直な気持ちを言葉にして返してやると、ダークエルフたちはもろ手を上げて喜び始めた。


 俺はパンパンになった腹を擦りながら、感慨な気分に耽ってその様子を眺めていた。


「しかし、不思議なもんだなぁ~ はじめは、俺とシュリとカローラと、後のカズオの四人の食卓だったのに、かなり人数が増えたなぁ…」


「最初は私、一人でしたよ…」


 俺の言葉にカローラがポツリと呟く。


 俺はその言葉にカローラに目を向けると、このカローラ城に人が増えたことに、まだ不服そうに頬を膨らませていた。


「まぁ、そういうなよ、カローラ。お前の苦手なレバーをこっそりと食べてやったじゃないか…」


「それはそうですが…」


 カローラはまだ納得しないのか、口を尖らす。


「まぁ、人が増えて落ち着かないとか鬱陶しいってのも分かるが、中にはお前の趣味友になってくれる奴もいるかもしれんだろ?」


「趣味友?」


「そうそう、何かにはまった時は、誰かと一緒に遊んだり、話し合ったりしたくなるアレだ、そう言えば…」


 俺はカローラと話をしていて、ある物を思い出して、懐をごそごそと漁って、目的の物を取り出してカローラに手渡す。


「イチロー様、なんですか? これ? 『クリーチャーメーカー』?」


「おう、ジュノーに寄った時に見つけたので、あまりにも懐かしさで買ってしまったんだ、俺たちがいつも遊んでいるカードゲームと違って、カードを買い足したりデッキを作ったりしなくても遊べる簡単なカードゲームだ」


 俺はカローラにカードゲームを手渡した後、テーブルで寛いでいるダークエルフたちに向けて声を掛ける。


「おーい! ちょっと、お前たち! カローラとカードゲームで遊んでくれないか?」


「はーい、ご主人様!分かりました~!」

「オッケーだ、主人! 望むところだ」


 ダークエルフたちは良い反応を返してくる。


「ちょ! ちょっと! イチロー様! 何言っているんですか!! わ、私、人見知りする方なので、まだあまり良く知らないダークエルフたちとは…」


 そう言って、カローラは俺の後ろに隠れようとする。


「だったら、尚更遊んで来い! お前は引き籠りすぎる、俺達や骨メイド以外に話が出来る相手を増やせ」


 そう言って、俺は駆け寄ってきたダークエルフたちの前にカローラを押し出す。


「今から、みんなで遊ばれるのですかい? でしたら、食後のお茶はとなりの談話室でなさりやすか?」


 カズオが骨メイドと後片付けをしながら尋ねてくる。


「あぁ、そうだな、談話室で寛ぎながらお茶にしようか」


 そう言って、俺が立ち上がろうとすると、すっと後ろから手が伸びて来て俺の両肩を抱きしめる。


「ダーリン…」


「お、おぅ…プリンクリンか…」


 食事中、気分が悪そうで寡黙だったプリンクリンが絡みついてくる。


「ゴメンねダーリン、昼間、部屋を尋ねてもらったのに、お話しできなくて… 私、少しつわりが酷くて、中々起きていられないのよ…」


「そうか…大丈夫か? プリンクリン…薬でも持っていこうか?」


 俺はチラチラとアソシエたちを気にしながらプリンクリンに答える。


「ありがとうダーリン、でもダーリンの赤ちゃんに悪い影響が出たらいやだから、我慢して、横になっているわ…じゃあね…ダーリン」


 そう言って、プリンクリンは俺の頬にキスすると自分の部屋へと戻っていく。その後姿に見送ってから、再び恐る恐るチラリとアソシエに視線を向ける。


「なによ、イチロー…私も同じ妊婦に何かしようなんて思わないわよ」


 そう言ってプイと横を向く。俺はその状況にホッと胸を撫で降ろす。


「フィッツよ、お主もお茶を飲むのであろう、わらわについてくるがよい」


「えっ!? わ、私なんかがお茶まで頂いていいんですか? シュリさん」


 声に視線を上げると、シュリがフィッツの手を引いて談話室へと連れていくところだ。俺自身はアソシエたちの三人が何やら話をしたそうなので、フィッツの相手を出来なそうだ。…そんなボッチになりそうだったフィッツにはシュリが相手をしてくれそうなので、助かると言えば助かるが、逆に俺はフィッツの相手をするという言い訳でこの場から逃げ出すことが出来なくなってしまった。


「さてと、イチロー…」


 気が付くとすぐ横にアソシエたちの姿があった。


「ちょっと、色々とお話したい事があるのですが…」


「一緒に、談話室に行く…」


「お、おぅ…分かった…」


 俺は今から指導室で説教を受ける生徒の様に、とぼとぼと三人の後についていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぅ~ やはり、ポチさんの上は最高です… しかも何だか弾力が増して気持ちいいです…」


「わう!」


 ポチの上に久々に横たわるミケ。


「フィッツよ、お主、恋愛小説に興味はないか?」


「えぇ、まぁ…その…すごく興味がありますっ!」


「では、わらわがお薦めの恋愛小説を教えてやるので読んでみるがよい!」


 向こうの本棚の所では、シュリがフィッツを恋愛小説友達に引き込もうとしている。あぁ、確かにフィッツはそんなのが好きそうだな…


「で、でででは…よ、よろしくお願いします…」


「はーい、カローラ様、よろしくです~」


「えええっと… 人数多めだから…た、宝までの距離は…は、八十でいいかな?」


「うん、いいと思う」


 あちらでは、カローラとダークエルフたちが、カードゲームをするところのようだ。なれないダークエルフ相手にカローラは緊張してカチコチに固まっている。アイツ、思った以上に内弁慶のへたれだな…


「さてと…イチロー…」


 アソシエは、本物の猫のようにハバナをあやしながら、俺を睨みつける様に話しかけてくる。


「は、はい…」


「シュリーナルや、カローラ、プリンクリンを調伏させたことはあのクリスから話は聞いているけど…」


「にゃぁ~♪」


「アレは何!!」


 そう言って片手でハバナの頭を撫でながら、とある人物を指差す。


「私はアルファーと申します」


「いや、貴方に名前を聞いているのではなくて、イチローに事情を聞いているの!」


 メイド服を身にまとい、ティーワゴンを押してきたアルファーを、アソシエが指差すと、そのままアルファーが答えた。


「え、えっと、俺のメイドです…」


「その前は!」


「敵でした…」


「にゃぁ~」


「どこの!」


「ベ、ベアールの…」


「やっぱり…」


 前のめりになって俺を問い質していたアソシエは、やっぱりという顔をして、身体をソファーの背もたれに任せて鼻を鳴らす。


「流石にイチロー様と言えども、ちょっと節操がなさすぎるのではないでしょうか…」


 ミリーズは困り顔をして頬に手を当てる。


「大小合わせて…16人もいた…」


「いやいや、俺もそこまで節操なしじゃねぇよ、小には手を出していない」


「にゃにゃ~」


「言い直す…大中小合わせて16人」


「…大の四人しか手をだしてねぇよ…」


 なんだかネイシュに誘導尋問されているみたいだ…


「大とか小とか関係ないのよ!! またしても人類の敵だった相手を垂らし込んでいるのが問題なのよ!」


 突然、アソシエがバン!とテーブルを叩き、先程まで、撫でられて気持ちよさそうにしていたハバナがビクッと身体を震わせる。


「イチロー! 貴方、自分の状況が分かっているの!?」


「これだけ元魔族側の人材を引き込まれていては…」


「イチロー… 人類の敵に寝返るかもって…疑われている…」


 アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人が真剣の顔でじっと俺を見つめる。


「え~ そんな事無いだろ…」


 俺は鼻の頭を掻きながら、少し引き気味で答える。


 そこにアソシエが、懐から手紙を取り出し、さっとテーブルの上に投げる。


「イアピースからとウリクリからの手紙よ…悪いけど、中身を改めさせてもらったわ…」


「えっ!? ちょっと、おま…」


 俺はアソシエの言葉に目を丸くしながら、手紙に視線を落とすと、確かにイアピースとウリクリの封蝋が為された手紙の封が切られていた。


「イチロー…貴方…イアピースのティーナ王女に手を出したんだって…しかも…ウリクリのマイティー女王まで…」


 そう言って、アソシエは顔を伏せ気味に肩をプルプルと震わせたと思うと、急に顔を上げて、俺に詰め寄ってくる。


「イチロー!! 貴方、これ以上に女王や王女に手を出していないでしょうね!! これ以上、女王や王女がいたら、私、第三夫人にすら入れなく成っちゃう… 夫人の立場なら納得できるけど…愛妾の立場なんて我慢できない…」


「アソシエ…今はそんな話じゃ無いでしょ…」


「ネイシュはイチローが好きだから…どんな立場でも良い…」


 この世界の有力者は第三夫人まで持つことが多く、その立場は公に認められる。しかし、第三夫人よりも下となると愛妾となり、公には愛人扱いになってしまう。だから、貴族出身のアソシエは俺の第三夫人になれるかどうか、非常に気にしているのだ。


 しかし、俺はどう答えればいいだろう…他に女王や王女とやってないかと聞かれたら、実はがっつりとやっている。まぁ、虫の女王のエイミーは敵側だったからまだしも…


「にゃぁ~♪」


 アソシエが膝の上で、本物の猫のように扱っているハバナは、獣人国とは言え一応マセレタの王女なんだよな… これは黙っておいた方がよいか? てか、さっきからペットの猫の様に扱われているけど、ハバナ…お前はそれでいいのかよ…


「イチロー、兎に角、駆け出しの冒険者ならまだしも、色々な意味で名の売れ始めた貴方が、こんな問題点を抱えたままなら、貴方の名声に嫉妬した連中から、良からぬ噂を広められて、人類の敵に祭り上げてしまうわよっ!」


 先程は自分の立場を心配しての発言であったが、今の発言は本気で俺の事を心配しての発言のように思えた。


「そうですよ、イチロー様、私のバックの教会の力を使っても、どこまで庇い立て出来るか…」


「ネイシュは、例えイチローが人類の敵にされて、追われる身になっても、どこまでもついていくから…」


 そう言って、三人は真剣な眼差しで俺を見つめた…


「だから、イチロー…これに目を通しておいて…」


 そう言って、アソシエは一通の手紙をテーブルの上に差し出した。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る