第145話 幼女パラダイス
アソシエたちとプリンクリンの様子を見終わった後、俺とお供の二人で城の中の様子に変わりがないかとザっと回って確認する。アソシエたち三人が増えただけの変化かと思えば、そうではなく、結構、城の中の様子が変わっている所があった。特に目立つ所と言えば、壁や壁紙である。
俺たちが出発する前は、プリンクリンの余計な善意によって、城の中が全て、プリンクリンの好きなピンク色に変えられて、よく言えば小さな女の子の好きそうなお城、率直に言えばラブホテル状態になっていたが、落ち着いた色の壁色や、シックな感じの壁紙に変更されていた。
これも貴族であるアソシエや、教会がバックについているミリーズがお金を出して改築したものと思われる。
「ま、まぁ…あの娼館の様に趣味の悪いピンク色よりかはマシですね…」
そう言ってカローラがぺたんこの胸を撫でおろしていた。
しかし…プリンクリンといい、アソシエたちといい、この世界の女は図太いというのか図々しいというのか… 人の家に勝手に来て、そして家主の承諾も得ずに内装を変えてしまうのが普通なのか? まぁ、俺もカローラ城を乗っ取ったので人の事を言えた義理ではないが…
そんな事もあって、一階部分に降りると、部屋を割り当てられたアルファー達が、部屋を整えたり、ここで暮らす準備をしたりで、忙しくしていた。
「アルファー、どんなかんじだ?」
「これはキング・イチロー様」
俺が声を掛けるとアルファーは手を止めて俺に振り返る。
「部屋の大きさとか、家具とかの調度品は足りてるか? 足りない物があれば言えよ」
「いえいえ、キング・イチロー様、我々は屋根があるだけでも満足しております」
アルファーは遠慮してそう答える。
「アルファー、お前たちはもう俺の仲間だ。卑屈になって遠慮するな、それにお前はそれで良くても、子供たちがいるだろ?」
そう言って俺はベータ達と準備をしている子供の幼体達に視線を向ける。
「そう言って頂けるとありがたいです、キング・イチロー様、実はもう少し日用品や衣料に余裕が欲しい所でした」
「やはりそうか、では、必要なものをリストにしておいてくれ、村に買出しにいくから」
「あっ! イチロー様だっ!」
俺とアルファーが会話しているのに気が付いて、子供たちがわらわらと駆け寄ってくる。
「こら! お前たち、今はベータ姉さんとお片付け中でしょ!」
「イチロー様!」
「イチロー様だっ!」
「だっこ! だっこして!」
子供たちはあっというまに俺の足元に駆け寄ってきて絡みついてくる。幼体達は最初会った時のアルファーの様なロボットのような機械的な反応ではなく、人間の子供のような反応をしてくる。ただ、俺に対しての好感度が高いのは、種族として、俺が種族の王であることが本能的に分かっているのだろう。
こうしてみると、ガキなんてぐずったり、びゃーびゃーと泣いてうるさいものだと思っていたが、子供の幼体達を見ていると悪くないというか、可愛いと思う。
「こらこら、お前たち、キング・イチロー様はお忙しい身、甘えてはいけません」
「まぁまぁ、少しぐらい良いじゃないか」
子供たちを窘めるアルファーにそう言って、俺は子供たちの頭をワシワシと撫でてやる。ポチをワシワシするのもよいが、女の子をワシワシするのも良いな。
「あっ、旦那、馬車の片づけが終わりやした」
俺が子供たちをワシワシしていると、馬車の片づけが終わったカズオが姿を現す。
「おっ、カズオが、馬車の片づけが終わったばかりで済まないが、城の骨メイドと一緒に晩餐の準備をしてくれないか? 馬車の移動であまり良い物を食わせられなかったから、こいつらに腹いっぱいに美味い物を喰わせてやりたい」
「キング・イチロー様、我々は生肉や生野菜で結構です」
「そういうなよアルファー、お前たちはもう蟻族の一個体ではなく、俺の仲間だ。ちゃんとした食事を憶えろ、それにこいつらにも美味い物を喰わせてやりたい」
そう言って、俺は更に子供たちの頭をワシワシする。
「そういうことでしたら、あっしも腕によりをかけて頑張りやすぜ!」
「ありがとうございます、キング・イチロー様、では、お前たち、夕食までに片づけを終わらせますよ」
アルファーがそう言うと、子供たちは俺から離れて、片づけに戻っていく。
「ばいばーい!」
「イチロー様、またねぇー!」
俺は片づけに戻るアルファー達を小さく手を振って見送る。
「さてと…主様」
「なんだ? シュリ」
アルファー達の姿が消えてから、同行していたシュリが声をかけてくる。
「次はどうするのじゃ? 出来ればわらわは畑の方を見に行きたいのじゃが…」
字ずらだけ見れば、老人の発言そのものだな… だか、シュリの姿を見るともじもじしながら付いて来て欲しそうな仕草をする。
「そうだな、ダークエルフたちの姿もまだ見ていないし、畑にいるだろうから、俺も畑にいってみるか」
「わーい! ありがとうなのじゃ!」
「カローラはどうする?」
なんだか、そわそわしているカローラに声を掛ける。
「私はまだ日が高いですし、他に気になるところがあるので、城に残ります」
「そうか」
そう言う事で、カローラは城に残り、俺とシュリの二人で畑の様子を見に行くことになった。
俺は畑に行くために、外に出て厩舎へと向かう。本館の裏手に回り、厩舎が見えて来て来ると、いつの間にか住み着いていた元ユニコーン、現バイコーンのケロースが俺の姿を見つけて肩を怒らせて歩み寄って来る。
「イチロー殿! これは一体どういう事だ!!」
「どういう事だって…何の事だよ? 挨拶より前に…」
俺は苦手なケロースに少し引き気味に答える。
「イチロー殿が連れ帰ったのはオスではないか!!」
ケロースが後ろ手に指差すとその先には、アルファー達の馬車を引いていた馬の姿があった。
「それがどうした?」
「どうして女性を連れ帰って来ぬ! 私はそんな趣味は無いぞ!!」
「知るかよ! そんな事! っていうか、なんで俺がお前の為に牝馬を持ってこなくてはならんのだ!!」
「不公平であろうが!! 自分だけは、あれだけ女を連れ帰って、私に対してはオスなどと… 義兄に対する誠意はないのかっ!!」
「ぎ、義兄って…」
ケロースが口角泡を飛ばしてくる。
「まぁまぁ、ケロースお兄様、人には馬の性別の見分けが難しいのでしょう、それより、イチロー様、長旅、お疲れ様でした、お帰りなさいませ」
ケロースの後ろから、ケロースの妹で元ユニコーン、現バイコーンになったユニポニーが俺たちのやり取りをころころと笑いながらやってくる。
「性別などモノを見れば一発で分かるであろうが、この節穴め! 私はこいつらの面倒など見んぞ! 勿論、妹にも見させない!」
そう言ってケロースはふんっ!と鼻を鳴らす。
確かに見れば一発で分かるが…分かるんだが…なんで、俺がケロースのハーレム要員を準備せんとならんのだ… しかし、まぁ、面倒を見ずに大事な馬を粗雑に扱われては困る…
「分かったよ… その馬を下取りに出して、ケロース、お前の気に入った馬を買って来いよ…それでいいだろ?」
「なんだ、話が分かるではないか! イチロー殿! ハハハ!それでこそ我が義弟だ!」
「うふふ、お兄様ったら」
こう見ると同じ義兄でもケロースよりティーナのカミラルの方がよっぽどマシな義兄に思える…
「それより、今から畑まで言ってくるんだが、馬を回してもらえないか?」
「あぁ、畑まで行くのか、アスカは今、蹄鉄を洗っている所だから、レイを連れていくがよい」
そう言って、ケロースはスケルトンホースの一頭を連れてくる。アスカとレイって…エ…まぁいい…
「では、わらわと主様で二人乗りをするのじゃ! まぁ、白馬ではなく、白骨馬というのがアレじゃが…いいじゃろう」
シュリがなんだか乙女チックな状況に喜んでいるが、お前、本当に白骨馬でいいのか?
「お主は何を言っておる」
「は?」
そんなシュリにケロースが言い放つ。
「お前のような処女臭い者に、レイを跨がせるわけには行かぬ!」
「な、何をいっておるのじゃ! お主は!!」
ブレねぇな…ケロース…しかし、バイコーンがよくドラゴン相手に言ってのけるな…
「お前はほれ、あれに跨っておればよいのだ」
「わう?」
そう言ってケロースが指差した先には、訳の分からない顔をしたポチの姿があった。
「あ~ ポチか… 太ったアイツを痩せさせるためにも、運動させないとダメだな… シュリ、お前はポチに乗ってついてこい」
「えぇぇ~!? あ、主様…そんな…」
「お前が餌をやり過ぎたせいでポチが太ったんだろうが…」
俺とシュリのそんなやり取りをケロースがニヤニヤと眺める。
「ギギギ…相分かった…」
シュリはそう答えると、項垂れて、トボトボとポチの所に向かう。
「ほれ…ポチ…畑まで行くぞ… しかし…くやしいのぅ…くやしいのぅ…」
「わう!」
俺とシュリが畑まで続く畦道を駆けていくと、段々、畑の光景が見えてくる。
「おぉ~!」
ケロースに貶されてぐずっていたシュリだったが、目の間に広がる光景に顔を輝かせる。
「主様! 見てくれ! 畑が生茂っておる!」
そう言って、シュリが指差す先には、出発前には黒々とした土しか見えなかった畑が、葉が茂って青々とした光景が見えてくる。
「ダークエルフたちが頑張ってくれたお陰だな、ちゃんと礼を言うんだぞ」
「分かっておる! 主様!」
そして、俺たちが畑の際まで近づくと、俺たちの存在に気が付いたダークエルフたちが、畑の繁みの中からぴょこぴょこと顔を出す。
「あっ!主人ちゃまだ!」
「主人ちゃん!」
「おかえり~ しゅじんたまぁ~!」
あぁ、そうだった…こいつらも俺をそれぞれ変な呼び方をするんだったな…
「おやおや、シュリちゃんにその男前の旦那さん、おかえり、お久しぶりですのぅ~」
シュリの畑友達の老婆も畑の中から顔を出してくる。
「おぉ! 御ばば様! ひさしいのぅ! わらわがおらん間に畑の世話をしてもらったようで、ありがたいのじゃ」
「いやいや、わしは何もしとらんて、あの娘たちが頑張ったからじゃ」
そういって老婆は畑から次々と出てきたダークエルフたちに視線を向ける。
「おぉ、おぬし等もありがとうなのじゃ!」
「いえいえ、私たちも手持無沙汰でしたので、畑仕事は楽しかったです」
そういって、俺たちの前に姿を現すダークエルフたちであったが、その姿をよく見ると、お腹が少しぽっこりし始めている。あぁ、マジこいつらも孕んでいるのか…
「婆さん、シュリのいない間の畑の事や、ダークエルフたちの面倒、ありがとうな、後で何か土産でも届けさせるよ」
「ほんとまぁ、良い旦那さんだことね、シュリちゃん」
「主人君、私の育てたナスだ、いいナスだろ?」
「しゅじにぃ~ わたしのトマトも見てぇ~♪ 可愛いでしょ?」
「主人、わ、わたしのキュウリも悪くはないでしょっ?」
ダークエルフたちが収穫した野菜を抱えて俺に自慢してくる。
「おぉ、良い野菜だなっ、今晩は帰還の宴をするつもりだから、早速、お前たちの野菜を使わせてもらうよ」
そうして、ダークエルフたちと俺たちは籠いっぱいの野菜を抱えて城に戻ったのであった。
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