第143話 さすがに骨盤輪は無理だわ

 なんで、アソシエがこのカローラ城にいるんだ!?(0.152秒)


 もしかして、俺は幻術でもかけられているのか? それとも、他人の空似?(0.237秒)


 だが、俺の名を気安く『イチロー』と呼び捨てにする事や、貴族だけあって少々気位のっ高い態度はアソシエそのもの…(0.375秒)


 では、今、俺の目の前にいるのはアソシエで間違いなのか!? ここがカローラ城と分かった上でいるのか!?(0.431秒)


 まずい!! それはかなりマズい!!(0.444秒)


 カローラ城を根城にしていることがバレてしまってんじゃん!!(0.528秒)


 前回のマイSONが無くなった時に、ネイシュと来た時は気が付いていなかったが、一緒に討伐しようとしたカローラが、幼女の姿になったがまだ生きているし(0.599秒)


 そもそも、魔人のプリンクリンもいたはず!!(0.674秒)


 もしかして、ここにいたはずのプリンクリンはどうしたんだ!?(0.721秒)


 勝ち気なアソシエの事だから、もしかしてプリンクリンを倒してしまった!?(0.801秒)


 そうだと、流石に俺でも寝起きが悪いぞ!!(0.836秒)


 しかし、どうする!? 元々俺の仲間だし、俺の子を産んでいるアソシエと敵対することなんて出来ないし(0.902秒)


 しかも後ろには、ついこの前までべアールで猛威を振るっていた蟻族の連中もいる!!(0.993秒)



 俺は脂汗を流し、顔を青くしながら、猛烈に頭を回転させて固まる。


「どうしたんですか? イチロー様?」


 そんな俺の後ろから、問題のカローラがひょっこり顔を出す。


「前に会いに来た主様の愛妾がきたんじゃよ、カロー…」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 俺はカローラの名前を出しそうになるシュリの言葉を大声を出して遮る。


「なっ! なに大声を出しているのよっ! イチロー! それより、後ろにいる女の子達は誰なの!?」


 アソシエは目を怒らせながら、ツカツカと俺に近づいてくる。


 マズい!! 気の早いアソシエにカローラやアルファー達の存在がバレたら戦闘が始まる!! どうする!? どうすればいいんだ!?


「あっ! やっぱり、イチローだっ! イチローがいるっ!」


 玄関広間の吹き抜けの二階から、聞きなれた声が響く。


「あら、本当、イチロー様だわ、おかえりなさいイチロー様」


 再び、別の聞きなれた声がその横から響く。


「えっ!? あっ? えぇぇ!? ネイシュ… そしてミリーズまで…どうしてここに!?」


 二階の手すりから身を乗り出して手を振るネイシュとミリーズの姿がそこにあった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「いくら私でも、手当たり次第になんでもかんでも討伐したりしないわよ…というか、イチローは私の事をそんな風に思っていたの!? 心外だわ…」


 アソシエは頬を膨らませながらそう愚痴ると、骨メイドの煎れたお茶を啜る。


「前回の部位欠損の回復の時に、周りの仲間の事も含めて、イチロー様の事が気になったからネイシュちゃんに調べて貰ったのよ」


 となりのミリーズがにこやかな口調で説明する。


「うん…暗殺の仕事より簡単… イチローの事だからネイシュ頑張った…」


 ネイシュは、少し嬉しそうな顔で、ぽつりぽつりと呟く。


「でも、ネイシュに頼まなくても、イチローは目立つことばかりしているから、すぐに色々と分ったんだけどね…」


 アソシエはそう言うとティーカップを降ろして、俺とシュリ・カローラをギロリと睨みつけ、俺はその眼差しに肩を竦める。


「私に会いに来た女の子が、普通の女の子ではない事は一目見て分かったけど、まさか破壊の女神と呼ばれていた、あのシルバードラゴンだったとはね…」


 そう言ってミリーズはくすくすと笑いながらシュリを見る。するとシュリは笑いながらミリーズに小さく手を振って返す。緊張感の無い奴め…


「で、そっちのプリプリの幼女が、私たちと死闘を繰り広げて逃げられた、鮮血の夜の女王のカローラなんでしょ…」


 アソシエはミリーズと違って、じっとカローラを睨むと、カローラは『ひっ!』と小さな悲鳴を漏らすと俺を盾にするようにしがみ付く。


「ここに来た時… ウリクリを荒らしていたプリンクリンもいて… びっくりした…」


 アソシエの言葉に、ティーカップを両手で持って啜っていたネイシュが付け加えるように呟く。


「破壊の女神シュリーナルに、鮮血の夜の女王カローラ、魔人将軍のプリンクリン…それにダークエルフたち… 私が目を離した隙に、どれだけ無茶苦茶しているのよ!」


 ここで怒りを堪えていたアソシエは我慢できなくなって、声を荒げ始める。


「しかも、プリンクリンとダークエルフたちは、皆、イチロー様によって妊娠しているようですし…」


 ミリーズはおいたをした子供の事を離す様に、少し困り顔で付け加える。くっそ、妊娠させたこともバレていたのか…まぁ、みたらすぐわかるが…


「はっ! もしかして、そこにいる二人の幼女を妊娠させているの!? 帰っていた時も、小さな女の子を何人も連れて来ている様だったし… イチロー! 貴方、ロリコンになったの!?」


「なってねぇよ!!」


 ドン引きしているアソシエに、流石に俺も言い返す。ここで言い返さないと俺の沽券にかかわる。


「そもそも俺はまだ腰にくびれのない女は女として認めてない! 見ろよ! 二人の寸胴ボディーを!! 特にこいつは、肝心な穴が無くて、クソ穴しかねぇんだよ!!」


 俺は隣のシュリを指差して叫ぶ。


「イチローなら、そっちでも大丈夫じゃないの?」


「そ、そうじゃったのか!? 主様!!」


 アソシエの言葉にシュリが驚いた顔をして俺を見る。


「しねえよ!! てか、なんでシュリが驚いてんだ!! いつも俺が散々言ってんだろ!!! はやくクソ穴以外を作れるようにしろって!!」


「そう言えば…城の中にいっぱい骨のメイドがいた…」


 そう言ってネイシュがお茶を入れた骨メイドを見る。


「ま、まさか!? イチロー! あんな骨にまで手を出しているの!!」


 ネイシュの言葉にアソシエが驚いてドン引きした顔で俺を見る。


「出してねぇよ!! そもそもあんな骨のどこに突っ込めばいいんだよ!!」


「えっと、骨盤輪とか閉鎖孔とか?」


「どこだよそれ!! いくら俺でもそこまで節操なしじゃねぇよ!!」


 ホントに骨盤輪とか閉鎖孔とかどこだよ!!


「でも、イチロー様って…」


 ミリーズが何かを思い出しながらポツリと声を漏らす。


「私たちと一緒にいた時に、成りたてのグールやゾンビの女の子を物欲しそうな目で見ていたことがあったわね…」


 ギクリ…


「そう言えば、主様は死体の熟成具合によるってのを言っておったのぅ~」


 シュリがクソ穴の事を言われた仕返しと言わんばかりに、ニヤリと零す。


「やっぱり!!」


「しねぇよ!! 俺もそこまで飢えてねぇよ!! こら! そこの骨メイド! 怯えんなっ!」


 顔を顰めるアソシエに、俺は立ち上がって声を荒げる。


「そもそも、なんでお前らが、もともとのここの住民と言わんばかりに寛いでんだよ!! ロアンのパーティーはどうしたんだよ!!」


 アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人は、冒険する時の衣装ではなく、今はゆったりとした私服を着ている。また雰囲気も敵の根城を探索する時のような、張り詰めたものではなく、実家の安心感に包まれている様な緩み切ったものである。


「ロアンさんのパーティーは…」


 ミリーズが俺の指摘に、言い難そうにどもる。もしかして、ロアンが死んだのか!?


「みんな、引退してきた」


 ミリーズの言葉に続いてネイシュがポツリと呟く。


「はぁ?」


 ネイシュの信じられない言葉に耳を疑って固まる。


「まぁ、これはイチロー様のお陰もあるかしら…」


「どういうこと?」


 ミリーズに尋ねる。


「私が説明するわ、イチロー、貴方がカイラウルとイアピースの国境沿いのシュリーナルを排除して、イアピースのカローラを倒して、その後、獣人連合も人類側に加盟させ、ウリクリのプリンクリンまで倒したから、この大陸の南東方面は人類側にとって安全地帯になったのよ」


「いやいや、まだまだ大陸の南東だけだし、カイラウルには魔人キサイトがいたはずだろ?」


 そう言えば、最初にキサイトを倒しに行くって言ってて忘れてたな…


「キサイトなら、引退する前の最後のお勤めという事で、ロアンと一緒に倒してきたわよ」


「それに大陸の西側はセントシーナの援軍がベルクードに入ったようですから、魔族戦役はもう私たちが頑張らなくても大丈夫じゃないでしょうか?」


「うんうん」


 アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人はあっけらかんと言い放つ。


「じゃあ、ロアンは無事なのか?」


「えぇ、私たちが引退する時は、何か思う所があったようですが、ご健勝ですよ」


「ロアン、唇を噛み締めてた…」


 俺はロアンから追放された身分であるが、これは気の毒すぎる… 追放した俺に全員がついていくと言えば、唇を噛み締めたくもなるだろう…


「でも、なんで今更引退しようなんて思ったんだ?」


「そ、それは…」


 アソシエがちょっと恥ずかしそうに赤面する。


「私たちの産んだ子供をイチロー様に見せたかったのと…」


 ミリーズはそう言いながらお腹をさする。


「私たち…二人目を妊娠した…」


 前にロアンのパーティーにいた時は、無表情が多かったネイシュが嬉しそうな顔をして答える。


「えぇぇぇ!?」


 俺はすっとんきょうな驚きの声を上げて三人を見る。すると三人は愛おしそうにお腹を擦っている。


「何を今更、驚いておるのじゃ、主様よ… あの時の馬車での情事を忘れたとは言わせんぞ… あのお陰で、馬車で休めず、外で寝泊りしたおかげで、わらわはあちこち虫に噛まれて痒い思いをするわ、カズオに至っては、その後の虫刺されの薬で変な事を憶えるわで、大変じゃっただろが…」


「いや…俺もそこまでするつもりは無かった…一回だけ試すつもりだったけど… 止められない止まらないかっぴえびせんのような物で…」


「まぁ、あれだけすれば、二人目のややこが授かっても不思議ではないじゃろうて」


 そう言ってシュリは呆れたようにため息を漏らす。


「兎に角、イチロー、私たちの子供に会ってよっ! 私の赤ちゃんなんて赤ん坊になったイチローみたいで凄く可愛いわよっ」


 そう言って三人が微笑みかけてきた。


 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る