第131話 反攻作戦

 エビフライの一件の時に、サイリスはアルファーとベータと話をしていたようだ。で、なんとか次の作戦が決まったと告げに来たので作戦会議が行われることになった。


 俺は前回の会議と同様に上座の席に座り、俺に後ろにはアルファーとベータが控えている。ちなみに、今回は会議前にサイリスから土下座されそうな勢いで、「おやめください!」とか「会議中はお控えください」と何度も頭を下げられたので、乳枕はやっていない。残念だ…


 会議室の会場には、普段の城壁の担当者だけではなく、下級の隊長レベルまで集合している。それだけ、今回の作戦は、全兵士を動員する重要作戦なのだ。


「そろそろ、作戦概要を説明したいのだが、皆ものよいか?」


 上座の議長席からサイリスが皆に告げる。会場の兵士たちは、前のめりの姿勢へと変えていく。


「では、説明していく。認定勇者のイチロー殿が屈服させた、元、敵将のアルファーとベータの情報から、敵の軍は、総力戦を仕掛けてくるつもりだ。しかも、地下に坑道を作り、ここの本部を直接、地下から急襲するつもりである」


サイリスの説明に、会場の兵士たちからざわめきの声があがる。


「敵との総力戦になることは、アルファーの屈服時に情報を掴んでいたので、我々はここを放棄し、ウリクリや後方都市に退却するつもりであったが、その分の兵糧が足りずに、その兵糧を得るために行ったのが先日の作戦である。しかし、思った以上の成果を得る事が出来ず、逆に、退却に要する時間を失ってしまったのだ。その時に捕らえたこちらのベータの情報では、敵の総攻撃の時間は後一日から二日ほどしかない」


「一日から二日!?」


兵たちからのざわめきがます。


「そうだ、もはや、我々には敵の総攻撃に耐える設備も軍勢も足りず、逃げ出す時間も、また逃避に使う食料もない。逃げ出しても途中で野垂れ死にするだけだ。だがしかし!!」


 サイリスは力強く叫ぶ。本来であれば悲嘆にくれ、泣き出しそうになる内容であるが、皆、固唾を呑んで、サイリスの次の言葉を待つ。


「今まで、一方的に押されて、食われる存在であった我々であったが、逆に敵側に攻勢を掛け、食う側に回る、『カルネアデス作戦』を実施する! 詳しい内容はこちらのベータから説明をする。ベータ頼めるか?」


「あふぅ~」


サイリスから指名されたベータであるが、少し高揚した顔で俺を見つめながら立っている。


「ベータ? おい、ベータ、お前の説明の番だぞ!?」


 俺は振り返ってベータに声を駆けるが、ベータは潤んだ瞳で俺をみつめている。えっ? また、おかしくなっているのかよ?


その様子を見て、アルファーはつかつかとベータの後ろに回り、無言でガシッと頭を掴む。


「はぁっ!? 私は今まで何を! …説明でしたね。今から、私が作戦概要について完ぺきでビューティフルな説明いたします!(キリッ)」


「おいおい、アルファー、ベータは大丈夫なのかよ… 通常時でもなんかおかしいぞ?」


「…大丈夫です… 多分?」


「いや、なんで疑問形で答えるんだよ…」


しかし、皆の視線と時間が差し迫っていることもあって、そのまま、ベータに説明をさせる。


「それではこのベータお姉さんが皆さんに解説いたします。我らがキング・イチロー様の敵は地下に坑道を掘って進んでいますが、それぞれの坑道には担当区域と言うものがあって、私の様なジェネラル級が中心におり、そこで、貴方たちが良く知るドローンという虫の軍勢を生産しております」


 出だしがなんか変だった気がするが、ちゃんとベータは説明をし始める。ベータは次に皆に見せる様に張り出された地図の所へ進み、説明を再開する。


「私が管理していたのは、ここの食料備蓄所でしたが、最前線は、ここから少し離れた、この地点まで進んでおります」


そう言って、ベータは指示棒を使って、ここの本部と敵の最前線地点を指し示す。


「結構近いじゃないか…」


その地点を見て、兵たちから声が上がる。


「ドローンは他のジェネラル級でも近場にいれば、コントロール可能ですが、基本、自分を生み出したジェネラル級に従います。そして、そのドローン生産は区画の中央部でジェネラルが行いますが、幼体のドローンには、適度な湿度と換気が必要なため、その中央部には、換気の為の煙突状の蟻塚を形成いたします」


ベータは別の図面を指し示して説明する。


「えっ!? 遠くに見えてたあれって、虫の煙突だったのか!?」


北側の城壁の守備をしていた兵から声があがる。もう見える距離まで来ているんだな。


「なので、今回の作戦では、その煙突を使って、区画の中央部を急襲し、敵、ジェネラルを

わからせ…わからせ… 私もまた、わからせ~」


 話の途中でまたベータがおかしくなり始め、それを見て、アルファーがベータの所に行き、無言で頭を掴む。


「敵、ジェネラルを制圧。その後、コントロールを奪ってドローンを無力化または処分してきます。そして、そのまま坑道を遡っていき、女王区画まで到達し、女王をわ、わ、わからせ…制圧致しますぅ~」


 アルファーが頭を掴んだまま、ベータの説明が続けられる。いや、もう説明役かわれよと言いたい… 


「一応、補足説明をしておく」


そう言ってサイリスが立ち上がる。


「一気に敵の女王への急襲も考えたが、他のジェネラル級を呼び寄せられたり、また時間がかかって、敵の坑道がここの本部に到達する恐れがあるので、一番近場の拠点から急襲することとなった」


 サイリスはそう補足をいれながら、ちらちらとアルファーを見ている。おそらく、解説役を交代しろと意思表示しているのであろう。


「アルファー、解説役替われるか?」


俺はアルファーに声をかける。


「分かりました。キング・イチロー様、以後、解説は私が行います」


アルファーはあっさり答える。では、最初からしろよ…


アルファーはベータから手を放し、兵士たちに向かって解説を始める。


「ジェネラル級の制圧、また最終的な女王の制圧はキング・イチロー様と私やベータが行います。皆さまには、他のジェネラル級が来て、ドローンのコントロールを奪い返されない内に、ドローンたちの処分をお願いしたいのです」


「あぁ、あの美味い奴だな…」

「新鮮な奴を取り放題ということか…」


 アルファーの言葉に兵たちはそのように言葉を漏らす。先ほどのエビフライの一件以来、兵たちの虫に対する認識は、ただの害虫ではなく、食材に変わりつつある。つまり敵を倒せば倒すほど、美味い食事にありつけるのである。


「また、キング・イチロー様率いる殴りこみ部隊は、出来るだけ一直線に女王へ向かいます。なので、道を外れたジェネラル級は放置することになります」


解説役を替わって、暇になったベータが俺の後ろにやってくる。


「なので、皆さまには他のジェネラルが繋がる脇道の閉鎖も合わせてやっていただく事になります」


 ベータが俺に胸枕をしてくる。それを見たアルファーがこちらにやってきて、ベータの頭を掴む。


「決して、皆さまはジェネラル級と戦おうとはしてはなりません。ジェネラル級が見えた時は即座に退却して下さい」


 アルファーはベータの頭を掴んだまま解説を続ける。なんか、サイリスがじっと俺の方を睨んでくる。いや、これ、俺が悪いのか? ベータが勝手に…って、ベータをおかしくした俺のせいなのか? しかし、これがあるからアルファーではなくベータが解説を行っていたのか…


「ちょっと、いいか? そのジェネラル級はほっておいて大丈夫なのか?」


兵の一人が質問する。


「はい、ドローンがジェネラルに従うように、ジェネラルも女王に従います。なので、時間勝負になりますが、キング・イチロー様が女王を制圧すれば、放置したジェネラルも無力化します。女王はただ一人なので、他の女王にジェネラルがコントロールされる心配はありません」


「そうです! キング・イチロー様ただ一人が我らの主です!(キリッ)」


頭を捕まれたままのベータが声をあげる。もう、これはダメかも知れんな…


「作戦概要は以上だ! 皆の者、作戦の準備にかかれ!」


サイリスが会場の兵たちに決戦の檄を飛ばした。

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