第115話 俺達の役割

「ふぅ~ 腹はふくれたなぁ~」


 まぁ、ここの食事はカズオ飯と比べると数段味は落ちるが、腹は膨れた。危なっかしい味付けをしていたカローラは見るに見かねてカズオがちゃんと味付けをしてやったようだ。それでもいつもカズオ飯を食べているので、味に関しては不服そうな顔をしていたがなんとか食べきったようであった。あと、カローラが食べている姿を見て、後から入ってきた者たちが、なんで幼女がこんなところにいるのかと首を傾げていたが、俺や、サイリスの姿があったので、納得していたようだ。


「ふぅ、ひさびさに材料が多めの食事を取れたので有難いです。これも物資を運んでくださった、イチロー殿や、ウリクリの皆様のお陰ですね」


サイリスが口元を拭いながら、俺に礼を言ってくる。


「いつもはもっと薄いのを食べていたのか?」


「はい、籠城がいつまで続くか分かりませんからね、漁で取れる魚介以外は量を制限した食事でした」


こう言うときに海岸線の場所は籠城戦に有利だな… まぁ、魚だけだが…


「で、話は変わるが、敵が襲来した時に、尖塔のてっぺんで待機という話は聞いたが、それ以外の時は俺たちはどうしていたらいいんだ?」


「ん~ そうですね。イチロー殿たちの御一行はどこかの部隊に所属する立場でなく、私のオブザーバーという事になりますから… 強いて言えば、私の相談役ですかね…」


「そんな、ふわっとした立場でいいのか? ちなみに他の部署の所属ならどんな感じなんだ?」


「まぁ、表向きはそんな理由ですが、実際の所、いざ実戦という時に、イチロー殿たちが疲れていて実力を出せない状態だと困ると言うのが本音ですね」


 あぁ、なるほど、実戦で俺がヘマしても俺に言い訳させないってのもあるし、自分が責任を取らされるとか揚げ足取りされないための立場か…


「で、各部署の仕事ですよね。それぞれの部署は大体三交代制で、仕事、睡眠、自由時間のローテーションですね。私の直属の部下の北側は常時城壁に詰めて、即敵に対応出来る様にしております。西側は難民地域までの城壁の増築工事ですね。南と東は城壁に詰めるのと街や難民キャンプのパトロールですね。あとは釣りをして食料確保でしょうか… また、魔法が使えるものは食事の準備の手伝いですね」


 なるほど、普通のありきたりな内容だな。下手に訓練して、いざという時に疲労していたら戦えないからな。


 しかし、西側の増築工事って、結構疲れるはず… それで担当者が次々と死んであのヤンキーが担当者になっているのか… 


 あと、サイリスは絶対に口にはしないだろうが、難民の口減らしも兼ねていたのだろう… 籠城状態で難民の分まで食料を回すのはかなり厳しいはずだ。かと言って食わせない訳にはいかない、だから、志願兵主体の西側はそんな扱いをしているのだと思う。本部の汚れ切った状態も難民から掃除する人を雇えばいい話だが、それをしないのは出来るだけ難民と関わりたくないという表れだな。


 サイリスは昼行燈みたいにぼさぁっとした印象を受けるが、こいつ結構腹黒い策士かもしれんな…


「しかし、なんで魔法が仕える奴が料理の手伝いなんてするんだ?」


俺はサイリスの最後の方の言葉が気になって聞いてみる。


「あぁ、籠城戦が続いているので、焚き木などの燃料も底をついているのですよ。だから、煮炊きする焚き火の代わりに魔法が使える者が手伝っているんです。本当は虫の翅を焼く大切な魔法使いですが、食あたりして全員動けないよりマシですからね…」


 薪がないなんて、見た目以上に困窮していたんだな。そもそも、この地域は低木しか育たないようだから、特に薪は貴重な燃料だろう。


「そういった感じですね。なのでイチロー様たちは、私の目の届く範囲でいてもらえると助かります。その範囲でいるなら自由にして頂いて結構ですよ」


「あぁ、分かった。その代わり、敵が来た時には頑張れという事だな」


 まぁ、俺はサイリスの顔を立てるためにも、サイリスの近くにいた方が良さそうだな。俺がうろうろしていたら、サイリスの立場が悪くなりそうだ。見た目が少女と幼女のシュリとカローラは部屋や馬車に引き籠っていても何も言われないだろう。俺はカズオを見る。


「あっしは、台所で料理の手伝いでもしようと思いやす」


「そうか、頼むぞ」


 俺の視線に気付いたカズオがそう答える。俺たち全員がぶらぶらするのも世間体が悪いからカズオだけでもここの手伝いをしておけば、世間体は悪くならないだろう。


「ところで、イチロー殿、あのハネアリ見たいな敵以外を見たことはありますか?」


「ん~ 俺がここに来るまでに戦ったのはハネアリみたいな奴だけだったな…」


「では、イチロー殿にお見せしたいものがあるのです。この後、時間はありますか?」


普段は何を考えているのか分からないサイリスの顔が少し真剣な表情になる。


「あぁ、大丈夫だ」


「では、イチロー殿には、イチロー殿にお任せしたい真の敵の姿を御覧頂きたいのです」


真の敵って… まさか、防衛計画に邪魔だと考える市長のハニバルとかじゃねぇよな…


「イチロー殿はノブツナ殿の活躍はご存じでしたよね?」


「あぁ、確か、単身で敵の本陣に乗り込んで敵の大将を捕まえて来たって… それの事か?」


「はい、それの事です」


 よかった~ 邪魔な人間の暗殺とかの話じゃなくて。…ロアンのパーティーにいた時は全て断っていたが、本当にたまに暗殺の依頼とかあるから困る。


「地下室の牢獄に捕らえてあるので、この後、一緒に見て頂けますか? そして、イチロー殿には今後、その大将を討ち取って頂きたいのです」


「分かった、俺も敵の大将がどの様な者か直接見たい、いい機会だ」


 しかし、サイリスと話をしていて、少し頭の中で引っかかる事というか、なんだか少し違和感がある。


「しかし、なんでまた生かしているんだ? そもそも、ノブツナ爺さんも捕らえるなんて面倒な事をせず、切り殺せば良かったのに…」


 俺は小さく呟く。そうだ、倒せばよいのになんで生かしているのか、そこが俺の感じていた違和感だ。人間相手の戦争なら、情報を引き出したり、休戦協定や戦後捕虜交換に使えるから、敵将を捕らえて捕虜にするのは分かる。がしかし、言葉の通じない虫の大将なんて…


俺はそこではっと気が付く。サイリスは俺の何か気が付いた様子にニヤリと口角をあげる。


「実際見てみれば、その理由が分かりますよ…」


俺はその言葉に小さく頷いて、サイリスの後に続き地下室へと向かった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る