第114話 ここでの食生活

 ハルヒとの話し合いは終わり、ハルヒ、シュリ、そして建物の中に置いときにくいポチが馬車の方で、暫く暮らす事となった。シュリは俺に対しての警護とハルヒと身の回りの世話をするらしい。あいつ、人間の世話なんて出来るかのよと思ったが、シュリの昔話でシュリの姿の元となった少女と一緒に暮らしていたし、時々、骨メイドも手伝ってくれるとの事なので、大丈夫だろう。


 という事で、本部の部屋の方には、俺とカローラとカズオ、それと骨メイドとフィッツが常駐する事になるのか。


 俺はそんな事を考えながら本部の部屋に戻る。もう扉の前からして、かなり綺麗になっているな。そして、俺は扉を開け放つ。すると、部屋の中は最初見た時と比べ物にならないぐらいに清掃されていた。思わず、あの曲が頭の中に鳴り響くぐらいだ。


「かなり、綺麗になったな…」


 俺は部屋の中を見回しながら言葉を口にする。薄汚れていた壁も窓も床も綺麗に清掃されており、床に至ってはワックス掛けまでしているようだ。ベッドもいつ洗ったのか分からない状態から、いつも俺たちが使っている綺麗な毛布がかけられている。恐らく、これは馬車の中の予備を持ってきたのであろう。


「ホノカに言わせれば、これでも及第点だそうです、イチロー様」


 テーブルセットの椅子にちょこんと座っていたカローラが答えてくる。それに合わせて、カローラの後ろの骨メイドがコクコクと頷く。


「あれ? 骨メイド一人か、もう一人は馬車の方に行っているのか? それにフィッツはどこいった?」


「ナギサの方は、部屋だけでなく、私の移動範囲を徐々に掃除していくようです。だから、恐らくその辺りを掃除しているはずです。フィッツはイチロー様が戻ってくるまでその手伝いですね」


 この汚い本部の状況に骨メイドのメイド魂に火が点いたようだ。それに付き合わされるフィッツも気の毒だな… とりあえず、俺が戻ってきたことで、骨メイドのホノカはフィッツと交代するためにもう一人の骨メイド、ナギサの所に向かった。


「旦那ぁ~ ちょっと、いいですか?」


今度はベッドに腰を降ろしてきたカズオが声をかけてくる。


「どうした? カズオ」


「あっしも、ここで待機しておかないといけないですかね? なんだか手持無沙汰で…」


 カズオも結構、馬車の中では結構、色々と働いているからな、じっと待っているだけなんて暇でしょうがないんだろう。


「まぁ、骨メイドが働いているのを見て、お前も何か仕事をしたくなったのも分かるが、ちょっと待て、俺が上の人間に問い合わせてみる。今日は準備日として自由時間を与えられただけだからな」


「あぁ、そういう事でやすね、あっしにもそのうち用事が言われる訳でやすね」


俺がカズオに答えていると、扉の方からフィッツが疲れた顔で現れる。


「あぁ、フィッツ、骨メイドの手伝いをさせられていたらしいな、お疲れ様」


「いえ、大丈夫です。掃除に使う水を運んでいただけですから」


いや、それ結構重労働だぞ…


「じゃあ、しばらく休むか?」


「いや、そろそろ夕食の時間ですので、食堂になっているあの会議室に向かってもらえますか?」


「イチロー様、シュリ達を呼んでくる?」


カローラがシュリを呼んでくるかと聞いてくる。


「いや、シュリとハルヒは馬車で食事を採るそうだ。俺たちはここの食事を採るぞ」


しかし、あの会議室か… あの小汚い会議室の状態なら食事の内容も期待は出来ないな…


 俺たちはフィッツの案内で、あの小汚い会議室へと向かう。戦時下で余裕のない状態だから混んでいるかと思ったが、それ程混んでなく、俺たちはササっと会議室に入ることが出来た。


 そして、俺は会議室内の様子を見渡す。どうやら、食事は給仕が運んでくる形式ではなく、学校給食の様に、食器を持って順番にならんで各々食事を分けてもらって、食べていく形式であるようだ。


「イチロー様の分は私が取ってきましょうか?」


フィッツが俺を見上げて申し出てくる。


「いや、大丈夫だ。食事で並ぶぐらいなんでもない」


 そう答えて、俺は食事の列に並ぶ。まず、最初にトレーを持って食器を置くみたいだな。俺はトレーを持ち、次に食器の並べられた場所を見る。するとディナープレートなどなく、大きめのスーププレート一種類だけ置いてある。あとはスプーンとカップだけだ。


 俺はスーププレートとスプーンとカップを取って、列を前に進む。すると、パン置き場など無く、目の前の汁物だけで食事は終わりの様だ。戦時下だからしょうがないとは言え、ここの者は一品だけの食事をしているのか…


 一体、どんな食事なんだと前の者をみていると、スーププレートにドロドロのおかゆの様な物が器いっぱいに注がれる。


「あれ? サイリス?」


「あぁ、イチロー殿ですか」


 俺の前でドロドロのおかゆを受け取っていたのがサイリスだと分かり、向こうも俺の事に気が付く。


「イチロー殿もこれから食事なのですね」


「そうだ、それとちょっと話をしたいのだが、一緒でいいか?」


 食事が終わったら、話を聞きに行こうと思っていたが、一緒に食事をとるなら話もできていいだろう。


「えぇ、よろしいですよ。では、私は先に場所を取っておきますので」


 サイリスはそう答えると、トレーを持って先にテーブルに向かう。そして、俺は給仕掛かりからドロドロのおかゆを注いでもらう。なんだか、匂いが嗅ぎ覚えのある匂いだな、それにおかゆに混じってぶつ切りの魚の切り身が見える。


 俺の後にカズオ、カローラ、フィッツが順番におかゆを注いでもらい、皆で手を振って合図をしているサイリスの所へ向かう。


「待たせたな」


「いえいえ、大丈夫ですよ。では、頂きましょうか」


 そういって、皆で食事を始める。しかし、サイリスは副団長の身分で、この戦時下では最高責任者であるはずなのだが、皆と同じものを食うんだな。まぁ、今までの感じだと腰の低い奴だし。


俺はおかゆをスプーンですくって口に運ぶ。


「ん、んん?」


「旦那…」


 一口味わって、首を傾げる俺に、同じく一口味わったカズオが微妙な顔をしてこちらを向いてくる。フィッツは普通に食べている様だが、カローラは露骨に眉を顰めている。


 正直言って、美味しくないというか、味付けがしていない。しかも、恐らくこれは、俺たちが運んできた兵糧のカリカリをおかゆにしたものに、魚の切り身をいれているだけなのであろう。


 戦時下とは言え、みんなよくこんなものを食うなと思っていたら、俺の前に座るサイリスが、卓上の調味料をおかゆに色々振りかけている。


 なるほど、イギリス式か。イギリスの食事の様に味付けをしないで提供して、味付けは食事をする者が、自分で卓上の調味料を使って味付けしていくタイプか。


 俺も卓上の調味料を手に取り、一振りスプーンの上にかけてから、調味料を吟味していく。そして、納得してからおかゆの上にかけて味を調整していく。


「あぁ、なるほど、そういうやり方なんでやすね」


 カズオが俺の仕草を見て、自分もおかゆに味付けしていく。しかし、よく分かっていないカローラは直接おかゆにかけている。そんなやり方してると、また失敗するぞ…


 その後、俺は色々調味料を試して、味を整えたのだが、おかゆに何をかけてもおかゆには変わりないという事を思い知った。




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