第69話 足りない食事と採取のすゝめ

「カズオ、骨付きあばら肉だけなのか?」


「落ち込んでいるクリスの為という事は分かるのじゃが…」


「私の牛乳ないよぉ~」


 俺、シュリ、カローラの三人が出てきた骨付きあばら肉だけの夕食に感想を述べる。ちなみにミケはいつものカリカリだ。


「あっ、やっぱり、そう思いやす?」


カズオが申し訳なさそうな顔をしながら頭を掻く。


「やっぱりってどういう事が?」


「へい、前の村の宴会の時に、食材を使い切りやして…」


カズオは小さくしょぼくれて、両手の指をつんつんする。


「いや、使い切ったのは仕方ないが、買い足せばいいだろ?」


「だって、旦那ぁ~ あの時、不機嫌そうにすぐに出るっていったじゃないですかぁ~」


あぁ…ケロースとユニポニーのバカバカしさに呆れていた時か…


「まぁ、今度からはちゃんと言えよ、怒らないから」


「へい… 分かりやした…」


「じゃあ、冷めないうちに食うか」


なんやかんやあって、俺たちは骨付きあばら肉を食べ始める。


「そう言えば、ミケは肉いらんのか?」


今日は牛乳無しのカリカリだけを食べているミケに尋ねる。


「私は猫舌なので…」


猫獣人だから猫舌なのは分かるが、本当に熱いものはダメなのか…


「じゃあ、冷ましたらどうなんだ?」


「それはそれで、油でこてこてなので…」


まぁ、確かにそうなのだが…難儀な食性しとるな…


「じゃあ、生ならどうなんだよ?」


「えぇ~ それって野蛮じゃないですか~」


もう、何も言わん… 俺は黙って食事を続ける。そうして食い終わるのだが…


「やっぱ、何か物足りんな…」


「もっと、焼きやすか?」


カズオが骨を片付けながら言う。


「いや、そういう事じゃなくて、肉だけじゃもたれるから、他の物を食いたいって事だ」


「へい、すいやせん… 次の村に着けばなんとかなるでやすが…」


カズオはそう言って炊事場で洗い物を始める。


「なら、主様よ。この辺りの野山で採取をするのはどうじゃ?」


シュリが鼻息を荒くして言ってくる。


「採取って言ってもなぁ~」


「大丈夫じゃ! わらわは農業の本を読んだから知識は万全じゃ!」


なるほど、それで採取がしたいのか…


「いやいや、農業と採取はかなり違うと思うぞ、特にキノコなんかはマジやばい」


「えぇ~ そんな事言わずにいいじゃろぉ~」


なんか最近、シュリは駄々っ子で我儘を通す事を覚えやがったな…


「分かった分かった… じゃあ、日が暮れるまでの時間だけだぞ…」


「わぁーい! わらわの農業知識の出番なのじゃ!」


あぁ、だんだん子持ちの父親の様になってきた…ってまぁ、ほんとに子持ちなんだけどな…


「じゃあ、手の空いている者は各自何か採取してこい。時間は日没までだぞ? いいか、迷子とかになるなよ」


「えっ? 私もなの? イチロー様」


カローラが不服そうに聞いてくる。


「たまにはお前もシュリに付き合ってやれ」


俺はカローラに小声で囁く。


「…分かりました…」


「まぁ、夕暮れ時って言っても、まだ日があるから無理はしなくていいから」


「はーい」


まぁ、カローラは骨メイドがいるから大丈夫だろ。問題は…


「ミケ、お前できそうか?」


「えぇ~ 私ですか? 私、前はこれでも王族ですし、奴隷落ちになってからは、食っちゃ寝しかしていないので…」


そういってミケはポチの上でだら~んと寝そべる。


「ミケ、お前、奴隷落ちとかヘビーそうに見えて、実は結構イージーな人生送ってんな…」


「まぁ… 元々は愛玩系の種族なので…」


ミケはポチの上でふにぃーという顔をする。


「自分で言うな! 自分で! しかも、お前、貞操帯つけているから今、愛玩系も出来ないだろ。まぁ、いい。ポチと二人で何か探してこい」


「しょうがないにゃあ...」


 くっそ! そのセリフはやめろ! 俺が変な事頼んでいるみたいじゃないか! って怒ってもミケには分からないので、しょうがないなぁ…


「旦那ぁ~ あっしはどうしましょう?」


「あぁ、カズオは今回留守番だ。そのまま洗い物でもしておいてくれ」


「へい、分かりやした」


「では、行くぞ!」


こうして、俺たちは馬車から出て、採取へと飛び出したのであった。




 そして、俺は早々に自分の分の採取を済ませ馬車に戻る。俺もロアンの所にいた頃やソロ活動時に、食料確保の為に狩猟や採取は行っていたから、この辺りはお手の物である。


 森に少し入って、芋の蔓を見つけて、後は地面を土魔法で掘れば…はい!山芋~(猫型ロボット風)楽勝だな。手や道具で掘ると途中で折れる事があるが、魔法は本当に便利だ。一瞬で、折らずに全部掘り出せる。後は馬車の中が汚れるから水場で洗って持っていけばよい。


 さて、米があればトロロご飯がいいのだが流石にないしなぁ~ もっと南方の方にいけばあるのかな? 米が無いとすると… お好み焼きか? うーん、そのままチーズ焼きでもいいし、油であげてもいいかもな。


「帰ったぞ~」


俺は自信満々に馬車の中に入る。


「旦那、お帰りやす。あっ、山芋ですかい? それもこんな立派な山芋を折らずに取ってくるなんて、流石、旦那ですね」


やはり、カズオは料理に詳しいだけあって、俺の山芋の価値を一瞬で見抜く。


「調理方法はカズオに任せる」


「へい、これなら色々出来やすね…お任せ下せい!」


俺は山芋をカズオに渡して、ソファーに座ろうとするとすでにカローラが座っている。


「あれ? カローラ、お前ももうなんか取ってきたのか?」


「ふふふ、イチロー様、あとのお楽しみです…」


 カローラは意味ありげに笑う。なんかこいつずるしてそうだな…口元を本で隠しているし… まぁ、後の楽しみとしておこう。

 

「じゃあ、後はポチとミケ、それとシュリか」


 俺がそう言うと、ポチが入口からぬぅっと姿を表す。その上にはミケが何か草を抱えて乗っている。


「おぅ、ポチとミケも駆けってきたか。で、何を取ってきたんだ?」


俺が尋ねるとミケはにぃっと笑う。


「猫草」


「えっ? 猫草?」


 ミケが猫草をいくつか俺に手渡す。渡されてしまったものはしょうがないので、一口はんでみる。


「うぅ… 草の味しかしない…」


「これで、毛玉を吐けるようになる」


「俺は毛玉なんて吐かねぇよ! もう、これはお前らだけで食っとけ…」


俺は残り猫草をミケに返す。猫のお使いなんてこんなものか…


「あとはシュリだけか… 迷子になっているんじゃないだろうな?」


「主様ぁ~! 帰ったぞ!」


俺が言った瞬間、シュリが大きなとげとげのある実を抱えて帰ってくる。


「おぉ、シュリも帰ってきたか」


「見てくれ! 主様よ! なかなかのものじゃろ?」


シュリは大きな実を俺に差し出して見せる。


「食えるのか?それ?」


「さぁ? 切って見ねば分からん。多分食えるじゃろ」


「おい、多分って…」


シュリはそういいながら炊事場に言って鼻歌交じりに大きな実を洗い始める。


「で、カローラ、お前の収穫物はなんなんだ?」


全員が出そろった所で俺はカローラに尋ねる。


「ふふふ、ノゾミ、あれを出して」


 カローラが骨メイドの指示を出すと、戸棚に行き扉を開いて上の棚から何やら壺を取り出す。その時に前回と同様にちらりとクリスが見えたが、骨メイドはお構いなく扉を閉める。


「なんだよこれ、採取したものじゃないだろ?」


「前の村で、カードを全部買った時に店の人がおまけにくれたニシンの塩漬け」


やっぱり、外に出たくなくてズルしやがった…まぁ、まだ日が出てたから仕方ないけど。


「じゃあ、カズオに渡して調理してもらえ」


骨メイドがコクリと頷きカズオの方に壺を持っていく。


「なんじゃ!? この皮は? なかなか切れんぞ!?」


 炊事場ではシュリが先程取ってきたとげとげのついた実に何度も包丁を振り下ろしている。あいつ、あぶえねぇな~ 〇HKのまいんちゃんはあんな包丁の使い方してねぇぞ。


ダンッ!!!


「切れた! ようやく切れたぞ!! って… くさっ!! 滅茶苦茶くさい!!!」


 ようやく実を断ち切ったシュリであったが、その中身のあまりにもの臭さに身をよじる。そこへカズオに壺を私に来た骨メイドにぶつかり、骨メイドが戸棚の前に壺を落とし、その蓋が開いて中身がこぼれる。


「きゃぁーん!!! きゃいん!きゃいん!!」


珍しくポチが悲鳴みたいな鳴き声をあげて、速攻で馬車から逃げ出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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