第68話 村で手に入れたもの

「なぁ? シュリ、その本、本当に面白いのか?」


俺は目の前で、本を読んでいるシュリに声をかける。


「いや、持ってきたり買い足した本を読み切ったので、最初は暇つぶしにでもなればと思ったのじゃが、これは中々奥が深くて面白いぞ」


シュリは本に目を落としたまま、答える。


「とはいっても… それ、農業の技術本だろ? お前、農業でも始めるのかよ」


 シュリは前に立ち寄った村で本を買いに行ったのだが、俺の言った通り農業関連の本しか置いてなかったのだが、シュリは本当にその本を買ってきて読んでいるのだ。しかも、その本の内容に大層興味を惹かれているようで、熱中して読んでいる。


「うむ、ドラゴンの食生活は基本、狩猟であったが、こうして農業の知識に触れると、農業も良いな。食べ物を作って貯めておけば、いつでも食べられるし、獲物の少ない冬場も困らん。なるほど、人間が増える訳じゃな…」


 確かにドラゴンサイズになると餌場の広さもかなりの広範囲になるし、ちっちゃなネズミみたいな獲物ではなく、大型の獲物でないと効率が悪いからな… かと言って、農業するドラゴンってのもどうなんだ?


「おはよ~」


 寝台の梯子からカローラが下りてくる。いつも通り、途中で骨メイドに受け止めてもらって、床におろされる。


「おう、起きたかカローラ」


「おはようなのじゃ、カローラよ」


カローラは眠気眼をこすりながら、トコトコと歩いてシュリの隣にすわる。


「ノゾミ、牛乳持ってきて」


声をかけられた骨メイドのノゾミは首を横に振り、両手でバツ印をつくる。


「えっ? 牛乳ないの?」


骨メイドはコクコクと頷く。


「じゃあ、なんでもいいから飲み物持ってきて」


カローラはしょぼんとした顔で言う。


「それより、カローラよ。城に帰ったらお願いがあるのじゃが」


シュリがカローラにお願いを始める。


「なあに? シュリ」


「城の近辺の土地を貸してほしいのじゃ」


「シュリ、お前、マジで農業始めるつもりなのか?」


俺はシュリの頼み事に突っ込みを入れる。


「えっ? どういうこと?」


先程まで寝ていて事情をしらないカローラは首を傾げる。


「いや、シュリが前の村で農業の本を買って、それに影響されて農業してみたいんだよ」


「そうじゃ! そういう訳で農業をしてみたいんじゃよ」


シュリはカローラに詰め寄ってお願いする。


「いいけど、道具を買いそろえる所から始めないとダメだよ。」


「城にはないのか?」


「だって、あのお城、もともと別荘だもん。園芸するぐらいの道具はあるけど、農機具はないよ」


シュリはカローラの言葉にガクっと項垂れた後、くるっと俺の方を見る。


「な、なんだよ…シュリ」


「主様ぁ~ お願いがあるじゃ… わらわは農機具が欲しいのじゃ~」


シュリが上目遣いでお願いしてくる。


「…いや… 俺も何人もの女を口説いて、お願いされた事があったが… 正直、農機具をお願いされたのは初めてだわ…」


 付け加えて言うと、女ならプレゼントにバラの花束とか喜ばれそうだけど、シュリなら卯の花でも喜びそうだな…


「ダメなのかぁ~ 主様~ いいじゃろ?」


「いいじゃろって、お前、この前、ミケもお願いしてきただろ」


俺はそう言って、ポチの上で昼寝をしているミケを指さす。


「ミケもちゃんと面倒見ておるであろうが」


「お前、あれ見て何言ってんだよ! 面倒見てるっていってもポチに任せっぱなしだろうが、餌だってカズオがやってるし…お前、まんま捨て猫拾ってきた子供みたいになってんじゃねぇか」


ミケはちらりとこちらを見た後、再びポチの上で昼寝を始める。


「ぐぬぬ…」


「なにがぐぬぬだ! って、まあいいや、考えておいてやる。でも、買うのは帰りだぞ! 荷物になるからな」


どうせ、農機具ぐらい高いものではないだろうから、これぐらいの我儘はよいだろう…


「わぁーい! ありがとうなのじゃ! 主様!」


シュリはまんま子供のように喜ぶ。


「そういえば、カローラ、お前の方はどうだったんだ? カードはあったのか?」


「あっ! 村のお祭りの男同士のパスタ食べ合い大会見てて忘れてた!」


 俺の言葉に、カローラははっと思い出す。いや、カードが売っていたかどうかも気になるが、その男同士のパスタの食べ合いと言うのも気になる… もしかして、パスタの両端を男同士で啜っていくって奴じゃないだろうな…


「ノゾミ! カード持ってきて!」


 カローラは骨メイドに声をかける。骨メイドは戸棚の前まで行くと扉を開けて上の段からカードパックの束を取り出す。その時、戸棚の下に『お分かり頂けただろうか… 戸棚の中に女性の姿がある事を…』って感じにクリスの膝を抱える姿が見えたが、骨メイドは構わず、扉を閉める。


「あ、主様…今、戸棚の中に…」


「言うな…いつもの事だろ…」


 そして、骨メイドのノゾミがカードパックの束をカローラに手渡す。よくよく考えれば、戸棚の中の女より、こっちの骨メイドの方が、本来はよっぽどホラーだよな…


「ほらほら! 見て! イチロー様! このカードパック!」


そう言ってカローラは小汚いカードパックを俺の前に差し出す。


「見てって、なんか汚いカードパックだ…ん? ちょっとまて! これって!!」


「そう! 幻の第一段目のカードパックだよ!!」


カローラは興奮極まって、テーブルの上に上ってカードパックを突き出してくる。


「すげぇぇぇ! これってあのホワイトロータスとか、伝説の魔王セクードとか入っている奴だろ!! プレミア物じゃねぇか!!」


「最初に仕入れた時に全然売れなかったから、倉庫に眠っていたんだって! だから、私が全部買って来たの!」


カローラは瞳をキラキラさせて、鼻息を荒くする。


「とりあえず、第一弾限定のカードが出たら、スリーブに入れて保存だな! ちっ! こんな事ならもっとスリーブ買っておくべきだった!」


「じゃあ、早速開けていこうか」


 流石の俺でも手に汗が滲んできた。金で買えるカードもあるが、買えないカードもある。ただのごり押しでは手に入れられないものが、このカードパックの中に入っているかもしれないのだ。俺はごくりと固唾を呑んで、ズボンで手の汗を拭く。


「じゃあ! 開封していくぞ!!」


「おう!」


………


……



「まぁ、そんなにうまい事にはならねぇよな~」


「ホワイトロータスも伝説の魔王セクードも出なかったね…」


 この二枚のカードが出た日には、そりゃ大騒ぎになる。俺はウリクリで買ったカード年鑑をパラパラとめくる。ホワイトロータスで金貨600枚か…


「第一弾の限定カードって何が出た?」


「これだけ…」


そう言ってカローラがすっと一枚のカードを差し出す。


「ん? 放浪者セクード? 同じセクードでも伝説の魔王じゃない方か…」


 俺はカード年鑑をめくって値段を調べる。あっ、これでも金貨50枚になるのか… ちょっと、カードの効果を見てみるか…


 俺はカードを手に取り、マジマジと見る。効果は、『このカードが破壊された時は、デッキの中から伝説の魔王セクードを取り出し、強制的に召喚できる』か… ん~、魔王の方のセクードがないと意味がないな… イラストも黒髪長髪の男性と女の子の絵か…


「きゅるぅぅぅぅ~」


「主様か?」


「いや、クリスだろ」


腹の虫がなる音がする。そろそろ夕飯の時間だな。


「カズオ! そろそろ、飯にするか! 適当な所で止まってくれ!」


俺は御者台のカズオに聞こえるように大声で叫ぶ。


「へい! 分かりやした!」


カードの件は残念だったが、飯でも食って気分転換でもしよう…



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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