第56話 困難の先にあるエロそこ価値がある

「おい、カズオ! 食料は多めに積み込んでおけよ! あと、ミケのカリカリも忘れるな!」


俺は、馬車に荷物の積み込み作業を行うカズオに指示を飛ばす。


「へ、へい! 分かりやしたぁ! 旦那ぁ!」


 カズオが城で造った、燻製肉や調味料などを忙しなく積み込んでおり、城の骨メイド達も慌ただしく、作業に協力している。俺が急に出発すると言い始めたので、馬車内の物で洗濯中だったものを乾いた順から積み込んで整えているのだ。


「なぁ、主様よ」


指示を飛ばしている俺に、シュリが眉を寄せて近づいてくる。


「なんだ? シュリ」


「本当に、フェイン国まで行くのか? 考え直さぬか?」


シュリは俺に考えを改めないかと言ってくる。


「いや、ダメだ。もうこうなったらどうしても、ミケの貞操帯を取り除いて、致したい」


今回の旅の目的である、ミケの貞操帯除去の為、フェイン国に行く事を再度告げる。


「おなごと致したいのなら、他のおなごでもよいじゃろうに…」


うじうじするシュリに俺は向き直り、しゃがんで目線を合わせる。


「いいか、シュリ、俺が元いた世界にはエロ本と言うものとエロゲーと呼ばれる物がある」


「な、なんじゃ急に」


シュリは俺の突然の話に訳が分からず狼狽える。


「エロ本はページを捲るだけで、エロいものを好きなだけ見る事が出来る。しかし、エロゲーは数々の困難を乗り越えていかなければ、エロに辿り着く事は出来ない」


 俺はシュリの両肩に手をおき、エロ本とエロゲーの違いについて淡々と語っていく。この絵面は現代日本で行えば、間違いなく通報案件であるが、この旅の意義を分からせる為には必要不可欠な事だ。


「エロ本の方がお手軽にエロを楽しめるのに、値段はエロゲーの方が10倍近くする。何故だか分かるか? シュリ」


「いや、そもそもエロゲーと言うものが分からんのじゃが…」


シュリは困った様に片眉を上げて答える。


「この困難の先にはどんなエロが待っているのだろう…この障害を打ち破れば見果てぬエロが待っている… そう、男と言う生き物は、苦難の先にあるエロに憧れているのだよ!」


「そんな事を力説されても…」


シュリは俺の熱意に押されて身じろぐが、俺がガッチリ肩を掴んでいるので逃げ出せない。


「憧れは誰にも止められない! それは本能というものが原動力になっているからに他ならない!」


「いやいやいや、カッコよく言っておるが、エロが見たいだけであろうが」


ちっ、流されると思っていたが、中々シュリは手ごわいな。


そこへ、カローラがニコニコ顔で、トコトコと歩いて俺達の横を通り過ぎて馬車に向かっていく。


「カローラよ、なんでそなたは楽しそうにしておるのじゃ?」


カローラのニコニコ顔に気が付いたシュリはカローラに声をかける。


「だって、フェインで新しいカードを手に入れる事が出来るんだよ? シュリにしても、フェインで新しい恋愛小説を手に入れる事が出来るかも知れないよ?」


 シュリはカローラの言葉にうっと肩をいからせ、一瞬考えた後、はぁ~と溜息を付いた後、肩を下げる。


「分かった…主様、大人しくついて行けばいいのじゃろ…」


「お、おぅ…分かればいいんだよ…分かれば…」


俺は釈然としないが、そう言ってシュリの両肩から手を放す。


「ところでミケ!」


俺は立ち上がって、側にいたミケに声をかける。


「はい、なんですか?」


こいつは自分の事だというのに、いつも気の抜けたような顔をしているな…結構、美人なのに…


「本当にお前の国である、フェインに行けば、その貞操帯は外せるんだろうな!」


「行くだけではダメです。ちゃんとフェインを救って頂かないと」


「くっ!」


 こいつの貞操帯がシュリの仕業ではなく、ミケ本人の仕業と分かった時、俺は様々な手段で貞操帯を外そうとしたが、全て無理であった。解除や開閉の魔法はもともと魔法的なロックでないと外せないし、ピッキングで解除しようとしても、今までにない仕組みで手も足も出なかった。カローラに聞いて城の工具で物理的に壊そうとしても、小さな道具では文字通り刃が立たないし、大きなものではミケごと傷つけてしまう。


 なので、ミケ本人に貞操帯の解除の方法を訊ねたら…


『私はフェイン国の王族の娘です。私を手に入れたいのであれば、我がフェイン国をお助け下さい』


 と言い始めたのだ。道理で獣人の割には品があると思ったが、王族の娘、つまり王女様であった訳だ。


 そんなもん、国レベルの話だろ、国に頼めと言うと、どうもフェイン国は魔族、人類両方に対して中立の立場を表明しており、その曖昧な立場から、隣国で魔族側のマセレタ国から侵攻を受け、人類側も中立の立場より同盟が先と言う事で放置されたようだ。


 で、なんでそのフェイン国のお姫様が奴隷落ちになっていたかというと、タダで協力してくれないなら、娘を嫁にと言う事で、引き渡されたそうであるが、タダ食いされてはたまらないので、貞操帯をつけて嫁に出したそうだ。しかし、相手側はタダ食いするき満々だったので、貞操帯を付けている事を知るや否や、奴隷に売り飛ばしてしまったようだ。


 致す事が出来なかったとは言え、一国のお姫様を売り飛ばすのはどうかと思ったが、最初に嫁に出した先のコベンギ国は、フェインが直ぐにでも滅亡すると思い、一国の姫であるが軽く見ていた様だ。そして、取引のある商人に売りつけ、その商人も出来ないと知るや、また売り飛ばし、流れ流れてシュリの目に止まった訳である。なるほど、この理由であれば、金貨一枚になっていたのも分かる話だ。


 ミケの性格はお姫様であるが、あっけらかんとしているというか、サバサバしていると言うか… これは奴隷として売られていく中でやさぐれてしまったのであろうか…


 これで俺が、敵を撃退し、フェイン国の窮状を救って、ミケの貞操帯を解いたあかつきには、『いやぁ~ん☆ イチロー様ぁお強くて素敵すぎますぅ~ ミケはイチロー様の前では年中発情期状態になっちゃいましたぁ~(ラヴ) このミケとにゃんにゃんしてくださぁ~い(ハート)』って事になるに違いない!!!


「主様よ…」


 俺はシュリの声ではっと我に返る。そして、傍のシュリを見てみると、呆れた顔のジト目で俺を見ている。


「も、もしかして、お前…また聞いていたのか?…」


俺は恐る恐るシュリに訊ねる。


「あぁ…主様の駄々洩れの欲望の事であるな…『いやぁ~ん☆』から『にゃんにゃんしてくださぁ~い(ハート)』まで、きっちり聞こえておったぞ…」


「くっそ、また、全部かよ…」


俺は赤くなる顔を手で覆う。


「主様よ…いい加減、その恥ずかしい妄想は止めてもらえぬか…聞いているこっちが恥ずかしいわ…」


「ないわ~ 流石にわたしもそんな事言わないし、引きますわ~」


ミケもそう言ってくる。


くっそ!こいつに言われると腹立つなぁ~! 一体、誰のせいだと思ってんだよ!


「イ、イチロー殿」


 そんな俺に背中から声が掛かる。誰だと思い振り返ってみると、ガチガチに緊張したクリスがいた。


「イ、イチロー殿がフェイン国に行くと聞いてな…お、お願いがあって来たのだ…」


 クリスは自分の中で色々と折り合いを付けた様だが、やはり面と向かって俺と話すのは抵抗があるようだ。


「おう、なんだ?」


「イチロー殿と我が祖国イアピースとの確執は無くなった。私もイチロー殿と敵対する意味もなくなり、姫の事もおそらく公になるので、私も隠れる必要がなくなった…」


 あぁ、確かにそうだな… 前の状況では、この城で骨を埋めるしか無かったな…まぁ、骨を埋める前に骨メイドにされると思うが…


「だから、一度、故郷に戻って母に姿を見せて安心させてやりたいのだが… なので、イアピースまで同乗させてもらえぬだろうか…」


 あぁ、なるほど…実家に帰りたい訳だな…特に手元に置いておきたい存在でもないし、扱いに困っていたから、リリースしてもいいか… 帰れる国があるなら野生化した女騎士にはならんだろう。


「分かった。乗ってけ、イアピースまで連れて行ってやる」


「有難う…恩に着る」


クリスは複雑な顔をして頭を下げる。


「旦那ぁ~ 準備が終わりましたぜ!」


丁度よく、カズオの準備完了の声がかかる。


「では、いっちょ、フェインに向けて旅立つかぁ!!」


そこへプリンクリンが旅立ちの見送りにやって来る。


「ダーリン、ごめんね。私、つわりが酷いからついていけなくて…」


「気にするな。お前は養生してろ。俺は手柄を立てて帰ってくるから」


 まぁ、こう言ってはいるが、実際の所、プリンクリンはまだ賞金首なんだよなぁ~ 流石に連れて歩けん。


「じゃあ、ダーリンの旅の無事を祈っているわ!」


「おう、行ってくる!!」


こうして、プリンクリンと骨メイド達が見送る中、馬車は城を後にした。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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