第50話 城への帰還と意外な人物
俺は御者をするカズオから、城が見えて来たと報告を受け、連絡口から顔を出す。帰路の途中に色々あったが、漸くカローラ城が見えて来た。
「ようやく、帰って来たか…これで風呂に入れるな…で、カズオ…」
「…へ、へい…旦那…」
カズオは言われることが分かっているのか、伏し目がちになる。
「もう二度と薬はやるなよ…」
「旦那…ご迷惑をおかけしやした…」
図体のでかいカズオが小さくなって答える。
「達者で暮らすためには、あんなもんは不要だ」
「へい、あっしも分かっておりやす… これ以上やれば元に戻れなくなると…」
いや、元に戻るつもりがなければ、またやるのかよ…
「まぁ、いいや、所で二週間ぐらいたつが、あの女騎士はだ丈夫かな?干からびたりしてないかな?」
「骨メイドのサキさんとマイさんが、面倒見るって言ってましたから、大丈夫だとは思いやすが…」
俺は元の世界の子供の頃、飼っていた亀に餌を上げるのを忘れていて、気付いた時には干からびて死んでいた事を思い出していた。その亀も捕まえて来た時は元気であった、でも夏休み中に旅行にいったり、友達と遊びに出かけているうちに存在を忘れていたのである。
「まぁ、干からびていたら干からびていたで、場所が拷問室だから、飾りになるな」
「相変わらず旦那は、ひでぇー事言いやすね…」
カズオはそう口からもらす。そんな事を言っているうちに、城の城門が見えてくる。
「今まで二回程しか滞在してないが、実家に帰って来たかのような安心感があるな」
「あっそれ、分かりやす。馬車での生活も長いですが、イアピースからの逃亡生活だったり、プリンクリン制圧下の侵入だったりで、緊張の連続でしたから、城の方が安心感がごぜえやす」
城門へと近づくと、俺達が倒した骨門番の代わりに、骨メイドが椅子に座って、本を読みながら、見張りをしており、俺達の姿を見て中に伝えに行く。
「なんか、平和な光景だな…骨だけど…」
城門を潜ると、城の玄関前で慌ただしく骨メイドたちが出迎えの準備の為、整列をし始める。前回の出迎えより、準備が慌ただしいのは見張りの骨メイドが本に夢中で俺達に気付くのが遅れたせいだな。
馬車は玄関前に停車し、俺は御者台から飛び降りる。そして馬車の扉が開き、中からカローラやシュリとミケ、ポチが出てくる。ミケにとってはここは初めてであるが、骨メイド達の姿を見ても特に驚くことなく、逆に欠伸をしている。結構、肝座ってんな。
「あっしは、また馬車を置いてきやすので、旦那たちは先に中へどうぞ」
カズオはそういうと、厩舎の方へ馬車を走らせる。
カズオの言葉に俺達が場内に入ろうとすると、城門の方から一台の荷馬車がやって来る。その荷馬車には麦藁帽で顔が分かりにくいが、田舎娘らしき人間が乗っている。
「カローラ、ここって人間とも交流あんの?」
「いえ、ないよ」
「じゃあ、あれは誰?」
俺達全員が荷馬車に注目する。
「サキ殿~! マイ殿~! 頼まれた品を買って来たぞ~!」
そう言って、田舎娘が手を振ってきて、俺達と目が合う。
「おまっ… クリスじゃん…」
「はっ!」
田舎娘の恰好をしたクリスの顔が強張る。
「…お前、なにやってんの?」
「くっ!!」
クリスは気まずそうに目を反らす。
「くっじゃねえよ… って、城の骨メイドたちの代わりに買出しでもいってきたのか?」
「わ、わわたしも、騎士の端くれ… 骨メイドたちから受けた恩は返さねばならぬ… 決してお前たちの為ではない!!!」
クリスは俺に見られたことによる、恥ずかしさと悔しさで、涙目になりながらプルプルと震える。
「まぁ、いいや、骨メイドの為にやってくれているなら、回りまわって俺達の為になるし」
「言わせておけば、ぬけぬけと! 姫様を穢したお前を、イアピースの騎士である私は決して許さないぞ!!」
クリスは俺を指差しながら、女騎士らしい立派なセリフを言うが、それは穢される前に守るという事を言うセリフであって、穢されてから田舎娘の姿で言うセリフではない。
「まぁ、お前が許さないのは勝手だが、俺はイアピースのカミラルから許されたぞ」
「はぁ?」
俺の言葉にクリスは目と口を大きく開く。
「いや、だから、ウリクリの城でカミラルと遇って、ティーナが妊娠して俺の事を心配しているから、釈然としないが俺の事を許したらしい」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
クリスは今度はがくがくと震える。
「ティーナ様がご懐妊!? しかも、そのお腹の子の親が、こいつだと?…」
クリスの顔は赤くなったり青くなったりする。
「まぁ、そう言う訳で、俺の事を許すも許さないも好きにすればいいし、実家に帰るも帰らないもお前の好きにすればいい」
俺はそう告げると、硬直するクリスを残して城内へと入っていく。
「主様よ、放っておいてよいのか?」
「いや、もうあれは放って置くしかないだろう、構うとめんどい」
シュリが一応、訊ねてくるが、クリスの事は面倒だから放っておく事にする。俺はクリスの事よりも重要な事がある。それは、ミケの事だ。一応、シュリのペット扱いなので、俺は城まで我慢した。俺って偉い!
そんな事を考えていると、一人の骨メイドがカローラの所に駆けてきて、何かを告げる。
「えぇ!? それ、本当なの!?」
カローラが嫌そうな顔をして骨メイドに訊ねると、コクコクと頷く。
「どうした? カローラ」
「イチロー様にお客様だって…」
なんか嫌そうというか面倒くさそうにカローラは答える。
「客って誰だ? アソシエか?ミリーズか?ネイシュか? それともティーナか?」
しかし、カローラは答えない。まぁいいや。
「それより、妊娠後の安定期は何時頃だっけ? どれぐらい経てばできるんだっけ?」
俺は皆に尋ねる。
「わ、わらわは知らんが…主様は容赦無いのう…」
「でも、会いに来ると言う事はそう言う事だろ?」
「いや、ギルドの使いとか、前のパーティーのリーダーとか、イアピースの使者とかは思い浮かばんのか?」
シュリが突っ込みを入れてくる。
「あぁ、その可能性もあるのか…」
「いや、その可能性の方が高いと思うのじゃが…」
「とりあえず、会ってみないと分からんな… カローラ、客人は何処にいるんだ?」
俺がカローラに訊ねると、カローラは無言で一つの扉を指差す。
「あそこか…では会ってみるか」
俺は扉の前に行き、勢いよく扉を開く。すると中にいた人物が俺の存在に気付き立ち上がる。
「ようやく会えたわね! イチロー!!」
中の人物は顔を赤くして、プルプルしながら俺を涙目で睨みつける。
「おまっ… プリンクリンじゃねぇか!!」
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