第10話 ほねっこと骨付き肉
「よーしよしよし! いいぞ、ポチ!」
俺は横に並んで歩くフェンリルのポチをムツゴロウさんのように撫でる。
ここに来る前の世界の俺は、マンション暮らしだったので、飼いたくても犬が飼えなかった。でも、この世界ならそんな事を気にする必要がない。幾らでも飼いたい放題だ。それにポチは賢くて俺にべた馴れしているから、可愛くてしょうがない。
「よーしよしよし! いい子だいい子だ! ポチ! お前は可愛いなぁ~よしよし! あっ ポチ、ケツは向けなくていいぞ~」
「主様よ… その… ポチだけを構いすぎではないか…」
隣を歩くシュリが口を尖らせる。
「その… わらわにも… フェンリルのポチと同じ様に構ってくれてもよいのだぞ…」
顔を少し上がらめて、おねだりする子供の様に言う。
「ポチと同じ様にと言う事は… 地面に皿を置いて、飯を食うと言う事か?」
「主様! どうしてそういう事になるのじゃ! 普通に撫でてくれれば良かろうに!」
そういってシュリがぷんぷんする。
「なんだよぉ~めんどくせぇーな… ほら、これでよいのか?」
そう言って、シュリの頭も撫でてやる。
「わぁーい! うれしいのじゃ~!」
シュリは子供の様に喜ぶ。
しかし、シュリよ…喜ぶのはいいが、お前は俺の女枠を目指していたのに、ポチと同じペット枠でいいのかよ…
こうして、俺は右手にフェンリルのポチ、左手にシュリを撫でながら歩いている。
その俺達の様子を、前を進むカズオが振り返って見ている。
「な、何だよ… お前も撫でて欲しいっていうんじゃないだろうな?」
「い、いえ、なんでもございません…」
そう言ってカズオは頬を染めながら、前に向き直る。こいつのこういう行動がキモイ…
「旦那、見えてきやした。あれですぜ」
カズオは森から抜けて、遠くの方を指差す。
「ほぉ~ 立派な城じゃないか…」
確かにカズオの指差した先には立派な城があるが、少し奇妙だ。周りに街がない…ただ城がぼつんとあるだけ。
「しかし、周りに街並みが無いのが少し変だな…」
「さぁ? 別荘とかじゃねえですか?」
「別荘でも、ある程度の維持管理の為の人や街並みは必要じゃと思うのだがのう~」
俺の言葉にカズオとシュリがそれぞれの感想を述べる。
「とりあえず、近くまで行ってみるか」
そう言って、俺達は城の前まで進む。
「なるほど、そういうことか…」
俺達が城の正門の所まで進むと、二体のスケルトンが門番をしている。
「そうじゃのう、アンデッドの城と言う事で、維持管理する人や街並みが不要と言う事であったのじゃな」
シュリがぽんと手を叩く。
「という事は、肝心の食料品とかありやすかねぇ~?」
カズオが少し不安そうに言う。
「とりあえず、中に入って確かめるしかないな…」
俺はそう言いながら、ポチに向き直る。
「ポチ!」
「わう!」
「あそこにほねっこがある」
俺はスケルトンを指差す。
「わう!」
「食べてこい!」
「わう!」
俺が指示を与えると、たぁーっとスケルトンに駆けて行き、あっと言う間にスケルトンに食らい付いていく。
「い、いいんですかい? アンデッドの骨なんか与えても…」
カズオが戸惑いながら言う。
「いいんじゃね? 本人が喜んでるみたいだから。 ほれ、もう食べ尽くしてるぞ」
俺が言うように、正門の前には、スケルトンを完食したポチがしっぽを振ってこちらを見ている。
「そ、そうようでやすね・・・」
「じゃあ、早速、中に入るか」
そう言って俺達は正門を開け放ち、中に進んでいく。
正門の内側は中庭にあっており、花壇や噴水もあるようだ。どれも人の手…いや、スケルトンの手で管理されている様で、皆、綺麗に維持管理されている。ちらほら、維持管理しているスケルトンの姿はあるが、維持管理だけを命令されている様で、俺達を見ても襲ってこない。ただ、正面玄関を警護していたスケルトンだけは襲って来たので、ポチのおやつとなった。
そして、そのまま正面玄関の扉を潜って、城の内部に入り込む。
「結構、小綺麗に手入れされておりますなぁ」
「そりゃ、死んでアンデッドになったからと言って、汚ねぇ場所で過ごしたくないだろ… しかも生きている時と違って、下手したら永遠だぞ?」
「確かにそうでやすね」
カズオが答える。
「というっても主の性格によると思うが、生きておっても小汚くする者もおるしな…」
シュリがそう付け加える。
「で、旦那。どうしやす? 食糧庫や日用品を漁りに行きやすか? それとも宝物庫も漁りに行きやすか?」
食料…日用品…宝物庫… うーん…
「もう、面倒だからボスの所へ行くかぁ!」
「は?」
「主様よ… 出来れば理由を説明して欲しいのじゃが…」
俺の宣言に、カズオとシュリが説明を求めてくる。
「いやさ、もうコソ泥みたいな事しなくて、この城ごと頂いてしまおうと思ってな」
「主様らしいな…」
シュリがそう漏らす。
「そう言う事で…ポチ!」
「わう!」
ポチは元気よく答える。
「ボスらしい奴がいる場所へ案内しろ」
「わう!」
「途中の襲ってくるほねっこは食べていいけど、ゾンビは食うなよ」
「わう!」
俺とポチとのやり取りに、シュリが疑問の声をあげてくる。
「主様よ、どうしてゾンビは駄目なのじゃ?」
「だって、ポチがゾンビ食って、お腹壊したら大変だろ?」
「スケルトンが良くて、ゾンビは駄目…わらわは主様の基準がいまいち分からん…」
シュリは首を捻る。
「え~ ほら、ゾンビってなんか腐ってそうじゃん」
「あっそれ、なんとなく分かりやす」
俺の考えに賛同したのは意外にも、カズオの方だった。
こうして、今回はポチを先頭に城の内部を進んで行く。ポチは俺の命令通り、襲ってくるスケルトンしか食べないが、襲ってこないスケルトンは俺達とすれ違っていく。
「しかし、主様よ。どうしてスケルトンを全部食べさせんのじゃ? 後で襲ってきたら邪魔じゃろ?」
「いや、この城を手に入れた後で、誰に管理させるんだよ」
「あぁ、なるほど… 本気でこの城を手に入れるつもりなんじゃな」
シュリは納得して頷く。
「しかし、腹が立つな…」
「なにがじゃ、主様」
「さっきからメイドみたいな奴もいるが、全部、骨だけじゃねぇか! 骨だけなら、エロい事ができねぇ…肉さえあれば…」
先程がチラチラメイドを見かけるが、全てメイド服を着たスケルトンである。普通ならスケルトンなんぞ見向きもしないのだが、仕草が女の子っぽい上、来ているメイド服がエロ可愛い。肉があればとの妄想を掻き立てられ、でも無いのでお預けを食らったようで、腹が立ってくるのだ。
「そう言うても主様よ、例え肉付きがおったとしても、ここではゾンビじゃぞ」
確かにシュリの言う通りなんだよなぁ…うーん…
「…熟成具合による…」
俺は思い悩んだ末に、そう答える。
「…じゅ、熟成具合?」
シュリが聞き返す。
「そう…なんていうか…死にたてほやほやと言うか…」
「やはり、主様は人としての越えてはならん一線を越えておるのう…」
「いや、セーフ…いやセフト… セウトか? まぁ、どうでもよい」
そんな事を話していると、前を進んでいたポチがほねっこで腹をパンパンにしながら、こちらを見ている。
「わう!」
「ポチ、ボスか?」
「わう!わう!」
どうやら、俺達はボスの手前に辿り着いたようだ…
どんなボスが出てくるか楽しみである。
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