第08話 未だかつてない悪魔の所業
「しかし、飛んでいけたら楽なんだが…」
「わらわの翼を切ったのは主様じゃ」
「そ、そうだな…」
俺達は今、まだ森の獣道を進んでいる。シュリとの会話の通り、飛んで移動できればよいのだが、シュリが翼が無い為、飛ぶことが出来ない。だから、仕方なく歩いている。
「おい、カズオ。本当にこっちでいいんだな?」
「へい、旦那。間違いないでやす。そろそろ、近くにあると思いやすが…」
カズオは手で尻を隠しながら答える。あれ以来、カズオは俺と話す時は必ず尻を隠す。ちょっといい加減、むかついてくる。
「カズオ、いちいちケツを隠すな! 次は剣で刺すぞ」
カズオはひっ!と小さく悲鳴を漏らし、顔を青くしながらケツから手を放す。
「それより、旦那。良いんですかい? また、魔人ではなく、別の所へ向かって」
「緊急の用事があるんだ。かまわん」
「へい、分かりやした。まぁ、旦那にとっては人里に行けば、色々できますからね」
カズオの言う通り、俺達は今、村に向かっている。魔族の勢力下にいたのだから、180°の転進である。
「見えてきやしたぜ、旦那」
カズオがそう言って指差す先には確かに村がある。魔族との前線近くではあるが、煙も上がっているので、無人ではなさそうだ。
「では、あっしはここで待ってますので、旦那は用事を済ませて来てくだせい」
そう言うカズオに俺はぺっと袋を投げて渡す。
「旦那? なんですか?これは」
「お前も念のため、その袋を被っとけ、一緒に村へ行くぞ」
そう言って俺も、袋を取り出し、頭から被る。
「は?」
カズオは疑問の声をあげる。
「シュリ、お前もドラゴンの姿になって一緒に来い」
「あ、主様… 気は確かか?」
「だ、旦那…もしかして…人里を襲撃するんですかい?」
シュリとカズオが俺の言葉に狼狽える。
「…襲撃ではない… ちょっと検分する為だ。仮に襲撃するとしても、お前ら魔族側だろうが、何を戸惑う必要がある」
「いや…ですが、旦那ぁ… 旦那は元ではありますが、勇者パーティーの一員だったんでしょ?」
「現在なら兎も角、元なら猶更いいじゃねぇか。といっても、お前ら殺しはするなよ。しかし、誰一人、村から逃がすな。そうだな… 教会にでも閉じ込めて集めるか…」
そこまで言う俺に、シュリとカズオは冗談では無く、本気であると理解する。
「マジですか…旦那…」
「主様は何を考えておるのか分からん…」
「うるせい! 行くぞ! シュリは村の周りを焼き払って囲め! カズオは教会へ追い立てろ!!」
俺の言葉にシュリはドラゴンになって、村を囲むように焼き払い始め、俺とカズオは袋を被って村めがけて駆け出す。
「ド、ドラゴンじゃ! ドラゴンが来よったぞ!!」
「村が炎で囲まれておる! 外へ逃げ出せんぞ!!」
「袋を被った怪人とオークが村の中に入り込んだぞ!!」
「避難じゃ!! 皆、教会に避難するのじゃ! 神様の御守護を期待するしかない!!!」
村人たちの不安と恐怖の声と悲鳴が、村中に響き渡る。そして、俺の思惑通り、村人たちは次々と教会へ逃げ込んでいく。
「ハハハ! 俺の思惑通りだ! いいぞ! もっと教会へ逃げ込め!!!」
「旦那…あっしが言うのもなんですが…もはや、人類側の所業じゃありませんぜ…」
「うるせぇ! それより、俺は教会前で監視してるから、カズオ! お前は家の中に村人が残っていないか見て回って来い! 後、ロープがあったら持って来い!」
「へ、へい、分かりやした…」
こうして俺が、教会前で監視をしていると、役目を終えたシュリが人の姿となってやって来る。
「主様… これでよいのか?」
「あぁ、シュリか、お前もこれ被ってろ」
俺はぺっと袋を投げ渡す。
「…んっ… やはり、わらわも被らねばならんのか…」
シュリは、初めから分かっていたように諦めて袋を頭に被る。そこへカズオが村人二人を連れて戻ってくる。
「旦那ぁ~ この二人で最後のようですぜ」
「そうか、では縛り上げて連れてこい、教会に突入するぞ」
俺はそう言うと、教会の正面扉を蹴破って開け放つ。
「ひぃぃぃ~! ついにここまで!!」
「終わりじゃ… もう終わりじゃ!!!」」
「頼む… 命…命だけはお助けを…」
俺達の姿に、村人達は恐怖の声をあげる。
「ちっ! なんだよぉ!! じじいとばばあばかりじゃねぇかよ!!」
俺は見渡した村人たちが、老人ばかりなので、不満の声をあげる。
「なんで、若いのがいないんだよ!!」
俺が怒声を浴びせると、村人の一人が答える。
「こ、ここは…前線に近い町… 若い者は皆、疎開させて、年寄りだけで畑を守っております…」
「クッソ! ハズレかよ! まぁ、この際、仕方がない… おい、シュリとカズオ、全員縛り上げてこい」
若者がいない事を知らされた俺は、毒づきながら、二人に村人たちを縛り上げるよう命令する。
「えっ!? わらわもなのか?」
「あ?」
「…分かった…主様…」
シュリは素直にロープを持って村人たちに向かっていく。村人たちの方は、恐怖と老人である事の無力さから、大人しく縛り上げられていく。
「…旦那…終わりやしたぜ…」
カズオは意気消沈して報告してくる。
「よし、分かった。おい、シュリ、こっちに来い」
「はい…主様」
シュリも伏せ目がちにやってくる。
「お前はここに座れ」
俺はそう言って、シュリの両脇を抱えて、司祭が使う教壇の上に祭壇側に向けて座らせる。
「あ、主様?」
どういう意味か分からないシュリは語尾をあげる。
「カズオ! ババアを一人連れてきて、シュリに向けて祭壇の上に座らせろ」
俺はカズオに指示を飛ばす。
「へ、へい、旦那…」
カズオは俺の指示に従い、ババアを一人連れてくる。
「ひぃぃぃ~! お、お、おやめくだされ…」
そう言うババアにカズオは申し訳なさそうに目を伏せて、祭壇の上に座らせる。
「旦那…座らせましたが…」
「よし、服を剥いで全裸にしろ」
俺は簡潔に命令する。
「はい?」
「だから、全裸にしろと言っている」
俺は重ねて命令する。
「えぇぇぇ… 分かりやした… ばあさん済まねぇ…」
布の裂ける音と共に、ババアの悲鳴が教会内に木霊する。
「いやぁぁぁ!!!」
成り行きを見守っていた村人たちの視線が、全裸の自分に集まっている事に気付き、更に悲鳴を上がる。
「いやぁぁぁ!!! みんな… 見ないでぇぇぇぇぇ!!!」
「ハ、ハニィー!!!」
そこへばばあの夫らしき爺さんの声が響く。
「ダ、ダーリン! いやぁ!! ダーリン! 見ないでぇぇぇ!!!!」
俺はそんな事は無視して、ガッとシュリを頭を掴んで、ババアの方へ向ける。
「シュリ! よく見ろぉぉ!!!」
俺の声が教会内に木霊する。
「目を反らすな! 瞬きするな! 一秒たりとも見逃すなぁ!! その網膜に、その脳裏に焼きつくまで見続けろぉぉ!!!」
「いやぁ!! 見ないで! 見ないで!」
「嫌なら見るなとは、俺は絶対に言わんぞ! 嫌でも見続けろぉ!!」
俺の言葉にシュリは顔を引きつらせる。
「よし! カズオ! 次のババアだ! 次のババアを連れてこい!」
「へ、へい…」
カズオは、ババアの悲鳴と共に、次のババアを祭壇に置き、全裸にする。
「だ、旦那…手伝っている、あっしが言うのもなんですが… 神聖な教会、しかも祭壇の上で…あっしらオークでもこんな所業は思いつきませんぜ…」
「うるせぇ! 次だ! 次!」
俺はカズオを怒鳴り散らす。
「わ、わらわは…一体いつまでこの様な物を見続けなくてはならんのじゃ… リブーラ一族の末裔であるわらわが… どうしてこんな事に… あれ… 目の前が霞んで来た… もしかして…わらわは…泣いておるのか…」
俺は再びシュリの頭をつかむ。
「能書きたれずに見続けろ…」
「鬼じゃ…主様は鬼じゃ…」
こうして教会にばばあの悲鳴が鳴り続いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、俺達は村から離れた場所にいた。
「あれだけ、見せたんだ…出来るよな?」
俺は涙ぐむシュリに告げる。
「わらわは…そんな事の為にあんなものを見せ続けられたのか…」
「あ?」
「やれば良いのであろう…やれば…」
そういってシュリは光を纏い変身し始める。
「おっ?おっ?おっ?おっ・・って、ババアじゃねぇか! やり直し!」
「鬼じゃ! 主様は鬼じゃ!」
そうして、シュリは変身を続けるがどれもババアばかりだ…
「違う! そうじゃない! どうして、その姿のままで、必要な部分をつけられんのだ?」
「無理を言うでない! 主様よ! わらわにとって人間など、そこらの獣と一緒じゃ! 普通は見分けがつかんし、この部分だけどうこうなど、そんな器用な事はできぬ!」
まぁ、確かにネズミの姿や、その部分部分を見分けろと言われたら難しいが…
「という事は…できんのか?」
「当たり前じゃ! どうしてもと言うなら、そのまま化ければいいだけの女子を連れてくればよいじゃろうが…」
俺はその言葉にがくっと項垂れる。連れてこれるならそのままやってるわ! 連れてこれないから苦労しているんだろうが…
こうして、俺の欲求不満の日々が続く事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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