第07話 乳首

 俺達は今、いったん落ち着く為に、少し早めの夕食と野営の準備をしている。まぁ、準備と言っても、ほぼ全てハイオークに任せきりではあるが…


 俺は炊飯の為におこした焚火の近くに座り、焚火を眺めながら考え込んでいる。例のドラゴン幼少女も、焚火で照らされている為か、それとも恥じらいの為か顔を赤く染めて、じっと押し黙っている。


「えぇっと、旦那~ そちらに行ってもよろしいですかい?」


夕食の鍋を持ったハイオークが、いたたまれない様子で聞いてくる。


「なんで、そんな事、一々聞いてくるんだよ」


俺はぶっきらぼうに訊ねる。


「いや~ なんだか二人の様子が近寄りがたいもので…」


「なんでもねぇよ」


「なんでもあります! 主様!」


俺の言葉に、ドラゴン幼少女は顔を真っ赤にしながら立ち上がる。


「なにがあるんだよ」


「わらわの…わらわの大事な所を…あんな近くでまじまじと…見たのですから、責任をとってくだされ!!!」


ドラゴン幼少女は、そう叫んで、羞恥の顔で、頭から湯気をあげながら、身体を震わす。


「責任をとれって… 何で、俺がお前のクソ穴につっこまにゃならんのだ!!」


「ク、クソ穴って言うな! 主様! わらわにとっては…その… 女の子の大事な穴じゃ…」


ドラゴン幼少女は、顔を赤らめ身をよじる。そして、言葉を続ける。


「それより、結婚式や新婚生活をすっとばして、なんで交尾の話になるのじゃ!」


「そんなもん、最終的に突っ込むための手順でしかないだろ! だから、クソ穴に突っ込むのはいやじゃぁ!!!」


「主様! だから、クソ穴と言うな!!」


俺とドラゴン幼少女で、苛烈な言い合いとなる。


「まぁまぁ、お二人とも、飯でも食いやしょうや。腹が減って、気が立っていたら、言い合いにしかなりませんぜ。よいしょっと」


そう言って、ハイオークは俺達があたっていた焚火に、夕食の鍋をかける。


「おい、ちょっと待て、なんだそれは…」


「へい、今日の夕食、ウコンを使ったカーレでやす、この長細いパンを付けて食ってくだせい」


 クソ穴の話をしていた後に、茶色のどろどろのスープに、長さも太さもあれにしか見えないパン…


「ちょっ! おまっ わざとやっているんじゃねぇよな?」


「はぁ?何の事です?」


ハイオークは首を傾げる。


「まぁいいや、腹減っているし、食うとするか」


俺はハイオークからスープと入った器と、パンを受け取る。


「そんな事より、主様! ちゃんと責任をとってくだされ!」


俺は腹が減っていると言うのに、ドラゴン幼少女ががたがた言って来る。


「うるせぇ! がたがた言うなぁ! クソ穴にこのパン突っ込んで、ケツから食わせるぞ!」


ドラゴン幼少女はぐぬぬと唸り、大人しく夕食を食べ始める。


「そもそも、人化出来るというのに、なんで肝心な所は人化出来てねぇんだよ…」


「無理を言わんでくだされ、主様よ。わららもドラゴン、元を辿れば爬虫類じゃ、よく知らんのに、哺乳類である人族の体の、独特な器官など再現できぬ」


俺はそのドラゴン幼少女の言葉を聞きながら、無言で夕食を食う。


爬虫類?哺乳類?独特な体の器官? ん? 何か引っかかるぞ?


「お前… ちょっと来い。確認したい事がある」


俺はドラゴン幼少女を手招きする。


「主様、いい加減、名前で呼んでくだされ。わららの名はシュリーナル・エル・リブーラじゃ、シュリと呼んでくだされ」


「うむ、分かったシュリ」


俺がそう答えると、ドラゴン幼少女のシュリは、ぽっと顔を赤らめる。


「でしたら、旦那。あっしの事も名前で呼んでくだせい。あっしの名はウォルフラング…」


「お前はカズオだ」


 名前で呼ばれる事に便乗してきたハイオークが、大層な名前を言い出しそうだったので、俺は適当な名前を付ける。


「いや、あっしの名は…」


「お前はカズオ。それでいいな?」


「あっはい…」


再び、名乗りだしそうなハイオークのカズオを、俺は睨みつけて黙らせる。


「で、シュリ、ちょっと来い」


「はい、主様」


シュリはちょこちょこと俺の前にやって来る。俺はそのシュリのワンピース風の服の裾を掴み、バッと胸の高さまで捲くり上げる。


「…もしやとは思っていたが… やっぱり乳首もねぇのかよ…」


俺はクソでかい溜息をして、服から手を放し、服が戻っていくと、シュリのきょとんとした顔が見える。


「主様? 乳首とは何ぞや?」


「えぇ~ そこからかよ… 乳首ってのは… それ、あれだ」


俺はハイオークのカズオの方を指差す。


「胸の所に二つのぽっちがあるだろ、それが乳首だ」


「ほぉ~ これが乳首か…」


シュリはカズオに近づき、まじまじと乳首を眺める。

するとカズオは頬を赤らめ、両手で乳首を隠す。


「おまっ! 恥ずかしがんな! 見ている俺達が気まずくなるだろうが!」


「だって… 旦那 あっし、そんなに見つめられたら…」


カズオははにかみながら俯く。


「ややこしくなるから、はにかむな!!」


俺が怒鳴ると観念して、両目を閉じて羞恥に耐えながら両手を胸から外す。


マジ、気持ち悪いからその態度は止めてくれ…


俺は気を取り直し、シュリに向き直る。


「そういえば、お前。クソ穴の時はあれだけ恥ずかしがったのに、胸は全然恥ずかしがらんな」


「クソ穴って… まぁよい… 主様よ、元々、存在しない器官の所を見られても、何とも思いませぬ」


シュリはけろりと言う。なるほど、また種族の違いというやつか。


「しかし、外の見た目は、なかなかいい感じなのに、なんで細部は再現できないんだ? 器官が存在しないと言っても、見た目の形ぐらい再現できるだろ?」


俺は両脇に手を入れてシュリを持ち上げ、ちと幼いが整った顔のつくりを観察する。


「わらわも、まじまじと人間を観察した訳ではないのでのう、しかも、裸の人間など知らんので」


シュリは俺に持ち上げられ、なされるがままで答える。


「ん? という事は、人間の裸をよく見れば、ちゃんと再現できるのか?」


「恐らくは出来ると思いますぞ、主様」


 俺はその言葉に希望が湧いてきた。こいつにちゃんと女の裸を見せれば、乳首もあそこも再現できるのか! これは楽しみだ! こいつは見た目は良い、大きさはもっと大きくなってもらわにゃならんが、今から楽しみだ。


「しかし… ドラゴンの人化は奇妙だな。見た目は化けれるのに、体の器官は、基本、元のままとは… それに、あのでかい図体からどうやってこんな小さくなってんだ?」


俺はシュリを両手で抱き上げたまま、まじまじとその身体を見回す。


「それはじゃな、主様よ。化ける時に余った質量を魔法的に遮断しておるからじゃ、だから、魔法を切れば、ほれこの通り」


 シュリがそう言った瞬間、俺の両腕にドラゴン本来の凄まじい重量がかかる。そのあまりにもの重量に、俺の両肩はぱきゅっと音を立てて外れ、シュリを滑り落とし、シュリは腰近くまで地面に突き刺さる。


「うぉぉぉぉ! 肩がぁぁぁ! 肩がぁぁぁ! おまっ! 急に重量戻すなぁぁ!!! 俺の両肩が外れちまっただろがぁぁぁ!」


俺は外れた両腕をブラリとさせて、驚きと痛みでのたうち回る。


「すまぬ、すまぬ。主様。今、その肩を治すので… あれ? あれ? 地面から抜け出せん…」


シュリも地面に嵌って抜け出せずにいる。


「クックック……」


呟くような微かな笑い声がする。


「フハハハハ」


堪えきれずに笑い出した声がする。


「ハーッハッハッハ!!」


狂ったように高笑いをハイオークのカズオがあげる。


「この時が訪れるのを待っておったぞ…」


「カ、カズオ…」


声の主であるカズオの手には料理で使った包丁が握り締められている。


「その名で呼ぶな! 人間よ! 我は、お前が油断するこの時を待ち望んでいた…」


くっ!しまった! カズオの言う通りだ! 今の俺は両手が使えない!


「我はお前の為に大事な物を失った…」


なんで童貞を大事にしているんだよ!!


「しかも、お姫様ではなく、あの様なババアにだ!!」


だから、なんでそんな少女の様な妄想をしてんだよ!!


「この恨み…晴らさずに措くものか…」


カズオは凄んだ顔で、ギラリとこちらを睨む。


「しねぇぇぇいぃ!!!」


カズオは包丁を振り被りながら、俺に突進してくる!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


俺も殺される訳にはいかないので、カズオの突進に合わせて、前蹴りを繰り出す!


めきょ!


カウンターとなった俺の足の裏に、カズオの顔が歪む感触が伝わる。


次の瞬間、カズオの身体は舞い上がり、地面に落ちて、ゴロゴロと転がる。


俺はその間に、右肩に精一杯の力を込める。ガコっという感触と激痛と共に右肩の関節がはまる。


「んっ! つぅー! 痛てぇな…」


俺は痛みに堪えながら右肩を回し、右手が使える事を確かめる。


「ひ、ひ、卑怯ですよ!! 足を使うなんて!!!」


転がっていたカズオが起き上がり、俺に抗議の声をあげる。


「お前が言うなぁ! お前がぁ!!! 人の弱みに付け込んで来たのは、お前だろうがぁ!!!」


俺はそう言い返しながら、使える右手で、左肩の関節をはめ直し、動きを確認する為、ぐるぐる肩を回す。


「いや、それは…ってっ! 血! 鼻血! 鼻血がでてるぅ!! いやぁ!! 血! 血がでてるよぉぉ!!」


って、こいつ鼻血だけで済んでいるのか…痛がりの割には丈夫だな…


「主様! 大丈夫ですか!」


地面を抜け出したシュリが俺のそばに駆け寄る。


「あぁ、大丈夫だ…それより…」


俺はカズオに視線を移す。


「悪い子にはお仕置きが必要だよな…」


俺は凄みのある表情を作り、ギラリとカズオを睨む。


「ひぃ!! 旦那!! 許して下せい~!!」


カズオの顔が青くなる。


「駄目だ」


「ま、魔が差しただけなんでぇ…」


カズオが俺に土下座する。


「シュリ」


「はい、主様」


「パンを持て」


「はい、主様」


俺の手にシュリからパンが渡される。


「魔が差したと言うなら、パンを刺すだけで許してやろう…」


俺の言葉に、キツイお仕置きを想像していたカズオの顔が、一瞬緩む。


「…ケツにな」


「いやぁぁぁ!! やめてぇぇぇ! ここは初めてなのぉぉぉ!!」


カズオは瞬時に悲鳴をあげて、両手でケツを隠す。


「アースバインドォ!!!」


地面から生えた蔦が、あっという間にカズオに絡まり、ケツがもろ出しの体制になる。


「らめ!! らめぇ!!」


俺はカズオの懇願を無視して、パンを振り被る。


「おらぁぁぁぁ!!! くらいやがれぇぇぇぇ!!!!」


「いやぁぁぁ!!! らめぇぇぇ!!!」


カズオの悲鳴が夜の森に木霊する。


この日、カズオはケツからパンを食った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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よろしければ、そちらもご愛読願います。

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