第05話 ドラゴンにも…穴はあるんだよな…
「くっそ! 腹立つなぁ! 結局、女は抱けねぇし! 骨折り損だぜ!」
俺は獣道を歩きながら、愚痴りまくる。
「骨折り損と言っても、旦那は何もされていないじゃないですかぁ~ あっしなんて…大切に守って来た初めてを奪われたんですぜ…」
前を進むハイオークが、嘆きながらそう口にする。
「お前の初めてなんて知った事じゃねぇ! というか、童貞なんか守るな!」
「種族の習慣の違いって奴ですかねぇ~」
オークは童貞を守る習慣があるのか? オークは女を襲ってなんぼのもんじゃなかったのか? 分からん。
「それより、旦那。あまり声を張り上げないでくんなまし」
「なんでだよ」
ハイオークの忠告に問い返す。
「へぇ、ここいらはドラゴンの縄張りですので、あまり騒ぐと奴がきますぜ」
「ドラゴンだと…?」
俺はハイオークの言葉に立ち止まる。
「旦那、どう致しやした?」
「ちょっと、聞きたいが…」
「へい、何で?」
「そのドラゴンは…メスか?」
「はぁ?」
ハイオークは俺の言葉に目を丸くする。
「申し訳ござしませんが、もう一度お願いできやすか?」
「だから、俺はそのドラゴンがメスかと聞いている」
ハイオークは俺の言葉に目頭に手を当て顔をしかめる。
「旦那… 溜まっているのは分かりやすが… 種族と大きさは考えましょうや…」
そう言ってハイオークは呆れた顔で俺を見る。
「お前…俺を馬鹿にしてるのか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ、旦那ぁ~ ただ、ご自分の息子の大きさに自信があっても、流石にドラゴン相手では… 痛い! ちょっと、旦那! いきなり刺すのは…痛い! 痛いよぉ~!」
俺は剣の先でちょこっとハイオークを突き刺して、鼻で笑う。
「お前は知らんのか? 高名なドラゴンは人に化ける事が出来る」
「そうなんですかい?」
ハイオークは涙目で、刺された所をさすりながら言葉を返す。
「あぁ、恐らく魔族の勢力下では、人に化ける必要などないから、お前が知らんのだろう」
「はぁ、そもそもあいつらは、おっかないので近づきませんからね」
「で、どうなんだ。そのドラゴンはメスなのかオスなのか」
俺はハイオークに詰め寄る。
「へい、噂では確か…メスと言う話でやす。なんでも、求愛にくるオスのドラゴンを全て返り討ちにする、気難しいメスのシルバードラゴンと聞いてやす」
「ほほぅ~ そうかメスか…」
俺はにんまりと笑う。
「ですが、旦那ぁ… 相手は同じドラゴンを返り討ちにするような奴ですよ?」
「かまわん」
「それに何処にいるとも分かりやせんし、分かったとしても相手は飛んでますぜ」
「そうだな」
「だから、今回は穏便に縄張りをぬけましょうや」
ドラゴンと遭遇したくないハイオークは、俺を宥める様に愛想笑いを浮かべながら、前に進もうとする。
「探すのが面倒なら、相手から来てもらえばよいな」
「はぁ?」
前を進もうとしていたハイオークが、俺の言葉に振り返り、俺を二度見する。
「なんと申されました?」
「だから、向こうから来てもらえばいいんだよ」
「いやいや、犬を呼ぶみたいにドラゴンが来るわけないでしょ、旦那…」
そう言ってハイオークは強張った顔ではははと笑う。
「やって見なければ分からんだろうが」
俺はそう言うと拡声魔法を唱え、大きく息を吸い込み始める。
「ちょっと! 旦那! マジですかい!? ド、ド、ド、ドラゴンはヤバいですって!!」
焦って狼狽えるハイオークは、俺に縋りついて止めようとするが、俺は無視して息を吸い続ける。
そして、肺一杯に息が溜まった所で、大きく口を開け叫び出す。
「ビッチのドラゴォォォォン!!!! 出てこいやぁぁぁぁぁ!!!!!
オレはぁぁぁ!! ここにぃぃぃ!! いるぞぉぉぉ!!!!」
俺の声圧に辺りの木々は葉っぱを撒き散らし、辺り一面の山々に俺の声が響き渡る。そして、少し遅れて俺の言葉の山彦が、何度も何度も聞こえてくる。
咄嗟に耳を塞いで、やり過ごしていたハイオークが、薄っすらと目を開けて辺りを見渡す。
「旦那! 逃げましょう!! マジヤバいですって!!」
ハイオークが俺の袖を引っ張る。
俺はハイオークを無視して、辺りを見渡す。辺りは俺の声圧で葉は飛び散り、木々はなぎ倒され、丁度おあつらい向きに広場になっていた。
「こんな目立つ場所にいたら、直ぐに見つかってしまいやす!! さぁ!旦那!!」
ハイオークは必死に俺に退避を促す。
「でも、もう遅いようだぜ」
空を見ると、向こうから銀色の物体が猛スピードで近づいてくるのが見える。
ドラゴンだ。シルバードラゴンがまるでコンコルドの様な姿勢をしながら猛烈な速度で近づいてくる。目指すは俺だ。
「あ、あ、あ、あっしは、隠れやすぜ! 旦那ぁ!」
ハイオークは慌てふためきながら、近くの木陰へと逃げていく。
「おぉ、邪魔だ。隠れてな」
ハイオークの方を見向きもせず、俺は答える。
そして、直前まで近づいてきたドラゴンは、バッと翼を広げて減速し、俺の前に立ちはだかる。その顔は怒りに満ち溢れ、物凄い形相で俺を睨みつける。
「誰じゃ!! わらわを愚弄したわけた事を抜かす、愚かな人間は!!! わらわを破壊の女神と名高きシルバードラゴンのシュリーナル・エル・リブーラと知って…」
「エアプレッシャー!!!」
俺はドラゴンが名乗り終わる前に、空気の魔法で、ドラゴンを地面に叩きつける。ドラゴンはいきなり頭上からの空気の塊を落とされ、たちあげていた首の長い頭を地面に打ち付けて、『ぐわっ!!』っと、苦痛と驚きの悲鳴を挙げる。
「ダブルエアカッター!!!」
俺は間隙を入れず、魔法を飛ばして、ドラゴンの翼を切り落とす。万が一に備えて逃走させない為だ。
「ディープパラライズ! アースバインド!!!」
追加で麻痺の強化魔法と、地面から蔦を生やして相手を絡めとる拘束魔法だ。これであいつはもう何もすることが出来ない。俺の思うがままだ。
「き、貴様… 何を…する… どういう…つもりだ…」
ドラゴンは痛みと地面に叩きつけられている恥辱と、全身に回る麻痺で、辿々しい口調で喋る。
そんなドラゴンを無視して、俺は剣を鞘ごと持ち、鞘に付いている紐で、剣の鍔に縛り付けていく。振り回しても鞘が飛んでいかない様にする為だ。
「さてと、お前は何発で俺に服従するか見ものだな」
俺は手のひらを鞘付きの剣でポンポンと叩いて、ニヤリと笑う。
「気高き…ドラゴンで…ある…わらわが… たかが…人間如きに…屈する…はずもなかろう…」
ドラゴンが苦痛に満ちた顔で俺を睨む。
「じゃあ、始めようか」
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