第03話 孕ませる前に考えろとか無理だわ
「ふぅ、これだけあれば暫くは食いつなげれるか…」
俺は財布の中の金額を見て呟く。と言っても、この金は俺の金ではない。俺自身は勇者特権を当てにしていたので、殆ど稼ぎを残していなかった。だから、無一文で追い出される所であったが、こんな俺に対して、アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人はそれぞれ、こっそりとお金を渡してくれたのだ。
「行き倒れたら、わ、私が困るんだからっ!」
そう言って、ツンデレしながら持ってきたのが、アソシエ。
「一人で行かれるのは大変です。これを持って行ってください」
俺の身を案じて、心配そうに言うのがミリーズ。
「付いていけないから、これを… ネイシュ、待ってるから…」
俺の事を信じて言うのがネイシュ。
三人と事に及んだのは、何日も続く冒険中に、持て余す性欲を押さえきれなかった為で、つまり、若気の至りである。がしかし、何度も身体を重ねれば情も映るし、こうして、旅立つ俺に自分の金を惜しみなく渡してくれる思いは、自分でもゲスだと思う俺でも、その情は拭い去る事はできない。
「さて…行くか」
そう言って、俺は街のはずれから、魔族の勢力下に向けて足を進める。
何故、魔族の勢力下に向かうのかは、先程の追放時に話は遡る。
「で、イチロー君。君はこれからどうするんだい? 彼女達の故郷へ一緒に帰るのか?」
俺の事を追放したロアンであるが、俺の今後を訊ねてくる。
「お、俺は…」
そう言いながら、俺は頭の中で必死に考える。
どうする?このまま追放されては、もうあのやりたい放題、贅沢三昧の日々を過ごすことは出来ないし、この戦争が終結しても、追放された俺には恩賞は出ない。しかも、三人の女と三人の子持ちになるんだぞ? どうして食っていくんだよ、いや、アソシエとミリーズの実家なら金があるから生活の心配はないな…それに恩賞があるから、ネイシュとでもやっていけるだろう。でも、ヒモ生活? それは、カッコ悪すぎる! そんなのは嫌だ!
では、どうするか…
「俺は一人でも魔族と立ち向かう!」
俺はロアンに言い放つ。
「イチロー君! 本気なのか!」
ロアンは俺の言葉に、目を丸くして訊ねる。
「あぁ、本気さ。これから生まれてくる子供たちの為にも、追放者ではなく、魔族と立ち向かった勇者でありたいんだ! それに、もともと彼女たちを下げて、俺とロアン、お前と二人で戦うつもりだったからな」
俺は、そうカッコよく告げるが、実の所は別の理由である。それは、勇者特権である。今現在、勇者特権はロアンとそのパーティーメンバーに与えられるが、追放された俺には無くなる。では、どうすればよいか?それは俺自身が手柄を挙げ、勇者と認められることである。そうすれば、再び勇者特権を手に入れる事ができる。
「…本気なんだね…」
冗談ではない事を理解して、ロアンは瞳を元に戻す。
「あぁ、本気だ」
俺はロアンに短く返す。
「分かった… 君の実力はよく分かっている。君であれば、そんな無謀な話ではないだろう… しかし、彼女達三人の為にも無茶はしないでくれよ…」
ロアンは自分が追放すると言った手前、俺が自暴自棄になっているのではないかと考えていたのであろう。しかし、自暴自棄ではない俺の顔を見て安心した様子である。実際、俺自身も自暴自棄ではないし、それなりに自信はある。
「それより、ロアン。お前自身はどうするんだ?」
俺はロアンに問い返す。
「僕かい? そうだね… どうしようかね… 君は追放したし、残る三人は身重だし…」
ロアンは苦悩した表情を浮かべる。
「俺が仕出かした事とは言え、済まない。で、その済まないついでちょっと頼まれてくれないか?」
「頼み事とは?」
ロアンが訊いてくる。
「三人の身の安全を守って欲しいんだ」
「三人の身の安全かい?」
本来なら、俺自身がやるべき事であるが、それぞれの実家に送っている間に、終戦にでもなれば、俺は勇者特権を失ったままの追放者だ。それでは困るので、出来るだけ早く手柄を挙げて、勇者として帰り咲かなくてはならない。かと言って三人に死なれては目覚めが悪い。
「そうだね… 妊娠して戦えない体になったとはいえ、まぁ、僕から見て彼女たちは被害者であるわけだから、捨て置く事は出来ない。三人はまだパーティーに在籍したままだ。だから、彼女たちに対する責任は僕にある… 分かった、彼女達三人の身の安全は、僕が引き受けよう」
ロアンは自分の手柄だけを考える人間であれば、俺だけではなく三人も切り捨てて、新しいメンバーを誘うか、または、俺をパーティーに残して、三人を置いていけば、手柄は立てれる。だが、ロアンはそんな事はしない。
「すまん! ロアン! そして、ありがとう!」
俺は正直に頭を下げる。
「いいよ、イチロー君。僕はただリーダーの役目を果たすだけだ。それに三人の身の安全と言っても、よくよく考えれば、彼女達の立場もあるから、直ぐに実家に送り返すことは出来ないな…」
追放された俺が言うのもなんだが、こうしたリーダーとしての勤めを大真面目に果たすロアンの誠実さには、頭が下がるし、信用も信頼もできる。
「じゃあ、俺は行くよ」
俺はロアンにそう告げる。
「今すぐに立つのかい?」
「あぁ、こんな話をして何日もここにいたら、気まずいだろ?」
「あはは、それは君らしいね」
ロアンは屈託なく笑う。
「じゃあな、ロアン」
「頑張ってくれ。イチロー君」
こうして、俺はロアンと別れて部屋を出た。その後、女性三人が金を持って駆けつけたのは、先程述べた通りである。
そして、話は街はずれを出たところに戻る。
「さてと…よくよく考えれば、あいつら三人も大変な時に孕んでいるんだから、勇者メンバーとして弾劾されたり、実家から追放されたりする怖れがあるんだよなぁ~ 本当に頑張って、勇者にならんと…」
そう呟くが、そう考えるなら、孕ませる前に考えろとか思い浮かぶが、やっぱ無理だわ、我慢出来んだろうなとも考える。
「いずれにしてもやってしまったもんは仕方ねぇ。前に進むか」
俺は加速の魔法を使って、魔族の支配下に向けて駆け出していった。
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