第02話 追放は仕方ありません
さて、なんで俺が一人で魔族の勢力下にいたかと言うと話は少し前に遡る。
俺はパーティーのリーダーである勇者ロアン・クラースに重大な話があると言われて、ロアンの部屋に行ったことから始まる。
「イチロー… 君は追放だ」
俺の目の前の、金髪碧眼の精鍛な顔をした青年が俺に告げる。
「理由は分かっているよね?」
目の前の青年、勇者であるロアンはその瞳を細めて、そう訊ねる。
「さぁ…知らないな…」
なんとなく、理由は分かるような気がするのだが、そうであって欲しくない気持ちで、ロアンから視線をそらせながら俺は答える。
「ふぅ… 君という人は全く… みんな! 入って来てくれるか?」
ロアンはふぅと溜息をつくと、隣の部屋に繋がる扉に向かって声をかける。
すると、三人の少女がぞろぞろと部屋の中に入ってくる。
一人目は、セミロングのローズヘアーで、少し釣り目の赤い瞳。魔導士のアソシエ。
二人目は、明るいオリーブのゆるリッチウェーブのおっとり銀眼の聖女ミリーズ。
三人目は、アッシュなエアリーウルフボブの感情を感じさせない緑眼。スカウトのネイシュ。
三人の視線は全て俺に集中する。
「こ、これはどういう事なの!」
「これは困りましたわぁ~」
「ネイシュ…どうすればいいのか分からない…」
三人がそれぞれ、俺に訴えかける。
「僕はね… 男女関係については、あまり煩く言いたくない。パーティー内の仲が良ければそれでいいと考えていた… だが、しかし…」
ロアンが怒りに肩を震わせながら、拳を握り締める。
「全員を妊娠させるとは! どういうつもりなんだ!!」
ロアンの怒声が部屋の中に響き渡る。
あちゃ~ やっぱり、そうだったのか… 最近、お腹が大きくなってきているとは思っていたが、俺はその可能性から逃げる為、あれは食べ過ぎで太ってきていると、自分に思いこませていた。まぁ、彼女らの食べ過ぎと思いながら、俺が彼女達を何度も頂いていたのではあるが…
「どういう事なの!イチロー! 私だけを守るのではなかったの!! どうして、ミリーズもネイシュも妊娠しているのよ! ねぇ!答えなさいよ!!」
そう、怒りを露わにして叫ぶのが魔導士のアソシエ。
彼女は貴族の出て、勝ち気で気位の高い少女であるが、優秀な君だけを守る騎士になりたいと言えばコロリと落ちた。大きくもない小さくもない丁度良い大きさの胸、普段は勝ち気だが、夜は受け身の身体は、大変、おいしゅうございました。
「なんで妊娠しているのと申されましても、イチロー様が、毎日、死に直面しているなかで、生の実感が欲しいと申されまして、わたくしと致しましては迷える子羊を放っておく事はできません… それでイチロー様を受け入れ、そんな事を何度も繰り返しておりましたら、授かってしまいました」
包容力があるというか、人が好過ぎるふうに答えるのが聖女ミリーズ。
彼女は大神殿で聖女と呼ばれる人間であるが、魔族との戦いの為、パーティーに加入したらしい。人からの頼み事は断われない性格で、試しに彼女の言うように、毎日の戦闘でいつ死ぬか分からないから、生きる実感が欲しいと迫ったら、なし崩しで受け入れてくれた。母性を感じさせる大きな胸、吸いつくような白い肌は、大変、美味でございました。
「ネイシュは愛を知らなかった… だから、愛を教えてもらった。今、お腹の中に愛の形がある。だから、嬉しい…」
普段の口調は無感情であるが、少し嬉しそうに言うのが、スカウトのネイシュ。
ネイシュは暗殺者として、特殊な育成機関で育てられていたらしいので、普通の年頃の女の子が持つ恋愛感情と言うものを全く知らなかった。なので、愛を教えてやるといって迫ったら、驚く程簡単に落とすことが出来た。小ぶりで敏感な胸に、小柄で華奢な、少し犯罪臭と背徳感を感じさせる身体は、大変、珍味でございました。
「イチロー・アシヤ。僕はね、君の剣術と魔法の腕を高く評価していた… だから、多少の事は目をつむっていた… だがしかし!この現状は看過できない!」
ロアンは整った顔を怒りで歪め、怒声をあげる。
俺の名はイチロー・アシヤ。日本語でちゃんと言うと、『芦屋一郎』だ。
そう、俺はこの世界の人間ではない。日本人だ。つまり、俺は異世界転生者だ。
俺は自慢のゲーミングPCでVRヘッドとヘッドホンをしながら、ゲームをしていた所、火事に気付かず、そのまま焼け死んで、この世界に来たようだ。この世界に来るに当たって、肉体は再構築されたようで、いわゆるチート能力と新しい見た目を持って転生した訳だ。
「だから、最初にも述べた様に、君にはこのパーティーから脱退してもらう…追放だ!!」
再び、ロアンの追放の言葉が、部屋の中に響き渡る。
俺はこの有り余る力を持って、この世界でリアルな狩りを楽しんでいた所、このパーティーのロアンに目を付けられ勧誘された訳だ。
最初はソロで活動する事を望んでいたのだが、ロアンの話を聞くところ、世界は今、魔族と王国連合との戦争状態で、危機的状況にあり、王国連合軍が軍事的に魔族の進行を押さえている間に、魔族側の将軍などの重要人物の殺害を目的に、幾つもの勇者パーティーが設立されたそうだ。ロアンのパーティーもその一つである。
そんな人類の状況を聞かされて、手を貸すことにやぶさかではないと考えたが、一番の理由は勇者特権である。勇者特権とは、魔族との戦時下、その魔族の勢力下に少数で侵入し、そして、重要目標を倒すという、非常に危険な任務を任される者たちに与えられたものだ。
例えば、どこに行っても最高級の宿に泊まれ、物資が乏しい中、最高の食事をタダでする事ができる。また、王族や貴族との面会も容易くできて、その支援を受けれたり、情報を共有する事ができる。そして、まぁ… 頼めば幾らでも女を抱く事もできた。
だから、パーティーを追放され、勇者特権を失うのは痛すぎる!
特権を失えば、美味い飯を食う事も、女を抱きまくる事ももう出来なくなる!
俺は背中に脂汗を掻きながら、頭をフル回転にして、必死に追放されない言い訳を考える。
何かないか!何かないか!
必死に言い訳を考えていると、こんな状況でありながら、俺の事を心配する三人の姿が見える。
これだ!
俺は三人の姿を見て、ある言い訳を考え付き、慣れない演技をしながら口を開く。
「お、俺は…アソシエ、ミリーズ、ネイシュ。三人の事が心配だったんだ! これ以上彼女たちを死地に向かわせたくなかった… だから、前線から身を引いてもらう為に、はらませたんだ!」
自分で言っていて、かなり無茶苦茶な言い訳であるが、これ以外の言い訳が思いつかなかった。しかし、皆はその言い訳を聞き入っており、言い訳を言い終えると部屋が静まり返る。
そして、暫くしたのち、俺の言い訳を、目を閉じて聞いていたロアンが、ゆっくりと目を開き、真剣な趣で言い放つ。
「イチロー君。例えそうであってもだ… 決戦の近い、この人類の命運がかかった時期に、私情で、貴重な戦力である彼女達を前線から下げる事は、人類としては許されざる行為なのだよ… 僕は本当に君を高く評価していた… だから、残念で仕方ない… だがしかし、君の追放は決定事項だ。これに変更はない」
俺の追放が確定した瞬間である。
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