【第10章:1階組の役割】

「えっ。」

 セウは面食らった様子だ。緊張が走る。

 なんの話、とカリナが周りを見回す。

「嘘なんて―――。」

「少なくとも1つ、あなたは嘘をついていました。」

 言い逃れようとするセウをあさひが遮る。

「あなたは、犯行の時間、この大ホールで電話をかけていたと言いましたね?」

「そうですよ。しあんくんも見てたでしょ?」

 声をかけられたしあんが頷く。


「それがおかしいんですよ。」

 あさひが自分のスマートフォンをポケットから取り出し指差す。

「ここ、圏外ですよね?」

 あさひの言葉を聞いて何人かがスマホを確認する。もちろん死体発見時と同様にここは圏外だ。

「あなたはこの館が圏外であるにも関わらず、スマホを持ってどこかに電話をしていたと言っている。『圏外で警察に通報できないこと』か、『ここで電話をしていたこと』のどちらかが嘘じゃないとあり得ないんですよ。」

 いかがですか、とあさひがセウを見つめる。


「…あー、えーと…、とりあえずこれ、見てもらった方が早いですかね?」

 そう言ってセウは自分の役割が書かれた紙をぺらり、とあさひに差し出した。


 【役割:狂人】

 【君は狂っている。君は犯人を見つけなくてもいいし、誰かを殺さなくてもいい。しかし、君は時間になるまで君は大ホールで明らかに無意味な行為をし続けなくてはならない。そして、君は誰かに自分が狂人であると悟られてもならない、これが君の勝利だ。何をするかはその狂った頭脳で慎重に考えることだ。】


「狂人…?」

「そ、だから圏外なのに電話かけてるように見せかけてたの。なんだか人狼っぽい役割だなーとは思ってたんですけどね。」

 あさひのつぶやきにセウが答える。

「じゃあ、なんで最初からそう言わなかったんですかぁ?」

 まよるが問いかける。

「こんな本当に殺人事件が起きてる時にいきなり『圏外だけど電話かけるふりしてました』なんて言ったら容疑者間違いなしじゃないですか! ぼくはそんなの嫌ですよ!?」

「…確かに、役割見せる前だと怪しい行動以外の何物でもないですからね。」

 あさひが頷いた。


「次はセウくんといっしょにいたぼくがいいかな?」

 そう言ってしあんが自分のハンドアウトを見せる。


 【役割:学者】

 【君は知的好奇心が旺盛だ。君は時間まで本を読んでいなくてはならない。君はその知識故に事件後に医師が嘘をついていないことが分かる。だが、独りでいることには気をつけたまえ、君が犯人ではないことは君しか知らないのだから…。】


「そういえば本は図書室のものを読んでたんですよね?」

「そうだよ、ヒントがあるかもしれなかったしね。でも『独りでいることに気をつけろ』って書かれてたからセウくんのいる大ホールにいたんだ。」

 あさひの問いかけにしあんが答える。

「何か面白い情報ありました?」

 まよるが聞く。

「いや、それが全然。それに図書室も結構本の数多いし、この中からヒントあったとしても見つけるのは難しいんじゃないかな。」

「おれちゃんはちゃんとヒント見つけたよ!」

 しあんに対してヨルが豊満な胸を張りながら言い、紙を皆に見せた。


 【役割:隠者】

 【君は恥ずかしがり屋だ。時間になるまで自分の部屋から出てはならない。だが安心して欲しい、君の部屋には充分なヒントが隠されている。隅々まで自室を捜索して探偵と共に謎を解き明かすと良いだろう。】


「ヒントって~?」

 ねこが問いかける。

「殺害現場で言ったでしょ! 非常用のハシゴのハッチが下からじゃ開かないこと!」

 ヨルが自信満々に答える。確かに部屋にずっと篭もって色々調べでもしない限りは解らない情報だ。


「次は余であるな。余にふさわしき高貴な立場であったぞ!」

 ハルマが大仰なポーズを決めながらハンドアウトを見せる。


 【役割:貴族】

 【君は貴い家の生まれだ。事件が起こるまで君は誰かに接待してもらうといい。遊ぶもよし、食事をもらうもよし。君は被害者が貴族ではない成り上がりで、自分の地位のためにたくさんの人間を貶めていたことを知っている。だが、貴き血が流れる君はそれを嫌悪してはいない。君自身の生活がたくさんの人間の犠牲の上に成り立っているのだから。】


「接待って言うと何をしてもらってたんだい?」

 愛州が問いかける。

「そうであるな、余はお昼がまだでお腹がペコペコであったからカリナ殿からご飯を頂いたのである!」

 ハルマがハハハ、と笑いながら答える。

「そうだよー! これが私の役割!」

 最後の1人、カリナが紙を差し出した。


 【役割:料理人】

 【君はコックだ。事件が起こるまで、君は厨房で料理をするかそれを食堂で食べることしか許されない。君は被害者がこの屋敷で食事を取っていないことを知っている。他の客人にとって幸いなことに、君の料理に毒は入っていない。それを信じてもらえるかは君次第だが。】


「なるほど…、こうして全員のハンドアウトを見るとやはり主催者は私達のアリバイをある程度操作していたみたいですね…。」

 まよるが少しうつむき、考え込む様子を見せながら言った。

「というと、どういうことであるか?」

 ハルマが問いかける。

「例えば、ハルマさんの『誰かに接待をしてもらう』という内容は、それに従えばずっと誰かと一緒に行動することになりますよね?」

「まあ、そうであるな。」

「他にもしあんさんの『独りでいることには気をつけろ』、こむぎさんの『一緒に遊ぶといい』、愛州さんの『チェスでも指しているといい』も誰かと一緒に行動するように誘導している可能性があります。」

「チェスは独りじゃ指せないからね。」

 まよるのハルマへの返答に愛州が同意する。


「犯人は自分のアリバイを確保するために、この役割を利用したのでしょう。」

 まよるの発言を受け、あさひがそう続ける。

「つまり、犯人はさっき挙げた4人の中にいるってコト!?」

 ヨルが驚いたように言う。空気がすこしざわつく。

「まあ、そう結論は焦らないでください。」

 あさひが落ち着くように両手を開いて落ち着くように下に振るジェスチャーをする。


「なにしろ、もう犯人は分かりましたから。」

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