【第7章:殺害現場とアリバイ】
「犯人がゲームに関与しておる…? つまり、招待状を送ったのは殺された家主―――?」
「―――ではないかもしれませんね。殺した相手用の役割まで用意しているくらいですから。」
あさひがハルマの質問に答えつつ、皆に現場から発見された2枚の紙片を見せる。
とりわけ【死体】の役割には皆驚きを隠せずにいる。
「そんな…殺されるなんて…!?」
こむぎが震えて言った。
「…本当に殺されたのかも、厳密にはまだ分かりません。」
あさひは顎に手をあてながら考え込むように少し下に俯いて言う。
「自殺の可能性も考慮に入れるべきかも。」
「ぼくたちを巻き込んでの自殺!? だとしたら正気じゃないよ!?」
セウがあさひに反駁する。
「とりあえず、警察に連絡した方がいいんじゃないかな…?」
「私のスマホは圏外だね、皆のはどう?」
しあんが提案し、ねこが周りに問いかける。しかし、確認したものの全員のスマホが圏外になっていると分かっただけだった。
「こりゃお手上げだねー、歩いて人がいるところに行こうにも近くの別荘やらコテージまでも遠いし、行ったとして人がいるかも分からないし。」
「来る時に運転手さんに聞いたけど帰りの車の手配はちゃんとされてるらしいので、そこまでは釘付けですかねー。」
カリナが徒歩での移動が厳しいと指摘し、まよるが帰りの車について補足する。
「状況を確認させてください。」
あさひが切り出した。
「まず、犯行当時2階にいた人教えてください。」
「私とこむぎちゃんはずっと遊戯室にいたよ~、あさひさんも見てるよね?」
ねこが我先に答える。確かにあさひがチェスを指してる間、愛州、こむぎ、ねこはずっと遊戯室にいた。
「あ、私は探検してたから2階の部屋色々見て回ってたよ。1人だったけど。」
まよるが答える。
「ぼくはリビングで本を読んでいたよ。見てたでしょ?」
しあんがセウに同意を求める。セウも首を縦に振った。
「階段が見えるから荷物置いた後はあさひさん、まよるさん、ねこさん、こむぎさん、愛州さんの5人以外は2階に上がってないと思う。」
「確かにぼくだってその時間は大ホールで電話してたよ。しあんくんとずっと一緒だったね。」
しあんとセウが階段から2階へ向かった人間があさひ、まよる、愛州、こむぎ、ねこだけであると証言する。
セウの発言にあさひは何か違和感を覚えた。何か見落としがある気がする。
ひとまず違和感は置いておき、ふとあさひが再び窓を開け、ベランダに出て下を覗き込む。1階の天井がそこそこ高いせいで2階へ壁伝いに登ることは難しく見える。少なくともロッククライミングの知識は必要だろう。
「誰にも気づかれずに1階から壁を登って犯人が部屋に入るのは、少し難しいかもしれませんね。」
外部犯が窓から侵入したのであれば、当然2階まで登らなくてはならない。しかし、外壁登りはかなり難易度が高く、内部犯の可能性の方が高いのではないか、とあさひは感じた。
だが、ベランダをよく観察すると、下の階のベランダに通じてるらしい非常用のハッチがあった。これを開くと、真下にあるヨルの部屋に通じるハシゴが見える。
「ヨルさん、このハッチを使えば2階まで階段を通らずにこの殺害現場まで来られるんじゃないんですか?」
あさひがヨルに問いかける。
「あー、そのハッチね、おれちゃん役割の都合で部屋の中めちゃくちゃ調べたんだけど、そのハッチ下からは開かないようになってたんだよね…。」
あさひがハッチを開け、下に降りる。
「まよるー、そのハッチ閉めるねー。」
「あいよー。」
あさひが1階にいる状態でまよるがハッチを閉めた。あさひは下からハッチを開けようとするが防犯のためかどうにも開かない。ヨルの言うとおりだ。
再度、まよるに頼んでハッチを開けてもらい、あさひは2階に戻る。どうやらこのハッチが閉まっていては下から登って窓から侵入するのは難しそうだ。
残る可能性は2階の別の部屋のベランダから間仕切りを上手く超えて殺害現場まで移動する方法だ。
これが可能なのは同じ側に部屋のあるしあんであるが、1階の他の部屋のベランダから2階に登った後に間仕切りを超えた可能性もあるのでそれだけでは特定できそうにない。
ここであさひは根本的な問題に気づく。仮に現場のベランダまでたどり着いたとして、窓が閉まっている状態ではどちらにせよ侵入ができない。
確実に窓から侵入するには、窓が開いていることを知っていないといけないのだ。
つまり、もっとも高い可能性は「ドアを開けて普通に部屋に入り殺害をした」という流れになる。
要するに、犯行時間に2階にいた人間が容疑者となる訳だ。
「再確認しますが、犯行が行われていた時間他の方はどこにいましたか?」
あさひが切り出す。
「おれちゃんはずっと部屋にいたよ。そういう役割だったし。2階に行ってないのを見ているのは大ホールで一緒にいた人だっておるやろ」
ヨルが弁明する。しあんも、確かに見てないね、とヨルのアリバイを保証する。
「他の人たちはどこにいたの?」
ヨルが他の人をジトッ、と睨む。
「私は2階を探検してたよ。1人だったけど…、でも家主の部屋には入ってないですね。」
まよるが説明する。
「ぼくはあさひさんとチェスを指していたよね。監視カメラを確認して、映っているはずだから。…まあ、監視カメラなんてあればの話だけどね。」
愛州が少し自嘲的に言う。
「ねことこむぎちゃんも一緒に遊戯室にいたよ~。遺体が見つかったのはどこ? って感じであんまり部屋の位置も分かってないし~。」
「そうだよ! あさひちゃんも見てたよね。」
確かにねこ、こむぎはずっと遊戯室にいた。この2人の犯行は不可能に思える。
「さっきも言ったけどぼくはセウ君と一緒に大ホールにいたよ。大ホールにいる間に、階段から2階に上がるの見たのはさっき言った5人だけだね。」
しあんが再度補足する。セウも頷いている。
「私はその時間、この人と一緒にご飯食べてたよー!」
カリナがハルマを指差して言う。
「昼ご飯がまだであったためであるしな。役割としてもそういう動きをしていたである。2階には荷物置いて行っただけであるな。」
「情報をまとめましょう。」
あさひが切り出す。
あさひ、愛州、こむぎ、ねこは一緒に行動していたため犯行は不可能。
カリナとハルマは一緒に食事をしており、2階に上がっていないことはしあんとセウが保証している。
ヨルは部屋に籠もっているが、ハッチからも侵入できない以上、同様に2階へ上がっていないことは分かっている。
言うまでもなく、しあんとセウは大ホールで一緒に行動している。
「待って待って! じゃあ…もしかして―――」
まよるが焦りを見せる。ほとんど複数人で行動している人間の中、2階で単独行動を取っている唯一の人間が見つかった。
「―――アリバイがないのは…、まよる、だけ?」
あさひが、困惑を隠せず呟いた。
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