【第6章:殺人】
遊戯室の柱時計が鳴る。
「…時間だね。引き分けでいいかな?」
そう愛州は切り出した。
「いや、私はもうほとんど詰まされていたので…。」
あさひがそう返す。実際、リザイン、つまり投了するところに横槍を入れられた形であり、引き分けとするのは寝覚めが悪い。
「ねーねー! はやくいこーよー!!」
いつの間にかエアガンで遊んでいたこむぎが2人のところまで来ていた。ねこもその横で腕を組んでいる。
「とりあえず勝敗は置いといて、館の主の部屋まで行こうか。」
「あっはい…。」
なんだか勝ちを譲られたようで、あさひはぼんやりと罪悪感を覚えつつ席を立った。
遊戯室のドアを開けると階段の前にすでに他の招待客の面々が揃っていた。
「こらこら、キミたち遅いぞー!」
カリナがニシシ、と笑いながらちゃらけて言う。
「この2人がチェスからなかなか離れなくて~。」
ねこが愛州とあさひの方を指差す。
まよるが集団の中であさひにやっほー、と小声で言いながら小さく手を振る。
「どっちでもいいですけど、ぼくら全員揃ったことだし部屋に行きません?」
「それもそうであるな。」
セウの提案にハルマが同意する。こうしてゾロゾロと2階の奥にある館の主、白夜モリアーティの部屋へと向かうのだった。
コンコン、としあんが白夜の部屋をノックする。返事はない。
「一応、ノック必要かなと思ったけど、留守みたいだね?」
ガチャリ、とドアノブを回すと鍵は掛かってないようだ。どうする、としあんは後ろの皆に向けて視線を向ける。
「それじゃ、おれちゃんいっちばーん!」
ヨルが横からドアノブ回すとバタン、と勢いよく扉を開けた。
主人の部屋だからと言って作りは他の客室と変わらないようだ。8から10畳ほどの広さの寝室に洗面台と浴室とトイレ。テレビと思われるディスプレイが部屋に備え付けてあること以外はあさひの客室と同じだ。
ただし、寝室にうつ伏せ倒れ込んだ血を流す人影を除いて―――。
「キャァーーーーーーーーーー!?!!?」
ヨルが叫ぶ。続いて入室してきた人々も困惑している。
「て、手の込んだ演出であるな。まさか死体役の人形まで用意してあるなんて…。」
「ちょっと失礼。」
ハルマを遮り、内ポケットから出した手袋を着けながらあさひが前に出る。倒れ込んだ人物に近づき、まずは首元を触る。
感触から明らかに人形ではなく人間だとわかる。脈拍はなし。
背中にハンドアウトが置いてあった。横によけておく。
呼吸の状態を確かめ、可能ならば応急処置をするため肩を掴んで仰向けにひっくり返そうとする。いつの間にか手袋を着けたまよるが横に来て手伝ってくれた。
仰向けにするとどうやらこの人は女性のようだ。胸部と腹部から出血している。口にもなにか書かれた紙切れが詰められていた。取り出してよけたものの、呼吸はしていない。
「間違いなく人間です。脈拍、呼吸共になし。」
そう言うとあさひは右手の手袋だけ外し、手の甲で倒れている女性の頬に触れた。冷めきってはいないが、体温の低下が始まっている。心臓マッサージも人工呼吸も手遅れだろう。
手際よく死体を弄る2人を皆呆然を見ている。と、愛州が近づいてきた。
「うん…。手遅れだね。死斑はまだ斑点の状態、温度も冷めてはいるけど冷え切ってはいない、と。」
そう言いながら愛州は死体の肘や首を曲げてみている。
「死後硬直もまだだね。せいぜい死後1時間か2時間くらいじゃないかな。」
「お医者さんですか?」
まよるが問いかける。
「いや、ドクターの先生じゃないけど病院のような場所にずっといて、その…とにかく死体には慣れてるんだ。」
愛州が少しはぐらかして言った。だが所見は概ねあさひの知っている知識と合致する。
「ちょっと待って。もしかして、これ、本物の死体で、しかもおれちゃん達が来てから死んでるってコト!?」
ヨルが錯乱している。無理もない。皆が息を呑む。
「…そういうことですね。」
あさひがそう言いながら周囲を捜索すると、ベッドの横にハンドガンが落ちていた。
「凶器はこれかな?」
「少なくとも銃で殺されたのはそうっぽいね。」
まよるが被害者の服の胸元をはだけ出血元を確認する。銃痕のような傷跡が確認できる。
「どういうことであるか!? つまりこの中に殺人犯がいると!?」
ハルマが怒鳴る。ビクッとした空気が走る。
あさひは無言で立ち上がり窓に向かい、ガララと開ける。
「…そうとも限りません。この通り部屋の窓は施錠されていませんし、外部犯の可能性もあります。」
続いてさきほど避けておいた2枚の紙を読む。まずは1枚目、背中に置かれていたハンドアウトだ。下の部分が途中から切り取られていて、読み取れない箇所がある。
【役割:犯人】
【君は主催者であり犯人だ。君は最初にこの館に来てもらうことになる。君の部屋からは大ホールの隠しカメラの映像が見える。10人の参加者が揃い準備ができ次第、部屋にあるスマホから音声を再生したまえ、スマホは無線で大ホールのTVのスピーカーと繋がっている。その後は部屋に籠もっていることだ。やがて被害者が君の部屋を訪れ、凶器をプレゼントしてくれ】
次に2枚目、口に詰め込まれていた紙だ。こちらは丸められていたシワや体液の付着があるものの全文読み取れる。
【役割:死体】
【被害者が犯人の前で凶器を持った時、復讐をするのは当たり前のことだ。プレゼントはお気に召しただろうか? もっとも、答える口は塞がっているが。】
「…外部犯の可能性がある、と言ってもこのゲームには関与しているようですが。」
あさひは自分に言い聞かせるように言った。
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