【第4章:ゲームの始まり】

 【役割:探偵】

 【君は探偵だ。事件が起こるまでは好きに過ごしたまえ。君はこの状況に偶然放り込まれた存在であって、情報は何も知らない。だが君は事件が起きたら聞き込みを行い嘘を見抜き、犯人を見つけなくてはならない。もっとも、犯人が嘘をついているとも限らないが…。誰が犯人であろうとためらわずに告発することだ。次に殺されるのは君かもしれないのだから…。】


「これってつまり、ノーヒントだけど謎解きは頑張れ、ってことだよね…。」

 あさひはハンドアウトを見ながらあごに手をあてて考えこむ。

 探偵である以上、探偵役であることに当然不満はない。だが、この手の謎解きゲームでノーヒントというのは大きなハンデである。

 相棒であるまよるはともかくとして、他の招待客とも親交を深めてあらかじめ聞き込みする『コネ』を作っておくべきかもしれない。

 あさひはそんなことを考えながら身支度を整え、私室を後にし大ホールへ向かった。


「おー、あさひー、役割なんだったー?」

 近づくあさひを見て、大ホールのソファにゆったりと腰掛けたまよるが手を振った。

「…まよる、そんな簡単に自分の役割言うようなゲームじゃないでしょ。」

 あさひはソファの前まで歩き、腕を組みジトリ、とまよるを見る。

「いやいや、うちらの仲やないですか?」

 このこのー、とまよるが軽く肘でこづくジェスチャーをする。軽く目をそらし、はあ、と息をつくあさひ。


「それで、この後どうする? 私は他の人と話でもしようかなと思うけど。」

「はい! 私、ちょっとこの御屋敷探索してくる!」

 まよるが立ち上がり、右手を高く挙げながら元気に答えた。あさひは少し面食らった様子だ。

「元気がよろしいな。 またどうして?」

「いやー、今回うちは探偵ちゃうて探検家やさかいなー。」

 へへ、となぜか照れくさそうにまよるが言う。同じ大ホールの中、しあんが別のソファで読書しており、セウが壁際でスマホに向かって何かを喋っている。

「…まよる? さっきも言ったけど―――。」

「『簡単に自分の役割言うゲームじゃない』でしょ? 分かってる分かってる。大丈夫、紙を見せなければ言うのは問題ないって白夜さんも言ってたし。」

 得意げな顔をして人差し指を立ててまよるが言った。

「―――それに、私が嘘をついてるかもしれないでしょ?」

 まよるがあさひを覗き込む。青みがかった瞳が深海を覗き込んだようであさひを不安にさせる。思わず息を飲んだ。


「なんてね!」

 まよるがおどけて見せる。びっくりした? 、とからから笑っている。

「それじゃ別行動ってことで、よろしくー。」

 そう言ってまよるは軽く手を振りながら階段に向かって歩いていった。どうやら2階に上がるようだ。


 まよると入れ替わりで2階から1人降りてきた。紫の髪に眼帯を着けた姿…、愛州だ。

 しばらくキョロキョロと周囲を見渡し、あさひと目が合うと歩み寄ってきた。

「あの…あさひさんでしたっけ? その…チェスしませんか?」

 少しバツが悪そうに愛州が誘う。

「チェスですか? いいですよ。弱いですけど…。」

 チェスのルールなら少しかじったことがある。せっかく他の招待客とコミュニケーションを取るチャンスだ。断る理由もない。

「よかった、上の遊戯室にチェス盤はあったんだけど、指せる人がいなくてね。」

 安心そうにはにかんで愛州が言う。

「ああ、そういうことですか。あんまり指す人いませんもんね。」

「そう…。遊戯室に人はいるんだけど、誰もやったことがないらしくて…。」

 などと喋りながら2階への階段に向かって2人は歩き始めた。

 

 エントランス正面にある階段は、奥の壁際で左右に分かれている。その壁には大きな絵画が飾られていおり、ギャラリーの部屋があるという話も合わせて館の主が芸術に造詣が深いのでは、とあさひはなんとなく思った。

 2人は分かれた右側の階段を登ったが、結局のところどちらの階段も2階の同じ広間の左右に繋がっているだけだった。

 記憶にある館内図によれば、正面に見えるドアがギャラリーだろうか?


「遊技場はこっちだよ。」

 愛州が登って左側を小さく指差す。

 愛州の先導で遊戯場に入ると―――。


 パァン! 


 ―――銃声がした。


 銃声の方向を見るとそこには―――。

「いえ~~い!! 全弾命中!」

「すっごーい! ねこちゃん!!」

 ねことこむぎがエアガンで遊んでいた。

 そういえばエアガンの射撃場もある、と白夜が説明していたのを思い出す。


 はしゃいでいるねことこむぎを尻目に、愛州がチェス盤の所まで先導する。

 木製のテーブルの上に載ったチェス盤は木目の色とクリーム色がチェッカー模様になっている。駒に少し触れるとどうやら象牙製の貴重な品だとわかる。

 愛州は並べられた駒の黒側に座った。

「先手はどうぞ。遊びだし制限時間とかも無しでいいよね?」

「はい。大丈夫です。」

 あさひは白、先手側に座る。相手とどのくらい技量差があるかは分からない。接待などと考えずひとまず普通に指してみよう。

 

 かくしてゲームは始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る