【第3章:ルール】

『ようこそ皆様、お集まりいただけて光栄です。私がこの館の主人、白夜モリアーティです。』


「このテレビ、さっき触った時は何も映らなくて困ってたんだよね」

 セウが言う通り、テレビのディスプレイには何も映っていない。しかし、その横のスピーカーからは加工されて男性とも女性とも分からない音声が流れていた。


『皆様にはこれからこの館で起きる殺人事件の関係者になっていただきます。』

「あ、それってマーダーミステリーの―――。」

『皆様に割り当てられた各々の個室のデスク。そこにそれぞれの役割や目的と事件前後の行動、ヒントとなる情報などを記載したハンドアウトを置かせていただきました。』

 あさひが問いかけようとするが、白夜はそのまま話を続ける。

「多分これ録音じゃないかな。時間も1時ちょうどだし、タイマーとかで流れるようにしてさ。」

 まよるがスマホの時計を確認して言う。あさひ含め数人が各々スマホや腕時計で午後1時であることを確認した。


『基本的なルールとして、皆様にはそのハンドアウトの内容に従った行動をしていただきます。』

 白夜の音声が抑揚なくルール説明を続ける。

「ハンドアウトって何のこと?」

「ハンドアウト…、印刷された紙とか書類のことだよ。」

 こむぎと愛州が小声で会話している。


『ハンドアウトに何が書かれていたか、他の参加者の方に言うのは自由です。しかし、その紙を実際に見せたり、見ながら他の方と会話することはおやめください。』

「これは普通のマーダーミステリーのルールだね。」

 しあんが独りごちる。そうなんだーとカリナが小声で答える。

『もちろん、ハンドアウトの内容を他の方に伏せることも、嘘をつくことも問題ありません。』


『16時、つまり午後4時になったら全員で私、白夜モリアーティの部屋までお越しください。そこが事件の現場になります。』

 皆が押し黙ってルール説明を聞いている。

『その時間までは割り振られた役割に従った範囲で、ですが、お好きにお過ごしください。』


『1階のエントランスから入って左手の食堂とキッチンには皆様の食料が用意してございます。インスタントで心苦しいですが、お口に合えば幸いです。』

「えー、パン焼けないのー」

 不満そうにこむぎが呟く。


『また、1階には他に談話室や図書室などもございます。こちらは共用の施設ですのでご自由にお使いください。』

『2階には私が個人的に蒐集した芸術品を展示したギャラリーの他、各種ボードゲームやエアガンの射撃場などを備えた遊戯室もございます。こちらもご自由にご利用ください。』

「遊戯室にSwitchとかないかな~?」

 ねこが目を輝かせている。


『また、2階には私の執務室、アトリエ、物置がございますがそちらに関してもご自由にお入りいただいて構いません。ただし、私の私室だけは午後4時になるまではお入りにならないようお願いいたします。』

『それぞれの部屋の位置については玄関に置いてありました館内図をご参照くださいますようお願いいたします。』

 館内図を見ると説明のされた部屋の他はすべてが誰かの私室のようだ。

 1階右奥から手前にあさひ、まよる、カリナ。

 1階左奥から手前にヨル、こむぎ、セウ。

 2階右奥から手前に愛州、ハルマ、ねこ。

 2階左奥が家主である白夜、そこから執務室を挟んで手前にしあんの部屋がある。


『そして、迎えの車が来る明日の午後4時がこの事件の謎を解き明かすタイムリミットです。』

 どうやら事件が発生してから24時間以内に解決しなくてはならないようだ。

『それまでに情報を集め、事件の真相を解き明かしてください。もっとも貴方が犯人であれば、事件を迷宮入りさせるよう努力することになるでしょうが。』


『一部の方には今回のイベントについてサプライズでお招きさせていただきましたが、皆様には満足していただけるものになると私は確信を持っております。』

「随分自信家さんであるな。」

 ハルマが呟いた。


『さて、今回のイベントの説明は以上です。皆様、ご清聴ありがとうございました。この後は各々の部屋へ向かい、ハンドアウトを確認した後お好きにお過ごしください。改めまして、皆々様この度はようこそいらっしゃいました。』

 そうして音声の再生が止まった。


「っていうワケで、とりあえず荷物を部屋に運ばん?」

 ヨルが手を叩いて言うと、皆それぞれ自分の部屋に動き始めた。

 2階に部屋のあるハルマがねこやしあんの分の荷物も持とうか、などとやりとりしているのを尻目に、あさひとまよるも自室へ向かう。


「じゃあ、荷物置いて役割見て準備できたら大ホールに集合でいい?」

 部屋に入る前、あさひがまよるに確認をする。

「おっけー、じゃあせっかくだし楽しもうぜい。」

 まよるが左拳を軽く上に挙げた。ふふっなんやそれ、と言いつつあさひも軽く拳を挙げつつドアを開ける。


 部屋は入ってすぐ左手に洗面台と浴室、その奥に洋式のトイレがあり、そこをまっすぐ進むと8から10畳ほどの広さの寝室があった。

 建物の作りの割りに中はリフォームされているらしく、比較的小綺麗で快適そうな作りだった。寝室のベッドもマットレスが心地よく、洗面台にもホテルのようなアメニティの類が用意されていた。

 寝室のベッドの横には机が備え付けられており、その上に1枚の紙片が置かれていた。例の左上に三匹の獅子が配置されている十字の書かれた盾の印章の判が末尾に押されている。

 あさひは、荷物を置くとその紙を手に取り、目を滑らせた。


【役割:探偵】

【君は探偵だ。事件が起こるまでは好きに過ごしたまえ。君はこの状況に偶然放り込まれた存在であって、情報は何も知らない。だが君は事件が起きたら聞き込みを行い嘘を見抜き、犯人を見つけなくてはならない。もっとも、犯人が嘘をついているとも限らないが…。誰が犯人であろうとためらわずに告発することだ。次に殺されるのは君かもしれないのだから…。】

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