【第2章:出演者】
人生において第一印象は大切である。
初対面で悪い印象を持たれれば相手から避けられやすくなり、それを払拭するチャンスは当然少なくなる。『悪名は無名に勝る』という言葉もあるが、悪い噂は広まりやすく、良い噂は広まりにくい。一度でも印象が悪くなればそこから挽回するのは難しいものだ。
全員揃って挨拶するまで部屋に行けません、という状況で一番最後に集まるなんて、まさに最悪の第一印象を与えかねないシチュエーションだろう。ここで愛想を振りまかねば、聞き込みによる情報収集すらままならなくなってしまいかねない。
これは探偵としての死活問題だ。まずは挨拶をしっかりし、汚名返上といこう。
「到着が遅れまして申し訳ありません。はじめまして! わたしたち、あさよる探偵事務所です! わたしはまよるワトソン! こっちが―――。」
「あさひホームズです! 皆さんも招待状が届いたんですか?」
精一杯の笑顔で自己紹介。しかし、他の8人は少しキョトンとしている。
一瞬の沈黙。
「んっふっふ~、探偵とはこれはまた気合入っとるね~~!」
はっと気づくと桃色の髪の少女が微笑みながら鈴が鳴るような声で近づき話しかけてきた。左側でくるんと輪にしてからサイドテールにして流した髪型と白いまんじゅうのような生き物の髪飾りが特徴的だ。
少女はあさひとまよるの格好を下から上へと舐め回すように視線を動かす。
「いーなー! せっかくだから私も探偵服とか用意してくればよかった~~!」
「あ、あの…。」
「あ、ごめんね、あさひちゃんにまよるちゃんだっけ? 私は神谷ねこ! ねこって呼んでね!」
「余も驚いたであるよ。ドアを開けたら探偵がこんにちはしているであるからな。」
後ろからさきほどの緑髪の青年が声をかける。振り向くと、後ろで束ねた長い髪がサラリと揺れ、緑色にきらめいていた。
「おっと、余は佐天ハルマ。確かに殺人事件とあらば余のような魔王より探偵の方が安心であるな!」
名乗りつつ赤いマントをバサリ、と翻し、手を顔の前にかざす、赤みがかった瞳が光を反射したのか一瞬発光したようにも見える。
「まおう…?」
「さつじんじけん…?」
2人が首をかしげた。どうやら変なところにお呼ばれされたのかもしれない。
「あれ? 招待状ってコレのことだよね? ぼくも持ってますよ?」
水色の髪を短いツインテールにしたオッドアイの子供がそう言って近づいて紙を見せた。あさひとまよるの2人は紙を覗き込む。
「「『マーダーミステリーのお誘い』…?」」
「そう! マーダーミステリー! だからかわいい探偵の格好をして来たのかなって思ったんだけど…。」
「そうそう! 私も『気合入ってるな~!!』って思ったん!」
「余もそうであるな。主催者がモリアーティだからホームズとワトソンにする設定もよくできておるなと。」
オッドアイの子供にねこもハルマも同意する。他の面々もまばらに頷いている。
マーダーミステリー、殺人事件を題材にした推理ゲーム。
参加者が主催者から割り当てられた役割にしたがって、その中に紛れ込んだ殺人犯を見つける、あるいは殺人犯として逃げ延びることを目的としている。
実際に相手とやりとりして情報を集め推理するというシチュエーション上、中には探偵の仮装をして参加をする人もいるとか。
「ちょっとまよる。」
あさひが小声でまよるを呼ぶ
「…もしかしてやけどさ。」
「もしかしなくともそうやと思う。」
まよるも小声で頷く。ここにきて2人は同じ結論に至った。
『マーダーミステリーの探偵役として呼ばれた上に、探偵のコスプレだと勘違いされとる!?!?』
「よくできたコスチューム! かわいいーー!!」
オッドアイの子供が鼻息荒く2人を観察する。ぱっちりとした瞳は右が黄色、左が赤く、十字をモチーフにした飾りをつけた水色の髪によく映えている。二次性徴前のような中性的な見た目だが、鎖骨を出しスカートを履いていることから少女のように思える。
「あ、ぼくは天使セウです。よろしくねっ!」
「おれちゃんも探偵しゅき…。なんだかはじめて会った気がしないんだよね!」
黒いセミロングヘアにピンクのメッシュが入った髪をした女性が近づいてくる。耳にだけでなく目元や首元、さらにはよく見るとへそや舌にまでピアスをつけている。若干のツリ目に困り眉が少し特徴的な美人だ。へそや肩を出した露出の多い扇情的な服装であり、そのバストは豊満であった。
「ン、おれちゃんはて~んさい可愛い猫崎ヨルだァ! 仲良くして欲しいなってワケ。ちゅ♥」
そう言って投げキッスをした。どうやらあさひとまよるは彼女に気に入られたようだ。
「ずるい!! こむぎも自己紹介する!!」
ブロンドボブカットの小柄な少女が元気よく手を挙げた。手首にシュシュをつけているのが見え、その大きな瞳は緑がかった色をしている。白いブラウスに茶色のスカート状になったエプロンを着け、短いソックスによって見える太ももが健康的な印象を受ける。
「パン屋さんで働く見習いの桐谷こむぎだよ! よろしくよろしくよろしくねーっ!!」
「自己紹介する流れっぽいね! ぼくは柊しあん。」
薄桃色の髪に青い瞳をした少女が胸に手を当てて自己紹介する。白みが強いクリーム色のセーラー服をモデルにしたワンピースのような服を着ており、頭には黒いリボンを着けている。笑顔が眩しいキュートな子だ。
「あ、こう見えても男の子だからね!」
「え!? 男の子だったの!?」
オレンジみの強い金髪の女性が驚く。何人かも動揺しているようだ。
「あ! 私はカリナミューでーす! ぱろー!! 歌手やってます!」
さきほどしあんの性別に驚いていた女性が挨拶する。半透明のパーカーに赤いTシャツとホットパンツを合わせており、首から8分音符を模したネックレスを下げている。青みがかった瞳がボブカットの金髪によく映え、口元から覗かせる八重歯もあり、元気な印象を受ける。
「歌手なの!? すごい!!」
こむぎが挨拶に反応して目を輝かせた。
「ふふーん! カリナお姉さんはこう見えてもすごいのだ!」
「…僕が最後みたいだね。はじめまして。僕の名前は愛州106。好きなものピアスはとうさぎ。嫌いなものはお風呂と女。」
紫の髪と瞳、左目に眼帯をした中性的な人物が名乗った。どこかで怪我をしたのか右頬にガーゼ、左肩に絆創膏が貼られており、首に大きな傷跡も見える。確認できる右目にはクマが深く刻まれ、左耳に牧畜の管理用のタグを思わせるバーコードのピアスをつけている。落ち着いた声色で全体的な印象として不健康だがどこかミステリアスな魅力を感じる。
「あいすいちまるろく…? どこまでが名字…?」
しあんが不思議そうに問う。
「『あいす』と『いちまるろく』で分けるのが正解かな。厳密に言うなら、名字ってものじゃないけどね。」
全員が自己紹介を終えたところで、大ホールの壁際にあるテレビ、その横に備え付けられたスピーカーから音声が流れ始めた。
『ようこそ皆様、お集まりいただけて光栄です。私がこの館の主人、白夜モリアーティです。』
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