第八話 追憶と追尾

エンドロール。最悪のバットエンドだ。俺はただそれが許せなかった。俺が死んだらあいつはきっと一人になる。

「それはできない」

過去の懐かしい情景を思い返す。捻り出す。


火の海。たくさん転がっている。みんな焼けている。死んでる君達と僕自身にそれまでのやつと括りをつける。

人間の少年である僕は嘔吐と不器用な呼吸の反芻。死にそうだったんだ。

戦場での出来事。火の花弁が舞う死体の山に立つ男がいた。焔を纏った侍。御伽話の英雄。

彼は戦場で舞う桜のようだった。剣豪の彼は言った。

お前の命の消失は早い。お前を斬り伏せるのは容易い。

長い刀からは熱気が込みあげる。真っ赤な血は焼け焦げて散る。花は似て非なるものだと思った。

さらば、にんげん

瞬間、楽になる気がした。この殺人鬼のおかげで僕は楽になれると。刀は俺の肉を千切るように見えた。



避けた紙一重の風が受け身を促した。

「終わりだ!」次にもう一人の憲兵によふ追撃。

 俺はコイツらに殺され死ぬものか。

 俺は殺してでも生き残ってやる。

 まずはこの最悪的、状況の突破を目指す。

 一対一の状況作りからだ。

 追撃してきた憲兵。実力は俺より下なもの、囲まれると厄介だ。

 俺はそいつを掴み身を守る術として使う。

「お、やるねー。さすが俺らと同じ日本の侍だあ。そのトリガーを投げて、そいつを離せば、俺らと良い友達になれたのにさー」

常識人のつもりか。この狂人が。


「お、お前!?」

真面目な男は凄く意外そうに仲間らしき者を見る。

コイツらなんだ。戦友なのか?

「俺もあの生命体に格好つけちゃってね。人殺しはしたくないんだ。」男は肩をすくめる。その柔らかな自然さは演技のように思える。


俺も一人で同じこと考えたな。つまりお見通しなのだろう。


「その職業じゃ無理だな」

 率直な感想。対して男の職業など興味ない。

「彼女の身分でもね」

 少しの反論。楽しそうだ。

「一緒に来いよ」

 こいつを仲間にできないか誘ってみる。

「やだ」

 憲兵の率直な感想。対して興味なさそうだ。

「じゃあさよならだ」

 掴んでた憲兵を思いっきり切り株に投げる。

「ハハハ」突然、笑い出した男は少し満足そうだった。

……昔話にあったな。兎が切り株に首を打って死ぬ話。


エルは今頃 逃げてんのかなあ? あいつは兎から突然変異を起こすだろう。


「お前を八つ裂きにして、その飄々とした顔面引きちぎりてぇ」笑う男に刀の鋒を向ける。刀身ら鋭く真っ直ぐだった。

「ガキの戯言だ」敵はリボルバーを構える。目つきは一瞬、ナイフのようにギラついた。


意識は飛ぶ。心臓の鼓舞が聞こえる。

刀で流れるように三段、筆に近いイメージで刀身で迫力をつける。男は回避。無表情からは俺の思考の演算が読み取れる。

「フッ、ハハハ!」笑いが止まらない。これほどに楽しい斬り合いは初めてだ。

男はニヤリと笑う。

「刀なんて、今時流行らないんだよ」

バックステップでの後退から構え。

リボルバー三発。男は膝を最初に狙う。次に、跪くように落ちる頭を。何かの本で読んだ。

試さない理由はない。

死など恐れない。誰も殺さないなど、それほどの馬鹿じゃないと実現はできない。

刀剣は何者にも負けない気がした。柔らかく真っ直ぐに斬り込みを入れる。繊細な斬り方だった。

「へー……銃弾。使えね」男は一瞬で無表情に戻る。

抜剣を開始した。

「ニコチン足りねー」苛立ちをあらわにするように

歯軋りをした。

俺はこの男を倒す。リボルバーを構える……


その時だったもう一人の憲兵は俺の死角を陣取っていた。

「あ、ないす」道化師は呆気なさそうに勝利を確信した。

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