第七話 道化師

甘露は山の雑木林を駆け抜けていた。

煙幕で憲兵を巻くとき既に狼煙が上がっていた。心持つ殺戮機械キラーマシンが打ち上げた。

この狼煙は護衛対象の安否を確認する重要な役割を担っている。この合図は二人の作戦通りということに他ならない。

奪還の成功。装甲の修理が成功。エルの逃亡の成功。

この工程プロセスの結果、軍人五人の追跡に見つかる前に甘露は山からの離脱を試みなければ命はなかろう。

無論計画通り、命を掛けなければ勝機などない。

もちろん離脱した後の彼の目的は護衛対象エルと合流することだが、エル本来の力さえあれば急ぐ必要はない。

甘露もとい青年は合流のため林を駆け回る。螺旋状に巡る。

(離脱ルートは確認はしてある。エルが山から逃走に成功したなら、その先までなんとか逃げ延びてほしいものだが。)青年は敵の位置が気になるものの今は偵察や休息の暇など存在しない。

なぜなら、敵との一対一タイマンなら勝機はあるものの、挟み込まれれば絶望的な戦局となるからだ。

山からの離脱が命を繋ぐこの作戦、最後のタスクだった。

二合目、作戦成功は目前。廃れた石段から降りようとしたところだった。彼にとって絶望的な戦局は唐突に襲う。

「おーい」呑気な発声から変転。青年が気付くよりも先に

迫りくる殺気。轟く上鳴のような一閃。

「!?」甘露は驚きながらも抜刀、なんとか受け止める。

奥からもう一人の追撃。吹き飛ぶ。エルに分配された追手ー憲兵だ。

青年は反撃に弾丸を走らせる。静電気のように散り散りと憲兵の刀を掠る。憲兵が受け流す刀の先は鋭い。

「奇襲作戦は上手かったのになぁ……」一人の憲兵から殺気が消える。殺気、つまり感情を操作コントロールしている。

相手はその手の熟練者らしい。

「まあ、やるじゃん。本職の一撃を受けてのそれは。」痩せた男が笑いながら銃を構える。躊躇いなどない。

爆転。やつの予測するはずのない方向に弾を避ける。

「手練れだ!心して戦え!ソイツを捕まえて情報収集する。」憲兵の男は言う。いかにも真面目そうだ。狙撃手ガンナーらしい。

「相変わらず真面目だねー。」銃を撃ちながら藪睨み男を見る。カチカチと空の音がする。

「目的を見失いやつあたりか?」青年は言った。反撃の手立てを練る。

「うーん。書生こどもだからって手加減しないよ?」

弾幕戦が始まる。

甘露は銃に通常弾を六つ押し込む、リボルバーの灰弾は既に枯れ果てている。アタッチメントのガスエネルギー切れのようだ。

「遅いよ。」道化師の男が回り込む。彼が起点作りの風になっているようだ。

「遊びじゃないからさー。」

道化師の仮面。甘露はその男の仮面を外してみたいように思えた。

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