第六話 気分屋の思想

あたり一面の灰は目眩ましのための狼煙。

索敵を開始する。敵をかき分ける。この狼煙は数秒しか持たない。全速力の疾走。

敵は追ってくるかもしれない。しかし、わたしのことを守ってくれる人間がいる。後ろは任せる人間がいる。

見つける。三分割の破片。装着できるものはしておく。

ポーンは前へと進むことが基盤である兵士がモデルなんだ速度に影響は出ない。

解凍と圧縮を繰り返し解析かいとうを求める。そして同時に逃走のタスクも進行させて行く。

逃走中の演算。装甲は右脚とエンジンを除き無事だ。

大剣と括り付け、最小化、即ち携帯化して持ち運ぶ。

「ああ、おかしい。」

何時からなんだ。空っぽな意識が今この一瞬を生きるために必死なんだ。抗ってんだ。

空っぽの頭になったつもりだ。無意識に演算トレード・オフは続いてるのだろう。

消えたい。消えたいだけだったのにどうして。

わたしは生きる意味を見出せた気がしてるんだ。

誰かを殺すためじゃない。自分の価値の存在の否定。

でも見てみたいんだ。あの人間と逆境を越えた逃走の最果てを。

もし最果てに到達できたのなら謳うだろう。わたしの夢を。

最短距離を走る。崖のような坂を滑る。

大剣で受け身をとる。無我夢中で空中を踊っていた。

レーダーを張り巡らす。電波を打ちつけ生命体反応を探す。

追いかける人間は2人。

彼が3人引き付けてくれたのならいいほうだろう。マップを把握。余裕がある。修理リペアのタスクを少し織り込む。

ユヅキと落ち合う予定の場所へと近い境内ここで準備を整えるつもりだ。

念のため最低限の安置を取る。寺の斜面の高い屋根に階段から登る。幸いなことに等に廃れ人はいなかった。

工房を開く。自分の中にあるネットワークから設計図を取り出す。必要な部分をパッチワークで補う。稼働できればそれで十分。戦力になれるはずだ。

心情。不思議なことに焦る、この心は偽物だが焦るんだ。

抽出して補う。パーツを縫う。何故か懐かしい気持ちになった。

「すごいねぇ。君は破壊以外にもできることがあるんだ。」

大剣を構える。威圧する。

「からかうなよ。貴様は敵だろう。」

追いついたか。ユヅキが来るまでは耐えるしかないな。

「駆けっこには自身があるんだ。僕が一番最初に龍を見つけたんだ。」

鬼は言う。街を駆け回る子供達の一人のように楽しそうだ。

「心が宿ってんだ。……どんな気持ちになんの?」

目を細め、笑いながら言う。

「図々しいな。わたしは貴様の経験を積むための道具として存在してるんじゃない。」

歯をギリギリと擦り合わせる。それは怒りだと気付く。

「へぇ。兵器じゃないのか。人間みたいだ。」

鼻で嘲笑するような声。奇妙な男は下らないとでもいうように冷たい顔をした。

「貴様は仕事に自分の感覚や私情を挟みすぎじゃないか。

軍隊は商品で道具でいいと教わるものだろう。」

「まあ誰かのいいなりのなるのは嫌でさ。生きてる気がしないんだ。用するに気持ち悪いんだよ。昔っから。自分が良ければ良い?そんな感じ。」

男は顎で指示する。それを理解するのに少しかかった。

「期待してるんでしょ?行けよ。お前が帝都の中で一番面白い。」

「あの青年は今の君より強いんじゃないか?

大丈夫。あと何回かは冗談で通せる。」

また会えるかのような。わたしたちが生きていると確信してるような素振りだ。

「皮肉屋よ。ずいぶんと有効的だが、貴様は仕事を放置するのか。」

嘘に見えないんだ。胡散臭いのに。

それに嘘をつくやつは必ず体のどこかを触る。しかしやつはそれをしない。

本当に奇妙なやつだ。俗に言う狂人だ。

「こどもだからね。けどその代わり証明してよ。

本当に人間になったなら人を殺すことはやめてみろよ。考える猶予をやる。見逃してやる。

自分の存在価値を否定して証明してよ。」

男はそっと煙草に火をつけた。相手は背をむける。

盲目なやつが何を見ているかなど知らない。

それはわたしが盲目だから見える錯覚か。

「礼は言わない。」

大剣を空中から大地に向かい投げる。人は傷つけないと誓った。

現在進行形のタスクを中断して境内から降りる。

装甲は直った。空に向かいから煙幕を上げる。

「派手なやつだねぇ。」


「おい!やつはどこ行った!?」

「逃げられたよ。」

「お前なんで煙草なんて吸ってる!?仕事中だぞ!」

「君はなんで付いてくるの遅かったの?

 もっと早く来て欲しかったよー。」

「お前はいつもそうやって、都合のいいことばかり……。」

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