第五話 灰に潜る

弾を一つ。二つ、と装填。空を仰ぐ。太陽が木々から覗いてる。

構える。普段とは違う使い勝手のリボルバーの射程範囲に意識を向ける。

トリガーの先を見る。使い勝手が違う理由。

これは特殊弾を構築するアタッチメント。特殊弾とは煙幕を燻すもののことだ。

エルがわざわざ作ってくれた。自分を直す要領でやったのだろうか。

あいつもあいつなりにやれることをやってくれている。無論、そのほうが成功率が上昇する。

壊した装甲に向かい弾を発射。満開の灰、敵を拡散させる。

「なんだ?装甲から煙が!?」

「装甲から出てるんじゃない。敵襲だ!」

推測するにやはり帝都の者だな。しかし、エルは煙に潜り、敵の位置を予測し装甲の奪還に成功するだろう。

この作戦の弱点としては二つ。

俺の存在とエルの位置情報がバレることだ。

俺がやつらにとって正体不明であれば、手の内が見えない切りジョーカーになる。しかし、逆に戦法も拠点も割れているとういことになれば敗走の可能性が増える。

次にエル。彼女の位置を敵が把握できるならば、この戦いは困難になる。極論、彼女の防衛戦なんだ。

エルは今、戦力としては微妙なところだろう。

エルの弱点である装甲の有無で戦闘力が大幅に変動する。

戦力の強化のために、いきなり装甲が保管されている帝都の陣営に向かって生きて返るのは芸術家がすることだ。これの成功率、及び生存率を上げる方法は戦力の底上げ。

装甲を奪還し修理させること。

そのためにもこの作戦は成功させたい。

弾を装填リロード実弾だ。これはあくまで護身用。

真髄は刀。荒々しい刃は鈍器として適していた。

柄に入れたまま、敵に殴りかかる。

その一瞬に対応する反射神経。

「君、どこの下人だよ…?」男の声が煙の中聞こえた。

「余裕だな。」中々の手練れ。

「君だって……」と肩を空くめる痩せ型の男。

平和ボケした道化師のような男。

隙があるように錯覚する。しかしそこには鈍器を叩き込むことができない。

「とりあえず、君たちさぁ、手分けしてそいつ殺ってよ。」男はさも面倒臭そうに全力疾走でエルを追いかけた。

「くっ、待て!」精鋭に足を止められる。相手は三人

もう一人は、あの男と同行してエルを捕らえに行ったようだ。

「師を越える。それまで、死なないさ。絶対に。」

ギラついた閃光が走る。この圧力から逃れる術はない。

なら力量で押し切るだけ。

素早く叩きつける。宙に舞う。隙をカバーするために弾を打ち込む。

木が体を支える。受け身は迅速にとった。

刃に音が当たる。伸びるように響く鉄の楽器音。

敵を突破する工程プロセスを構築する。

やはり急所に一撃入れるのが懸命か。

一回目の弾の装填。避けることをやめない。なぜなら避けることをやめた時点で人間をやめることになるからだ。

敵の装填は部隊らしく、音を滞らせることなく演奏を続ける。

鉄の演奏の一部目はもうとっくに終わった。

次に奏でるのは兵隊さんだ。

その演奏に息を飲む。急速に迫る死を奏でる彼らは、平和ボケした猫探しより充実した時を与えてくれる。

「日本の兵隊も立派なもんだな。英才教育か。」

冗談が漏れる。楽しい気分だった。

「大人しくあの悪魔を渡せ。命だけは助けてやろう。」

一番左側の男が一声を上げる。交渉という訳か。

「本気で人のこと助けたことあるか?俺は今その最中だよ。」

「馬鹿が。道具に心が宿るか。あれは偽物だよ。人口の心なんてあっちゃいかん。気味が悪いからな。」

右側の人間が言った。気味が悪いから見なかったことにする彼らは人間らしい。

「その偽物にあの感情を創らせたのはお前らだけどな。」

人間らしい大人に感情論なんて阿保かと思った。

「いや上さ。俺もあの兵器も道具だよ。

バケモンを捕らえなきゃ、俺が始末される。

世知辛いだろ?」

演説。時間稼ぎにしては俺より仕事量が少ないな。

「悪いがもう聞けないな。情が湧く。そして俺は叩くと

巻く《まく》以外にのうはない。」

「貴様のようなガキの情など要らん。こっちも本気で相手しよう。あの悪魔との駆け落ちなど情が湧く。」

真ん中の精鋭が抜刀する。妙に寒気がした。

「相手など要らない。」

エルの改造アタッチメントを見せる。

「お前らなんかよりよっぽどいいさ。

あいつは今も抗ってる。そういうやつの生き様はいつしか心が芽生えるんだよ。守る理由はそれで十分さ。」

英雄になる決意が一瞬見えた。人を殺す決意が。

燻す蒸気。相手の懐に一度潜り、巻く。

「次会った時は本当の斬り合いだ。」

致命傷を避け一人、二人パタパタと墜としてゆく。

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