第四話 兵隊の鬼ごっこ

軍服を纏う前の心情。

僕は理解できなかった。

思い出す。この気持ちのきっかけを。

相手の気持ちになって考えた。彼は痛がっていた、訴えるんだ「助けて」って。

でも多数決の民主主義に負けた彼を理解してあげることは出来なかった。知ってしまったら、僕は消える想いをしなきゃいけない。あれより自分が大切だったんだ。

何も分からない無能な痛覚。心と体の関係なんて知らない。

「なんでこんなこと覚えてんだよ。」

その言葉で我に帰る。林の擦れる音。境内の入り口。登山、始めようか。

「一応言っとくけど、命令はこの山の探索、戦闘も視野に入れる。

あとビンゴだ。エネルギー運動の痕跡がある。木々に灰が被っている。奴はここを通ったみたいだ。

場合によっては臨機応変に対応するから。分かったね?」

俯瞰から演劇を見るだけでいい。それだというのに。

「あーあ。やだね。」

課せられた任務はあの道具の追跡。僕はただ、他人を上から見て嘲笑うだけでいいのにさー。

「なんでぼくがこんなこと……。」機械はさ。機械らしく任務を全うしたらいいのに。

 手が冷たい。大したことはないんだ。自分は社会の歯車であることに誇りを覚えることはできない。

 きっと、これから死ぬのは少し怖かった。

 しかし、少し楽しみでもあった。自分はまだ兵隊ごっこ気分なんだ。

グルグルに腕に巻き付けたチェーン

銀の鎖の懐中時計だ。西洋じゃ銀は魔除に使われるらしい。

「魔除って。こっちはゴリゴリの科学サイエンスの産物が相手なんだよなー。」

 こんなん誰にもらったんだっけ?忘れたな。

……しかも魔除って、僕の命なんて上からの命令で左右されるんだけどね。魔除じゃ助けられないさ、つまんねー。

他人を俯瞰するなんて言ってもね。自分も他人に上から見下らされてるんだ。みんなそれをうまくごまかして生きている。


 話じゃここに弾幕がどかーんと昨日打ち上げられたらしいね。

 暗部どもに動いてもらうための僕らは捨て石だってよ。これでもみんな強いのにさー。

号令をかける。月はもう消えて、暁の沈黙。

「ねえ、お前らさ。」命の大切さを説こうとした。

「上からの命令だ。」

遮られる。上からは道化で通っていたな。

彼らは僕に早く死んでほしいのだろう。

なら、嫌がらせでもするべきか?

絶対に妨害するとか?嫌がらせ以外、別に趣味ないし。

「分かってる」

しっかし、彼らは愛も変わらず、無愛想なことで。

異質なやつらだな。

仏の教えなんて聞きやしない。

洗脳されたやつには話など通じない、やめよう。

さあ。鬼ごっこの時間だ。殺されるか殺すかの。

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