第八話 辛気臭い朝

「契約完了」

反逆を誓った朝は続いた。

エルは貴重な戦力となる。どこに行ってもだ。

「あの戦闘力は割れた装甲がないとできないのか。」

「ああ。お前が割ったものがないとできない。しかし案ずるな。わたしは自分のことは全て自分でできる。」

修理可能というわけか。しかし山道から持ってくる必要があるなら。山道に行くということは危険が隣合わせということ。

「単独で動く時がいつか必要になる。自分の身は自分で守れるようになれ。」

「山道に行き、装甲を手に入れる。異論はないな。」

エルは頷いた。俺は憲兵に対する策を考える。

必要なことは、見つかった時の対策と見つかる前の対策だ。

「これを着て身を隠せ。その髪色と顔立ちは帝都じゃ目立つ。」

ロープを渡す。伝説の魔術師が着ていたと曰く付きの。クラスの半数以上が買った。修学旅行のおみあげだ。

「要らない。霧さえ出せば身を隠せる。無論お前がその手段を壊したが。」それはお前が殺気籠めて殴りかかるからだろ。

「じゃあ、どうしろと?」

「知ったことか。」ロープを俺の胸に押し付ける。

「いいか。路地とか知らない道を歩くな。表通りなら憲兵に見つかっても簡単には手を出せない。俺と常に行動しろ。夜までには絶対に帰るぞ。見つかるからな。あと探偵事務所の書斎の本棚あれにはカラクリが仕掛けてあって身、」

「どうでもいい。」エルはそういって、窓の下に置いた椅子をくるっと反対に向けそこに腰掛けた。

一応拗ねられたら面倒なので、そっとロープを渡す。

エルには、自我が芽生えてる。つまり生きている。エルのいのちは尊重されるべきだ。

彼女は体育座りになって足を抑えていた。東洋の呪いに似たようなエネルギーを感じる。おそらく奇跡の類で動くのだろう。

「脚部の修理リペアがまだだ。」

「お前はこの家に住んでいるのか?」

「仕事場であり、住んでいる。昔からの先生が貸してくれた。師匠って呼んでる。帝都の人間だ。」

「裏切りだな。」顔を伏せるエル。

「知ったことか。」

「エル。お前が芥川に住もうが、何をされようがお前の意思次第さ。遠慮なんてするな。他人の好意は甘んじて受け取れ。お前の体が動く限り理由をつけ生き続けろ。」

「お前はまだ逃げ続けるんだろ?」

それがどれくらい人間らしくてもいい。時には逃げてもいい。

「朝食がまだなんだ。」皿をテーブルに置く。ハチミツの甘い香りとバターが溶け込んだトースト。艶やかな目玉焼き。

ユヅキ。名前を呼ばれた。食事を始めながらも耳を傾ける。

「生きるとはなんだ。」機械少女は問う。話題が咲く。

「心を持っているものに与えられた使命。心を持つものは皆生きている。命があるってことだ。」俺は知ることができない答えを知っているかのように答えた。

「命とは何だ?」砂金のような髪が揺れた。窓を見ていて顔が見えない。

「知らない。考え方はそれぞれあるだろう。数で判断したり、人間性で決めたりする。」俺はどっちだろう?なぜエルを理由もつけずに助けた?

「お前にとってどっちなんだ?」

朝食を食べる手が止まった。考える。こいつに問われるより前に。

数分経つ、答えが出ず、考えたことを口が流す。

「数だ。英雄であることの証明。」少女が訝しげそうにこちらを見る。

「人をたくさん殺し、たくさん助けたものが名を刻み、栄える。それがお前の生まれた理由であり、戦争の起こる理由だ。」

「やはり、野心家なんだな。」エルは悲しそうにこちらを見た。辛気臭い朝だ。

「命に価値を見出すことが間違えなのかもしれない。」

彼女は続けた。しかしそれ以上は喋ることはなかった。

「そうだな。」朝食は残した。

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