第三話 機械生命体
愛弟子との解散後、暗い林を歩いた。ざわざわと杉や柳が身を震わせる。それに乗じたカラスやカエルの鳴き声が聞こえるが、それは全て趣味じゃない。理由があるのだ。
この朽ち果てた道を歩くのは、ここに重要な用事があるからだ。
苔の生えた社に祭られた地蔵があった。長生きの秘訣は誰かに忘れさられることなのだろうか。俺が発見したことで生きたことが証明された。……どうでもいいな。
暇つぶしのための考え事さ。この朽ち果てた道に忘れ去られた地蔵は、同志どもとの落ち合いに大変都合がいい。
暇つぶし。苔の生えた岩に腰を下ろした。
紙の葉巻を咥え、火をつける。ずいぶんと細いものだ。煙を吸い味わう。
「……。」
不味い。まだ火のついた紙の葉巻を素手で握り潰す。
熱による痛みはない。火の神様が守ってでもくれているのだろう。それに対する感謝は忘れてはいけないものだ。
「全く。」
感想としては、最後の晩餐と確信した時の無作法な猫飯のほうがうまいもんだと思った。
「慣れない嗜好品など吸うものではないな。ホムラ?」
それは地蔵の祭壇の前に座っていた。猫だ。
しかし、人の言葉を語る奇妙な猫だった。この猫を俺は知っていた。
「またか。貴様は素顔を見せん。動物などに融ける術など
俺の前では意味が無い。」
「ほう。」猫はさぞ興味深そうに尻尾を上に伸ばした。
「力で捻じ伏せるのか?」
猫はニャーと鳴いた。
「必要とあればな。」いつの間にか、刀の柄に手を掛けていた。職業病というやつだ。
「いや、やめておくさ。抜刀術で貴様に勝てる人間はこの帝都にはいないさ。片っ端から貴様が火炙りにあげるだけで無残に皆殺しだ。」
便宜。無論、そんなことはしない。火炙りなど最終手段だ。
猫は呑気に欠伸する。だるそうにだらけた後、こちらが観察していることに気付き、ジロリとこちらを覗きこんだ。
「動物に真似る趣味も今や板についちまったよ。
演技ってのは、楽しいねェ。」
底の見えないやつだ。
「お前は、きっと猫だろうと人だろうと関係なく飄々として図々しいさ。」猫はニヤリと笑った。不気味な道案内みたいだ。
「世間話は楽しいが、本題に入らせて頂こう。あの機械人形のことだ」
本題の方がお目当てだろうが。
機械人形。あれは帝都のいや、この国の他国の武力制圧に対する最大の切り札。中身は西洋趣味の精密な人形だが、とんでもない化け物だ。
「それが脱走した。」
「なに?」お前の管轄だろうが。
俺の反応をみて猫は不敵に笑う。奴にとって仕事や人生はただの暇つぶしに過ぎないのかもしれない。
「蒸気で動くんだ。恐ろしい速さでね。
それに比べ『今』私は猫の身であるから追いつけなくてね。こうして暗部の友に助けを乞いにきたという訳さ。」暗殺特化の部隊なのにおかしい話だろう、と。
面倒な事だ。ゆっくり腰をあげる。
「あの機械は殺戮に対する切り札のために造られた兵器だ。」殺戮をするなら破壊するまでさ。
「そうだな。災厄戦争を止めるのは俺達で充分さ。」
俺は黒い外套を翻す。
奴を呼ぶ。俺が戦場で生き残れた理由。東洋に伝わる古の魔法さ。
「それで壊せる自身が?お前の単独生存力は認めるが、機械ちゃんは難解な術式が組み込まれてるぞ。まるで遠い文明の未来のエネルギーのような」
俺たちは未来が理解できない。未来の術式など使えないから。なら彼女は俺たちを理解できるのだろうか。今、人類の魔力は減少しつつある。蒸気などの動力が復旧しているからだ。今じゃ魔術や妖の類は孤独になってしまった。
いつ知らない力が今使っている力を超えてもおかしくはない。それは彼女も例外ではない。今はない力や別世界の力であろうと、それはこちらも同じなのだから、どちらが強いのかなんて、賭けに等しくなっちまう。
「お互いフェアだろ?手の内を隠し合ってる。彼女は俺の戦い方を知らない。なら打つべき手段はある。」
手に火を灯す。名をシラヌイと言う。コイツもいつかは廃れる消耗品よ。
もともと虐殺機械は破壊する命令が出されていた。
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