第81話 やべぇ奴のその後

《side東堂歩》



 ──学校内でちょっとしてトラブルが起きてから、数日が経過した。

 現在俺がいるのは、対策局の休憩室。ココアを飲みながらソシャゲのガチャを回している最中である。


「──あれ歩さん。なんでいるんです?」


 そしたら、休憩室の前を通り掛かった時音ちゃんに話し掛けられた模様。


「開口一番にしては嫌な台詞やの……」

「いやだって、今日はシフトじゃないですよね? そもそも平日の昼間ですし。学校どうしたんです?」

「うちの高校の半グレ〆て、教師に喧嘩売ったら停学になったんよ。だから遊びにきた感じ」

「なにしてるんですか……」


 だから馬鹿どもをキュッて〆たんだってば。ボロ雑巾にしたとも言うが。

 いやさー、ソフィアに後始末丸投げしたらこうなったんよな。『騒ぎの大きさ的に、停学が一番角が立たないから』と言われてはね。それはそうと頷くしかなったという。……ただ必死に足の仕返しではないと念押しする必要はないと思うんだ。そんなに信用ないかね?

 実際、俺が停学に難色を示せば、ソフィアも違うまとめ方をしたとは思う。そうならなかったのは、単に俺が気にしなかっただけだ。

 いやだって、停学とかぶっちゃけどうでもいいし。真っ当な人生ルートを辿るなら痛い処分なんだろうけど、俺の場合はアングラ方面一直線だもの。


「ま、自由時間が増えて万々歳よなぁ」

「停学になっているわりにお気楽ですねぇ……。そもそも停学中って、基本的に外出禁止じゃないんですか?」

「なんでルール守らなにゃアカンの」

「ルールだからですよ」


 ルールだからで従うのは思考停止だと思うなー。無法者の意見だけど。


「親御さんも怒ったりしないんですか? 確か歩さんって、家族の言うことだけは絶対なタイプでしたよね」

「そんな家庭内ヒエラルキー最下位みたいな言い方やめて?」


 確かに両親の忠告とかには従う方だけども。それでも絶対服従ってわけじゃねぇから。


「両親はアレだよ。俺が問題起こすのは諦めてる節あるから。変に人死に出さないのと、家に迷惑かけなければそれで良いと思ってる」

「放任主義も極まれりですね……」

「んなこと言っても、俺を社会の常識で縛って育てるとか無理ゲーでね? 割り切りは大事」

「否定はしませんが、自分で言うことではないと思います」


 自分を客観視できてるって素敵やん?


「というか、お家に迷惑は掛からなかったんですね。てっきり、やりすぎかなんかで訴えられそうになってるかとばかり」

「キミは俺をなんだと思ってるん?」


 正解だよ。ソフィア曰く、雑巾代わりに顔面をすりおろした奴の親を筆頭に、何組かの親が怒り心頭だったそうで。俺を訴えようと気炎を吐いていたとかなんとか。手っ取り早く魔法で黙らせたらしいけど。


「ま、そこは絡んできたのは向こうですし? 軽くメッてしたら聞き分けてくれたのさ」

「それ多分、メッじゃなくてめってしてますよね? ……相手生きてます?」

「生きてます」


 殺してたら訴えられるって次元じゃねぇから。もう普通に刑法案件だから。


「ちなみに質問なんですけど、そもそもなんで半グレとやらに絡まれる羽目になったんですか?」

「んー? ちょっと前に外国から転入生が来たんだけど、そいつと俺ってネット上の知り合いだったんよ。でまあ、結構仲良くしてたんだけど、それが一部の馬鹿には気に障ったらしくてなぁ」

「……なんで仲良くしただけで?」

「そいつがメタクソ美少女だから。男の嫉妬って見苦しいよな」

「──ちょっと待ってください」


 おっつ? なんか時音ちゃんの様子が……あ。


「女の嫉妬も見苦しいと思うよ時音ちゃん」

「私がなんか言う前に、問答無用でシャットアウトするのはどうかと思います!」


 先手必勝って素敵やん?


「えー。じゃあどうしろってのよ。あいつのことで詰められるのとか面倒なんだけど」

「歩さんは本当に歩さんですねぇ……!」

「その言い方もどうかと思うの」


 俺の名前が暴言みたいな扱いになっている件について。なんだ『本当に歩さん』って。文体的に悪口が入る箇所だろそれ。


「いやだって、そもそも美少女と仲良くしてるとか言います? 絶賛アタック中なんですよ私。普通は誤魔化しません?」

「経緯の説明的には避けられんかったんよなぁ」


 実際は忘れてただけなんだけどね。それを言ったら火に油なので誤魔化すけれど。

 と言っても、説明的に避けられなかったってのも事実だったり。原因の八割があいつだから、どうやっても話さざるを得ないという。

 ……面倒なのは、経緯を話さない選択肢がほぼないってことでなぁ。戦姫、いや対策局だと学校内のイベントなんて簡単に調べられるだろうし。ソフィアの背景が爆弾だから、変に疑惑を持たれるような誤魔化しができんのよ。


「まーまーまー。時音ちゃんが気にする必要はないから。俺とあいつにゃ恋愛感情なんてないし」


 ただ半奴隷契約みたいなものを持ち掛けられただけだから。そっちの方がやべぇっちゃやべぇけど。


「それでも恋する乙女としては気になると言いますか……」

「互いに本性知ってるからマジでないんだよなぁ……」

「あ、じゃあ大丈夫ですね」

「オイコラ」


 俺が言っておいてアレだが、秒で納得すんじゃねぇよ。想い人の性格について話してんだぞ一応。


「いやほら、素の歩さんって一般受けしないじゃないですか」

「メタクソなまでにオブラートに包んでるのは認めるけど、結局のところ罵倒じゃねぇか」


 否定はしねぇよ? 否定はしねぇけど、何度も言うが俺ってキミの想い人なんだけど? 


「そもそもブーメランでねぇの。俺を好きな時音ちゃんはなんなのさ?」

「蓼食う虫も好き好きといいますし」

「自分で自分を虫って言ったよこの子……」


 相っ変わらずナチュラルに毒吐くねぇ……。しかも自分に対しても容赦ないし。その諺ってつまるところ物好き、いやどっちかと言うとゲテモノ好きってことだぞ?


「実際、歩さんの本性知ってて仲良くできる人って珍しいと思うんですよね。恋愛感情を抜きにしても」

「ちゃんと友人はいるんですけどー?」


 ソフィアは別枠としてカウントするにしても、オギハギコンビというちゃんとした友人は存在します。停学になった今でも普通にメッセしてます。


「……多分ですけど、歩さんと友達付き合いしてる人たちって、珍しい動物とか好きだと思うんですよね」

「キミ雑談にかこつけて悪口言いたいだけだったりしない?」


 誰が珍獣だこの野郎。俺との友達付き合いは動物観察の一環とでも言いたんか。


「なんか不機嫌になるようなことでもあったん?」

「いや普通に話してるだけ……あー、でもアレです。不機嫌云々はともかくとして、ちょっと面倒なことは起きそうな感じですね。今思い出しましたけど」

「面倒?」

「はい。それがですね、アメリカでイクリプスの大量発生が起きたみたいで」

「……ほう?」


 大量発生とな。花園の奴らがまた裏でセコセコ動いてんのかね?


「それで安定の応援要請が飛んできたんですけど、ついこの間まで日本も絶賛修羅場中だったわけじゃないですか。その少し前はノアさんたちがイギリスまで行ってましたし」

「そうね」

「なので現場としては、応援なんて受けてる余裕はないんですよ。ただ上が日米関係を理由に受理しちゃったみたいでして……」

「あー……」


 いわゆる政治ってやつですね。裏組織と言えど公的機関の一つであるため、そういうのには逆らえないと。


「で、そのお鉢がうちに回ってきたことで、神崎さんや支部長が現在進行形で頭を抱えているんですよ。前のイギリス応援があるから回ってこないはずだったんですけど、他の支部は本当に余裕がないみたいで」

「……そんなに余裕ないか? 言うて戦姫の仕事って、イクリプスが出なきゃのんびり待機してるだけでは?」


 ちょっと釈然としないような? 確かにあの修羅場からそんなに時間は経ってないけど、疲労とかは取れてるはずだろ。待機中の戦姫がやってるの、精々が自主練ぐらいだぞ。


「疲労ではなく、怪我人がそこそこいるんですよ。他国よりは戦姫が多いとはいえ、それでも日本の各支部も地味に人員はカツカツなんで。怪我人とかが出るとバランスが崩れるんですよね」

「あー」


 そっちがあったかぁ。なまじうちの支部は怪我人出てないから、その辺りは頭からすっぽ抜けてたなぁ。

 で、怪我人がいないからこそ、俺たちのところにお鉢が回ってきたと。


「そんなわけで、内心では戦々恐々だったりします。こんな短いスパンで修羅場をハシゴしたくはないんで。他の皆さんも同様かと」

「なるほどねー」


 いくら体力は回復しているとはいえ、進んでブラックな現場に派遣されたいかと言われればね。そりゃ否よなぁ。


「──ちなみに他人事みたいな反応してますけど、神崎さん曰く歩さんは確定だそうですよ」

「待って?」


 おい待てブラック派遣確定枠ってどういうこっちゃ。




ーーー

あとがき

ということで、ちと短いですが学生編終了。次はアメリカ応援編となります。


そして補足ですが、前回の一件でのソフィアの足は無事です。理由としては、

・単純に主人公が机を砕くぐらいの威力に留めた。

・ソフィアもアーティファクトの使い手なので、素の頑強さが常人以上

・その上で、身の危険を感じたら魔法等で反射的に防御できるよう鍛えている

などが挙げられます。なので痛いで済んだ。(普通の教師だったら……ミンチにはならないぐらいで済んだのでは?)

なお、ソフィアの受けた痛みを文章で表すと、両腿に膝蹴りをかまされたぐらいです。なので悶えはした。

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