第80話 一般(理不)人 VS やべぇ奴
《side東堂歩》
カルト信者の先生方……いや一応は一人だけか? まあともかく、オッサン生徒指導と机越しに睨み合う。
一触即発とはまさにこのこと。時代が時代なら速攻で拳が飛んできたんじゃねぇかなと。……このオッサンの言動的に、今でも飛んできそうだけど。
ただお生憎様。こちとら一般人の怒りで怯むほど健気な性格してねぇんだわ。
「ほれやれよ。説得してくれよ先生方。怪我させた方が悪いなんて愉快な妄言で、どうやって俺を反省させてくれるんだよ」
木を見て森を見ていない。こんなそのものズバリなあたおか発言が飛んでくるとは思ってもみなかったわ。その論説だと、泣き寝入りしろと言っているようなものじゃないか。
「なにを開き直ってるんだお前は! やったことを理解してないのか!? 普通だったら傷害罪だぞ!?」
「理解してるに決まってんだろうが。こっちは全部分かった上であの猿たちを〆たんだよ」
「だったら明らかにお前が悪いだろうが!! 故意で他人を傷付けてる時点で論外だ!」
「──論外はてめぇだカルト野郎が」
「なんっ……!?」
駄目だ。マジで不愉快だ。というかアレだよ。個人的な怒りもあるが、それ以上に義憤が湧き出てきたわ。
一周まわって頭が痛てぇよ。コレが生徒指導やってちゃ駄目だろ。マトモに人の話は聞かねぇ、態度は高圧的ですぐ怒鳴る。挙句の果てには暴力アレルギーで論理的思考皆無のお気持ち優先野郎って……。
俺は問題ないが、他の生徒がこれやられたら発狂するぞ。分かっちゃいたが、典型的な被害者を追い詰めるクソ野郎じゃねぇか。
「反撃や防衛って言葉を知らねぇのか。やられた側はな、法律なんて関係ねぇんだよ。今この瞬間、やらなきゃ最悪殺されるって思ってるから反撃するんだよ」
傷害罪だぁ? それが身を守らない理由になんのかよ。法律なんて守ったところで、自分が殺られてちゃ意味がねぇだろうに。
全部が全部二の次なんだよ。抵抗する側はな、目の前の状況から生き残ることが先決だろうが。
「そんなの極論だろうが! お前のどこに命の危険があったっていうんだ!」
「直接見てねぇ奴が何言ってんだ。あと人間のことロボットかなんかだと思ってんのか? 高校生の拳でも余裕で人は死ねるわボケ」
いやまあ、多対一であっさり〆てる時点で説得力はねぇんだろうけど。それでも人数差で見たら立派なリンチだぞ。十二分に命の危機だわ。
「そもそも怪我させるなって理由で発狂してんだろ。そうでありながら、俺が怪我させられそうな状況にいても、命の危険がないから大丈夫って主張はおかしいんだよ。シンプルに狂ってんのか」
「っ、だったら逃げるなりすればいいだろ! その後に大人を頼るのが普通だ!」
「現在進行形で醜態晒してる奴らに頼れて……」
これに関しては時系列が逆転するからアレだけど。お前らみたいな奴らを頼れとか、心情的に嫌すぎるわ。現実的に考えてもナンセンスだし。絶対悪化させるじゃん。
そりゃね? この学校にもマトモな教師もいるとは思うよ? それでもこの場にいる奴らが駄目な時点で役に立たねぇよ。生徒指導と学年主任がコレだぞコレ……。
「そもそも逃げる、耐えるのは完璧に悪手だろうに。都合のいい獲物認定されて、そのままイジメルート一直線だっての」
「何を根拠にそう言い切れる!」
「分からいでか。現代日本で普通の感覚してる人間はな、わざわざ他人に絡んだりしねぇんだよ。進んで他人に絡みに行ってる時点であたおかだわ。現代社会じゃなくて獣寄りのカースト社会に生きてんだよ」
そういう奴らは下の階級=奴隷なんだよ。それか何してもいい蛮族。現代社会でコンキスタドールが許されるとナチュラルに思ってるキチどもだぞ。
「あの手の輩は痛い目みなきゃ理解しねぇんだ。獲物じゃねぇって分からせなきゃなんねぇ」
「ふざけるな! そんな理屈で暴力が肯定されるとでも思ってるのか!?」
「むしろ共感しかないと思ってたけど? 先生方、教育=暴力の世代だろ?」
「っ……!!」
痛い目みなきゃ学習しない、運動中に水飲むとバテるなどなど。現代じゃあ虐待なんて言われる学生時代を生きてきたんでねぇの? だったら理解できると思ったんだがなぁ……。
「教育と暴力は違う! 確かに昔はそういう風潮もあったが、今はそういうのは認められていない!」
「──そもそもその台詞がお笑い草なんだよなぁ。そっちだって散々暴力振るってる癖によ」
「ふざけたことを抜かすな! 俺がいつそんなことをした!?」
「言葉だって使い方次第では立派な暴力だろ。怒鳴って相手を萎縮させようとしている時点で、そっちも同じ穴の狢ってやつだよ」
恐喝、恫喝が犯罪として取り扱かわれるのはそういうことだぞ。言葉は時に拳よりも人を殺すんだぞ。
「一緒にするな! そもそもお前が怒鳴られてるのは自業自得だろうが!」
「人の話も聞かずに勝手に発狂しはじめたから、付き合ってられねぇって呆れられただけだろうが。それこそ自業自得だろうに」
何度も言うが、俺って最初はちゃんと態度は作ってたかんな? すぐに取り繕う気が失せたってだけで。
「ま、結論ありきのお気持ち族にゃ、一生理解できやしねぇか。カルト野郎と話すだけ無駄だわな」
「なんだと……!?」
受けて立とうと意気込みはしたが、やっぱり止めた。正確に言えば、底が見えたから相手をする気も失せたってだけだが。
こういう輩は会話するだけ無駄なんだ。結論を決めてる輩に何を言っても、色々と理屈をこね回して同じ結論に持ってくだけだから。
コイツの場合、『怪我させた俺が悪い』って結論が誕生しちまっているから、どうやっても結論はそこに収束する。させようとする。
狂信者に教義の矛盾をついたところで、発狂するか受け入れないかのどっちかにしかならんし。マトモに取り合う方が徒労ってやつだ。
「ちなみにソフィア。元祖カルトキャラとして、なんかコメントある?」
「ここで私に振らないでよ……。あと流石に一緒にしないで。半端が嫌われるのは何処も一緒でしょ?」
「常識人ぶるクソ野郎は許すまじと。正論だわな」
流石は覚悟の決まったテロリスト。含蓄あるコメントが返ってきたじゃねぇの。
ま、自分は悪くないと思い込んでる奴ほど醜い者はねぇからなぁ。そういう輩は、自分が攻撃されると堂々と被害者の立場を主張するし。自覚ある側からすれば、見苦しいことこの上ない。……常人側からすりゃどっちも『クソ野郎』でファイルアンサーだが。
「──帰るわ。これ以上は付き合う価値もねぇ」
妄言ばっか聴いてちゃ耳が腐る。内容も結論ありきのワンパターンだから飽きてきた。帰りながらアニソンでも聴いてた方が何億倍も有意義だ。
「ふざけるな! 勝手に帰れると思って──」
「うるせぇよ」
──グシャッという音が、生徒指導室に響き渡る。
カルト野郎が何かを言い終わるよりも早く、俺が目の前の机を軽く叩いて粉砕した音だ。
「んなっ……!?」
「ひっ……!?」
突然の事態、そして理外の光景に教師たちが青ざめる。
木っ端微塵となった机。加工された天板も、脚に使われていた鉄パイプも。全てがぐしゃぐしゃになっているのだ。普通の人間ならそりゃビビる。
「そっちにゃ話が通じねぇ。俺とはどうしても相容れねぇ。だから分かりやすく言ってやる。──それ以上、不愉快な妄言を垂れ流すな。この机みたいになりたくねぇだろ?」
殺気を込めて告げる。つまるところ脅迫だ。
だって面倒くせぇんだもん。話の通じない奴を相手にするの。コミュニケーションが取れないなら、実力行使で黙らせるしかねぇだろ?
そして文句は受け付けねぇ。さっきまでそっちだって怒鳴り散らかしてたんだ。やってることは脅しみたいなもんなんだから、逆にやられることだってあるめぇよ。言葉と物理の違いぐらいだ。
そもそもこの舞台自体が茶番みたいなもんだしな。判決なんてこっちでどうにでもできる時点で、荒っぽい手を取っても問題ねぇし。
「そんじゃな。ソフィア、後は任せる」
というわけで、鬼札投入。ソフィアさん、魔法やら人脈やらで上手い具合にまとめて……?
「……なんでお前悶えてんの? そんな両足抱えた体勢で」
「……キミのっ、威嚇に……っ両足、巻き込まれたんですぅ……!!」
「あ」
言われてみれば確かに。普通に座ってる状態=机の下に両足が収まってるわけで……。
それで上から粉砕されたら巻き込まれるか。教師たちはヒートアップして立ち上がってたりしてるから、全員無事だけど。
「……すまそ。それはそれとして、そっちの都合の良い感じの結論に持ってといて。できるよな?」
「……でき、る……けどぉ……。この、状況、で普通、頼む……かなぁ!?」
ゴメンて。
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