第79話 一般人VSやべぇ奴 (口)

《side東堂歩》



 Q.学校で喧嘩が起きました。教師が駆けつけた時には、片方がボコられてました。どうなる?

 A.生徒指導室にドナドナ。

 ということで尋問NOW。生徒指導やら学年主任やらを前に、当事者ということでソフィア同伴でお送りいたします。

 追記しておくと、ダメージを負っている猿たちは保健室。宙ずりで済んだ二人に関しては、別室にて事情聴取と相成っております。


「──なんであんなことをやった!」

「彼らに喧嘩を売られたので買いました」

「ふざけるな!!」

「なんでだよ」

「その口調もなんだお前! 怒られてるって自覚あんのか!?」

「……」


 ……ただ悲しいことに、現在進行形で暗雲立ち込めておりまして。控え目に言って不毛な気配がそこはかとなく漂っているという。

 口調だけでいちいち叫ぶなよ鬱陶しいなぁ。つい出ちゃっただけだよ。てか実際、理由を素直に述べて怒鳴られれば『何故?』ってなるだろうに。


「はぁ……。ちと落ち着いてくださいよ高木先生。そんな捲し立てられちゃ、話し合いもできやしないじゃないですか」

「お前っ、大人をナメるのも大概にしろよ!」

「ナメてないですよ。俺の話を聞いてくださいってば」

「だったらまずその態度を改めろ! そんなんで許されると思ってんのか!」

「──うるせえよ。怒鳴ってねぇで一旦話を聞けって言ってんの。説教するなら相手の主張に耳を傾けろ。生徒指導やってんなら、ちゃんと『指導』の体裁ぐらい守れ」


 ……ダメだこりゃ。流石に付き合ってられないので、ヒートアップしているオッサンは軽く睨んで黙らせる。ついでに周りで突っ立てるだけの教師たちにも苦言を投げ付けておく。


「他の先生方もさ、宥めるぐらいはしてくんないか? さも冷静ですよって空気で控えてんだったら、それに見合った働きをしてくれよ。置物じゃねぇんだからよ」

「っ……!」


 はぁぁ……。怒鳴れば相手が反省すると思ってんのかね? 俺みたいに相手に反発されるか、萎縮して何も言えなくなるだけじゃねぇか。文字通り話になんねぇだろ、それじゃあよ。


「教師の立場は中立なはずだ。だったら感情的になっちゃ駄目だろ。経緯からの結果、そして双方の主張を聞いた上で判断するのがスジってもんだろ」

「このっ……!!」

「っ、高木先生。ここは大人として堪えてください」


 おーおー。正論吐かれたぐらいで顔真っ赤にしちゃってさ。いい歳したオッサンが何やってんだか。血圧上がって血管切れるぞ。

 他の先生たちもイラついてるのが丸わかりだし。せめて表情ぐらい隠せ。大人なんだから、もうちょい余裕見せてくれ。

 で、今度は宥めた学年主任のオバハンが出てくるのね。なお名前は忘れた。


「……あのね東堂君。あなたの言っていることは間違ってないかもしれないけど、そもそもどの立場でものを言っているのかしら? あなたは怒られている側なのよ?」

「口が、いや態度が悪いとでも? それにもちゃんと経緯があっただろ。俺は最初、訊かれたことに正直に答えた。そしたら高木先生が何故か逆上して、以降は話を聞くそぶりもみせずに怒鳴り散らした。だから俺もそれに合わせただけ」


 俺、最初はちゃんと畏まって話してたぞ? そのあとの軌道修正を試みた時だって、敬語とまでは言わんが柔らかめに伝えてたぞ。


「そもそも態度や印象なんて関係ない。それが考慮されるべきは結論の段階で、今は状況把握の段階でしょうが。ヒヤリングは教師としての義務だし、俺も説明責任についてはちゃんと果たそうとしているわけで。だったら話し合いましょ? 聞く耳持たずに怒鳴って一人で気持ちよくなるのは、意味の無い自己満足でしかないでせう?」

「……いいでしょう。ただしその態度は、あなたの言う結論の段階で、大きく不利になるとだけ言っておくわよ」

「どうぞどうぞ。こっちは自分の主張をするだけですので。それで喧嘩も仕方ないと、先生方を納得させられるよう弁舌を尽くすだけですわ」

「っ……」


 なんか譲歩したような雰囲気出してるところ悪いけど、目の奥の苛立ちを隠しきれてないんだわ。クソガキの相手をしてちゃ話が進まない、みたいなスタンスを取っているんなら、何度も言うけどもっと余裕を見せてもろて。

 じゃないと俺の指導なんて夢のまた夢だからな。ただでさえ価値観が相容れないんだから、せめて理詰めで説得に掛からないと響かんで?


「……もう我慢ならん! 相手に怪我をさせておいて、俺たちが納得するとでも思ってんのか!? 反省の『は』の字も見せてない癖にふざけるなよ!!」

「まーた怒鳴る。なんでそんな主張したがりなのアンタ」


 黙ってろと俺は言ったし、学年主任からも堪えろって言われてたろ。なんでまた怒鳴るの? 気に入らないから大声出すとか野生動物じゃないんだからさ。


「俺、別に自分が無罪だとは言ってねぇでしょ? 喧嘩になってしまうのも仕方ないと、そう納得してもらうよう話すって言ってんの。お分かり?」


 法律に当てはめれば傷害だからね。そこは俺も理解しとるのよ。どうとでもなるから大して気にもしてないけど。

 俺がやろうとしているのは、無罪放免を勝ち取ることじゃねぇの。経緯を伝えて情状酌量を引っ張り出そうとしているの。……引っ張り出したところで特に意味もないけど。ただ説教されるのは癪だからやってるだけの余興だけど。


「あとね、喧嘩なんだから怪我人が出るのも当然でしょう。そもそも吹っかけてきたのは向こうなんだから、返り討ちにあっても自業自得だ」

「それで許されるとでも思ってんのか!? 手を出した時点でお前が悪いだろうが!!」


 ……あ?


「──経緯も理解してねぇ奴が、クソみてぇなこと言うなよ。複数人で人のことを馬鹿にしてきた奴らより、俺の方が悪いとでも? 人の机を蹴り飛ばし、持ち物をコーヒー濡れにした奴らが一方的な被害者か?」


 あー、嫌だ嫌だ。この手の論調は本当に無理。聞くだけでも失笑もんだし、向けられるとなれば腹立たしいことこの上ない。

 不毛な時間になりそうだったから、余興のつもりで楽しんでいたけれど。裏社会の繋がりという結論を捻じ曲げる権力もあるし、ソフィアという一般人特攻の万能魔法ユニットがいる。だからちょいと煽ったりして、クソガキっぽいムーヴをやっていたけれど。

 それでもコレは駄目だろう。この言い草だけはしちゃならんだろう。


「人の女を尻軽呼ばわりした挙句、逆上して殴りかかった奴らを〆ちゃならねぇ理由があるか?」

「あ。歩くんが私を認めた」

「ソフィアさんちょっと黙って?」


 割と今って見せ場だから。あと認めたというより演出上の台詞回しだよ。


「──ま、ともかくよ。こんなにも暴挙を重ねた挙句、最後の警告も無視したのがあの猿たちだ。謝罪すらなく掛かってこいと挑発してきた奴らに、遠慮する必要がどこにあるって話だよ」

「だからと言って、怪我をさせていい理由にならないだろうが……!!」

「はぁぁ……」


 話の通じない別種の猿を相手にしているようで、思わずため息が漏れる。

 アンタらにとって、俺は賢しらで調子乗ってるクソガキでしかないんだろう。常識やら法律やらに当てはめれば、それは実際に間違ってもない。だから聞く耳も持たない。……煽り気味だったから、腹立たしいってのもあるんだろうけどさぁ。

 でも違うんだよ。俺はいい子ちゃんじゃないんだから。面子や腕っ節を重視するヤクザに近い、いやそれ以上にタチの悪い無法者なんだよ。

 学校という組織で起こったトラブルだから、最低限のスジを通すために教師を立ててはいるけれど。生徒が教師に従うべきだとは微塵も思ってないんだわ。

 だからやるぜ? しっかりと理詰めで進めていたら従ったし、他の主義主張だったら適当に茶化しながらも余興に留めていたけれど。

 そんな暴力=絶対悪なんて価値観から、話を聞かずに一方的に『お前が悪い』なんて決めつけられたらな。イリーガル上等な暴力肯定サイドとしては、受けて立つしかあるめぇよ!


「大の大人が物の道理を理解してねぇんだな。恥ずかしいったらないじゃねぇか。反省の『は』の字も見えないだって? ──俺が見せるんじゃねぇよ。アンタらが俺に反省んだよ。それが教師の仕事なんだから、是非ともやってくれよ先生方」


 ──その意味不明な信仰を、ちゃんと押し付けて納得させてみやがれってんだ。






 ーーー

 勝手に挑発して切れる狂人。仕方ないね、相手の主張が気に食わなかったから。

 なお、教師も『どの立場が〜』など、正論っぽいことは言っている模様。ただ悲しいかな。致命的なまでに相手が悪い。

 だって無法上等で倫理観が違う。怪我させたことをこれっぽっちも悪く思ってない。それでいて学校、及び法的な処罰を恐れてもいないから、叱責が全く効いていないという。


 なお、最適解は『怪我人出した⇒処罰!』という問答無用な奴。これなら大人しく従った。次善で『事情聴取⇒教師間で議論⇒結論』とか。これでもまあ従った。


 ただ残念なことに、この最前次善はもう選べない。何故ならガッツリ挑発されているから。

 気に食わないクソガキ相手に挑発されて、それも業務上無視できないとなれば……ね? 教師としてなんて言われてしまえば尚更ですよ。

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