第78話 お掃除大好きやべぇ奴
《side東堂歩》
「けーられた。けーられた。僕の机がけーられた」
ついでに言うと、机に掛けてカバンは床に。極めつけは、コイツらが飲んでたらしい缶コーヒーが、机が転がった拍子に床にびちゃっと。
あーあー。お陰でカバンが汚れちまったでねーの。しかもまたコーヒー。俺の持ち物は、どっかの喫煙者と違って飲み食いなんてしねぇんだけどなぁ。
流石にコレは苦情案件ですわ。ちょうどソフィアがバトンタッチしてくれたことだし、しっかり文句を言ってやろう。
「これは事件ですよキミたち! なんてことをするんですか。僕が何をしたと言うんですか!」
「あ? うるせぇんだけど」
「いいから謝ってください! 机を直して、このコーヒー塗れの床と僕のカバンを綺麗にしてください! じゃないと怒りますよ!?」
「だーかーらー! うるせえんだよキモ陰キャ! テメェが怒ったところでどうなるってんだよ!? だったら怒ってみろよ!!」
「え……え、そんな……いいんですか?」
言葉と同時に、煽ってくれた馬鹿の足を払って転ばせる。そんでその腹を踏み潰し。
「──ごばっ!?」
「じゃあ雑巾にでもなってもらおうかなー」
足で踏み付けたまま、ズリズリと床に擦りつけていく。制服を上手い具合に使ってね、コーヒーの汚れを丁寧に拭き取っていくイメージで。
「……え?」
「は……?」
「グェッ……オロッ……」
「ちょっとー。内容物を戻すんじゃないよ。余計に床が汚くなったじゃーん」
掃除の手間を掛けさせないでよねー。ほれずーりずり。
……それはそうと、なんか教室から音が消えてね? あと廊下の方もクソ静かなんどけど。
「おまっ、何してやがる!?」
「んー? 見りゃ分かるでしょー。掃除だよ掃除。僕はか弱い陰キャだからー。こわーい不良さんたちが汚したところを、プルプル震えながら綺麗にしてるんですよー?」
「ふざけっ、さっさと止めろ!!」
「へ?」
騒音に振り返ったらまあ大変。拳を振りかぶっている新しい雑巾が!
「やーん嬉しい。また新しい雑巾じゃなーい。乾拭き用にくれるのー?」
「ヘゴっ……!?」
なんて親切な人なんでしょう。ということで、とりあえずくの字に綺麗に畳んでっと。んで、濡れてるやつは邪魔だから、適当な場所に転がして。
「ほいな」
「ひゃっ!?」
「あ、すまそー。後で戻すから、その汚くなった雑巾ちょっとだけそこに置いといてー」
ちょっと失敗。転がす力が強すぎたのか、離れたところで固まっていた女子の足元までいってしまった。……それはそうと、なんかアイツ顔から血の気が引いてなかったか? 体調悪いのかな?
「さて、と」
ま、それはそれとして。新しい雑巾だ。この親切心から提供された雑巾は、くの字の状態で独特の音がする特別仕様。
提供者からの真心が込もっているので、丁寧に扱わなければならない。足蹴にするなんてもってのほかだ。
「よっと」
「いぎっ……!? 髪っ、いでででぇっ!?」
だから乾拭きは素手で。雑巾全体から毛羽立ってしまっている部分を掴んで、汚れを全て拭い去るつもりで力強く擦っていく。
「ぎっ、ひぎっ、やべ……!?」
「ほれずーりずり。はいずーりずり」
「やっ、やべでっ……!!」
「あれー? おかしいなぁ? 拭いても拭いても汚れが取れないぞー? それどころか、床がどんどん赤くなってきているぞー?」
んー、駄目だなぁ。せっかく提供してくれたのに、この雑巾はそんなに使えないなー。汚れは取れないし、もう汚くなってるし。
んー、これはアレだな。
「あ た ら し い ぞ う き ん が い る な ぁ ?」
「「ヒッ!?」」
あ、なんだぁ。あんなところに二枚も綺麗な雑巾があるじゃーん。
「綺麗な雑巾だなぁ。あんな真っ白な雑巾は見たことないわー」
「恐怖で血の気が引いてるもんね」
「抜群の吸水性だろうなー」
「そのスプラッタホラーの殺人鬼ムーブ、いつまで続けるの?」
「正直そろそろ飽きてきた」
「じゃあ止めて。正直ちょっと気持ち悪いというか、迫力と手際に迷いがなさすぎてエグ味がある」
言ってくれるじゃねぇかこの野郎。というかエグ味ってなんだオイ。
「そんな不満そうな顔されても……。ほら、歩君のノリのせいで、クラスどころか外の空気まで冷え込んでるよ?」
「俺が滑ったみたいな言い方やめーや。この冷たさは違う理由だろ」
ただただ日本人がバイオレンスに慣れてないだけだよ。単純にドン引きしてるだけだ。
「日本人は大人しいからね。こういう時は固まるか、スマホを構えるぐらいしかできないのだよ。ロシア生まれのキミにゃ分からんだろうけど」
「生まれでどうこう言うのはイクないと思うの」
「お前さんはそれ以前の問題だもんな」
「そうだけどそうじゃない」
テロリストだもんねキミ。出身どうこうじゃなくて、個人的にバイオレンス漬けなだけだもんね。
「あとさー。大人しいと言うか、それ単に平和ボケなのでは?」
「まあの」
そこは否定しない。なんなら同意するレベルである。
大抵の人間は、自分だけは思い込んでるからなー。で、しっぺ返しがきた時に『話が違う!』って叫ぶのよ。
だから殴り返されたりすることにも慣れてないんだよなぁ。手を出しても大丈夫って思い込んでるし、反撃されても大したことないって信じてる。
「やべっ、おぐっ……ばなっ……!?」
「たず、いだっ、おるぉ……!?」
「だからこうやって、いざ自分の番ってなると泣き叫ぶという。救えないよな」
「人間性という意味なら、会話しながら男子二人を締め上げてる歩君の方が救えないと思う」
「それブーメランなんだよなぁ」
確かに中々の悪役ムーブやってる自覚はあるけども。それぞれの胸ぐら掴んで宙ずりにしているわけだし。
ただそんな俺と平然と会話している時点で、なにもいう資格はないという。
実際、ソフィアも俺とあんまり差がないレベルで引かれてると思うんだ。
「で、そのお猿たちはどうするの? 窓からでも捨てる?」
「「ヒッ!?」」
「残念ながら、猿の中でも落第っぽいからなぁ。着地もできんだろう」
大怪我させたら流石に問題だからなぁ。というか面倒。
「……雑巾の仲間ってことで、掃除用具入れに突っ込んどくか」
「入らなくない?」
「そこは無理矢理に詰めるのよ」
四人だったらアウトだろうけど、二人ぐらいならいけるだろ。ラブコメとかでも、二人で入ってたりするし。……片方は体格の違う女子だけど。
「というわけで、ばいな──」
「──なにをしているお前らぁ!!」
……チッ。ついに教師がきたか。
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