第77話 見た目は美少女、頭脳はテロリスト

《sideソフィア》



──私の吐いた暴言に、教室内が固まった。対象になった猿たちだけが、わずかな間を置いて激昂した。


「……は? アッ!?」

「おいテメェ! 今なんつった!?」

「ちょっと見た目がいいからって調子のんなよ!?」

「はぁ……」


 猿がまだなんか言っている。相手をするのも面倒で、思わず溜息が出る。

 正直な話、適当にはぐらかしておいて、あとでこっそり殺してしまおうかなって思っていた。歩君がどんな反応をするのか分からないから、流石に実行はしないけどさ。……獲物の横取りって思われたら困るもの。

 とはいえ、それだけ頭にきているのは事実だ。端的に言ってブチギレ。だってコイツらは、お母様の祝福である私の身体を侮辱した。この祝福された身体に相応しいのは自分たちだと、三下風情がほざきやがった。

 好色の目で見つめるのは許そう。神の恩寵に目が惹かれるのは、下等な人間ならば当然なのだから。

 触れようと、手に入れようと求めるのはまだ許そう。求めに応じるつもりは毛頭ないが、分不相応にも祝福に手を伸ばすのもまた人間だから。

──だが、この祝福を貶めることは許さない。愚かしくも増長し、この身体を下に見るなど許せるものか。それはお母様を侮辱するに等しい大罪だ……!!


「思い上がるなって言ったんだよ? 聞こえなかった? それとも股の間に収まる程度の脳みそじゃ、私の日本語を理解できなかったのかな? ゴメンね。私まだ日本にきたばっかだからさ、今以上に上手な日本語は喋れないんだ」

「てめぇ……!!」

「なに逆ギレしてるのさ。先に喧嘩を売ったのはそっちでしょ? 一度目はまだ勘違いってことで見逃すけど、それ以降も尻軽扱いされれば誰だってムカつくよ」


 ああそうだ。本当ならば、色々な拷問に掛けた上で殺してしまいたい。お母様を侮辱した屑どもには、そんな無様な最後がお似合いだ。

 歩君との約束を守っているから手を出さないだけ。私にできるのは言い返すだけ。──その代わり、全力でこの猿たちを貶してやる。


「……ああ、そっか。またお猿さんには難しいことを言っちゃったね。自分を客観視できない勘違い君たちじゃ、女の子の扱いなんて分からないもんね」

「っ……!! てめぇ、マジで馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!?」

「そのご自慢の顔、ぐっちゃぐちゃになるまで殴ってやろうか!?」


 盛大に挑発してあげたら、ついに猿たちにも我慢の限界がきたようだ。

 ギャーギャーと怒鳴り声が上がる。ついでとばかりに腰掛けていた机を蹴り飛ばす。威嚇のつもりなのだろうが……なんともみみっちい。


「ふふっ。急に叫んでどうしたの? お猿さんらしく発情期かな?」

「ぶっ殺す!」


 たまらず猿のうちの一匹が殴りかかってくる。笑っちゃうぐらいに遅い。あれだけ大きな態度をしていてコレか。勢いがあるように見えるのと、うるさいだけ。基本のきの字もなっていない。

 それでも何故か、『きゃー』と教室の隅から悲鳴が上がった。私が殴られるとでも思ったのかな? ありえないのにね。

 やっぱり日本は平和なんだって思う。こんな程度の低い諍いで大騒ぎするんだもの。女子は戦々恐々、男子も固まってる。廊下の方も騒がしくなってきた。

 おままごとみたいものでしょうに。誰もかれも慌てちゃってさ。事件現場みたいなノリだよこんなの。


「ほい」

「っ!?」


 とりあえず、ヘロヘロな拳は片手でキャッチ。手を出すつもりはないけれど、無抵抗というのもね。わかりやすく実力差を見せつけるぐらいはしたい。その程度なら歩君も許してくれるでしょ。


「なにを驚いてるんだか。腰がはいってない。スピードも遅い。握りも甘い。ダメダメ尽くしの見掛け倒しじゃん。むしろ自分が怪我をするレベルなんだけど。……もしかして、悪ぶってるだけでマトモに人を殴ったことないのかな?」

「んなわけっ……!!」

「だったら、それはそれで驚きなんだけどね。こんな子供の喧嘩と大差ないことばっかりやってるなんて。ましてやそれでイキがるって言うのは、恥ずかしいを通り越して惨めだよ?」

「っ……!!」


 ちなみにこの言葉、怒りだけでなく私の本心でもあったりする。これで大きい顔ができる方がおかしいというか。ちょっと治安の悪い国なら失笑されるぐらい低レベルなんだもの。


「ま、この国ならこんなお遊戯会でも通用してたんでしょう。周りの反応を見る限り、そうだったんだろうって分かるよ。──でもね、私はついこの間まで海外にいたんだ。それもあまり治安のよろしくない地域ね」


 実際は月に住んでいるので、治安云々は関係ないんだけどね。ただ裏社会に身を置いているということで、話の流れ的には似たようなものということで一つ。


「頻繁に刃物や銃が出てくる環境にいた身としては……もっと頑張りましょうとしか思わないかなぁ」

「んだと……!!」

「ほら。せめてそこでバタフライナイフぐらい出さなきゃ。それでようやくアンヨが上手って褒めてあげるよ。ぼ く ち ゃ ん た ち」

「このっ……!!」


 今度は別の猿が蹴りを放ってきた。ヤクザキックってやつかな? でもコレも酷いね。軸がブレブレで力が全然乗ってない。動作も大きくて分かりやすい。こんなの、ちょっと横にズレればそれで終わり。


「はい空振り」

「っ……!」

「やっぱり口だけだねー。これはもう全部、ちびっ子のヤンチャで評価は固まっちゃうかなぁ」


 うん。もういいや。ここまで無様な姿を引き出せれば、ちょっとぐらいは溜飲が下がった。本当に本当に本当にちょっとだけど。

 それじゃあ、そろそろバトンタッチといこうかな。私はあくまで前座、いや余興みたいなものだ。満足したなら、大人しく舞台袖に引っこもう。


「──さて、と。ちびっ子、いや赤ちゃん猿諸君。ヤンチャのツケを払う時が来ましたよ」

「あぁ!? なにを言って……」

「そんなのすぐに分かることだよ。自分たちが何をしたのか思い出してみな?」


 Q.お前たちがさっきまで座って占領していたのは、一体誰の机でしょう? ヒントは、私の隣でニッコニコな男子生徒です。





ーーー

あとがき

前回の新作宣伝の時、このタイミングで!? みたいなコメントがまあまあ来ました。

言い訳させて貰うなら、前回をそこまで盛り上がりと認識していなかったのですよ。今回の構想が元々あって、引きとしてはこの話の方が強いと思ってたので。


ま、それはそれとして。まだ更新ペース下がるんですけどね!

新作どうこうというより、個人的に処理しなきゃならないタスクが湧き出てきたんで。……あとちょっとだけ脇道執筆したりとかで。

タスク>リワード用の代表作>新作の初動確保>やべぇ奴

そんで、この列からちょっと外れたところの趣味の脇道執筆って感じで進めるんで。そこんとこヨロシクお願いしますね。

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