第76話 ぶっちゃけどっちもやべぇ奴
《side東堂歩》
──昼飯から帰ったら、なんか俺の机周りが占領されていた模様。
「──アッハッハッ!! 馬鹿じゃねぇのお前!?」
「うるせぇ。別にいいだろうが!!」
その内訳はクラスメートが一、別クラスの顔見知りが一、全く知らん奴らが三。そいつらが人の机に腰掛けながら、ケタケタと楽しそうに笑っている。
まあ、これに関しては不思議でもなんでもない。知り合いを目当てに、他のクラスの奴らがやってくることは普通にある。そして日当たりの良いベストプレイス故に、席を外した隙に乗っ取られたりするのも、文字通りの意味での窓際族の宿命でもある。
「……ほーん?」
「おっとぉ……」
──問題なのは、知らん奴らに分類される三人のガラがどことなく悪いのと、別クラスの顔見知りが体育で喧嘩を売ってきた馬鹿であることである。
「……んー、とりあえずツーアウトぐらいかなぁ」
もう隠された意図という、目的が見え見えではあるのだが、ここでカチコミを掛けるのは時期尚早だろう。
何度も言うが、席に集られるのは窓際族の宿命である。いくら少し前にバチッた相手だとしても、ただ談笑しているだけで〆るのはアレだ。穏便に立ち退き要求を掛けて通る可能性もあるのだから。
「あの三人は確か……あー、はいはい」
「知ってるのか雷電」
「ソフィアなんですけどぉ」
有名なネットミームが通じない悲しみ。
「で、アイツら知ってるん? あーた、昨日転入してきたばっかよね?」
「一応、キミの通ってる学校だからね。事前調査ということで、この学年の生徒のプロフィールは大体知ってます」
「あら熱心」
「あとね、昨日クラスの子たちに教わったんだ。この学校の要注意人物というか、ちょっと厄介な男子とか。私の容姿的に、絡んでくるかもって」
「……それはつまり?」
「あの三人がそうです」
「どこにも面倒な輩はいるもんだねぇ。ま、ここも名門校ってほどでもねぇし、別に不良モドキが数人いてもおかしくもないんだが」
正直、そんな気はしてたしな。だってクラス内の空気が微妙に悪いし。あの場にいる唯一のクラスメートも、どことなく嫌そうというか。
アイツをダシに、馬鹿があのヤンキーモドキたちを引っ張ってきたんじゃねぇかなと。
「ツーアウト、ワンストライクってところか」
「それスリーアウトになったらどうなるの?」
「攻守交替」
「……殺しちゃ駄目だよ?」
「殺さねぇわ」
それはどういう意味で言ってんだこの野郎。力加減を間違えてのうっかり? それとも意図的にぶち殺すとでも?
「白昼堂々そんな凶悪事件を引き起こすかよ。お前は俺を何だと思ってんだ」
「それつまり夜闇に乗じてならやるってことじゃない? ちなみに凶悪犯だと思ってるけど」
「おう言ってくれるじゃねぇかテロリスト」
清々しいまでのブーメランを投げてんじゃねぇよ。お前さん、仮に司法に捕まったら死刑ルート一直線の極悪犯じゃねぇか。
「もしやるにしても軽く小突いて退かせるだけだよ。下手に大怪我させたら面倒だろうが。ほれさっさと行くぞ」
「そーだねー。ぶっちゃけ、私もあそこにいられると邪魔だし。サクッと追い払っちゃおっか」
武力行使も視野に入れつつ、教室に突入。俺はもとより、ソフィアも見た目に反してガッツリ犯罪者なので。遠慮なくいかせてもらいましょう。
「おーい。そこ俺の席なんだけど。座るからどいてくれね?」
「あん? なにお前」
「その席の主だって聞こえなかった?」
おーおー。ガン飛ばしてくれちゃってまぁ。他の奴らも連鎖してこっち見るし、馬鹿はなんかしてやったりって感じでニヤついてるし。……ダシにされたであろうクラスメートの佐藤だけが、居心地悪そうにこちらを見ている。
おかげで一触即発だ。クラスの連中も俺たちのことを窺って、段々と教室内が静かになっていく。
「何でお前に命令されなきゃなんねぇの? 消えろよカス」
ツーアウト。
「命令でもねぇよ。座るから退けと、当然の権利を主張しているんだわ」
「うるせぇな。休み時間が終わるまで、お前がどっか行ってろよ。俺たち、そっちの転入生に用があるし」
「え、ここで私?」
「そーそー。キミ、頼めばヤラしてくれるんでしょ?」
「いやにしても、噂にはなってたけどマジで可愛いじゃん! その見た目でビッチとか最高だわ」
「……へぇ?」
おいおいマジかよコイツら。ここでソフィアの方に矛先を向けやがった。
女として不名誉な決めつけをされたことで、ソフィアの瞳がスっと冷たくなる。コイツらは気付いてるんだろうか? 俺よりは弱いが、コイツもパンピーにとっちゃ抗えない災害みたいなもんだってことに。
そしてなにより、ソフィアは現在進行形で世界に相手に喧嘩を売っているテロリスト。朗らかな言動に霞みがちだが、ある意味では俺より殺人に対する引き金が軽いのである。腹いせに殺されても知らねぇぞ?
「一応訊くけど、何で私がそんな尻軽だと思ったわけ?」
「え? だって付き合ってない奴とでもキスとかしてるんでしょ? そこのパッとしない奴相手に、二回もキスしちゃうぐらい性欲強いって聞いたけど」
「……何処の情報それ?」
「この佐藤から聞いた」
「ちょ、おまっ!? いや、違うからね花園さん! 性欲云々は勝手にコイツらが付け足してるから! 俺はただ、キスはしたけど恋人じゃないって東堂が言ってのを話しただけで! あとは普通に、フリーならアプローチかけても問題ないみたいなね!? そういう感じの雑談だよ!?」
「……ちょっとぉ! 歩君が八割ぐらい悪いってことじゃーん!」
む。ソフィアの怒りの矛先がコッチに向きやがった。間違ってはねぇから怒りはしないが、佐藤の野郎め余計なことを言いやがって。
「はぁ……。変な勘違いされたら堪らないから言っておくけど、私は別に誰とでもそういうことをするわけじゃないから。歩君だから許してるだけだから」
「でも付き合ってないんだろ?」
「そうだね。でも私、将来的には歩君のモノになる予定だし」
おい。どさくさに紛れて爆弾発言を追加するんじゃねぇよバカ。
「はぁぁ!? 趣味悪すぎでしょ! 意味わかんねぇ! そいつ明らかな陰キャじゃん!」
「俺らの方が絶対いいよ? やっぱりさ、人間関係にも相応しいレベルってのがあるじゃん? キミのランクも下げちゃうって言うかさ」
「月とスッポン。豚に真珠。俺らなら、この辺で色々と楽しいスポットとかも紹介できるしー」
「あ?」
これはもうスリー……何で止めるソフィア。
「歩君。ちょっとだけ私に任せてくれる? なんかこっちもイラってきたから」
おっとぉ? なんかまた眼が冷たくなってますねソフィアさん。この三下たちの鳴き声で、キレるようなポイントがありましたか?
「いやもう色々な意味で我慢の限界なの。だから言い返すぐらいはさせて?」
「面白そうだからどうぞー」
とりあえず快諾しておく。このサードポンがどんな感じでキレるのか、とてもとても興味がある。フワッフワの思考回路の底に潜む、鉄のように冷たいテロリストとしての一面を見てみたい。
「さて。許可ももらったことだし──ねぇ三下。股の間に脳ミソぶら下げてる新種のお猿さんたち。あのさ、あまり思い上がらないでくれるかな? すっごい不愉快だから」
ーーー
次回、ソフィア視点の予定
なお、新作の方に比重を傾ける予定なので、当分は更新頻度が下がります。今回遅くなったのもそのせいです。
代わりといってはアレですが、新作の方も読んでね!
『RPGの悪役令嬢にTS転生with裏ボスのお兄様〜状況を打開しようとすると、大抵が悪化するのは何故なんですの?(白目)』
現ファ悪役令嬢ものっぽい学園バトルコメディだヨ!
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