第75話 やべぇ奴の昼ごはん

《side東堂歩》



 高校の屋上というものは、学園モノの作品で地味に登場する場所である。

 ヒロイン登場。告白。雑談。まあ用途に関しては色々だが、基本的にはイベントで使われる場所だ。

 だがそれはあくまでフィクション。現実では安全性の観点から、大抵の高校で立ち入り禁止になっていたりする。


「ヨシ。ここなら堂々と話し合いができるね」


 それ即ち人気が皆無ということで、後暗い密談には持ってこいということである。


「……ところでよ」

「んー?」

「ソフィアさん、人払い的な魔法って使えるん?」

「使えるよ?」

「じゃあ中に戻ろうや。入口の踊り場でええやろ」


 ちなみに現在は初夏です。梅雨明けしたばかり+夏休み前ということで、太陽の光がガンガンに降り注いでおります。


「学園モノの定番ポイントだからノッたけど、この炎天下でわざわざ外に出る必要性はあるめーよ。それに屋上汚ねぇし、飯食うのもアレやろ」

「……そだね」


 ということで屋上に続く踊り場まで撤退。現実は無常である。


「それじゃあ人払いの魔法を掛けて──うん。準備オーケー」

「飯食うか」

「はーなーしーはー?」

「食いながらに決まっとろうが。昼休みは有限だぞ」

「本当に私たちの悲願の扱い軽くない!?」


 だって依頼を受けただけで他人だもの。そりゃそこまで熱心にゃならんよ。……ところで弁当の中身が白米オンリーなんだけど。二段弁当の上下とも真っ白なんだけど。マイマザーは一体何をしたかったん?


「……」

「急に黙ってどう……何その悲惨なお弁当」

「知らん。いや本当に知らない」


 ソフィアの問に首を振って返す。こんな弁当になるような心当たりはない。

 下にカレー的な何かが轢いてある……ってこともないし。俺、あの人を何か怒らせるようなことしたか?


「……もしかして歩君、家族仲とか悪い?」

「いや全然」

「キミの異常性は?」

「普通に知っとるが。その上で両親ともにしっかり親をやってるが」

「それはそれで凄いね……」


 まあ親父殿は俺の同類みたいなもんだし、そんな人を旦那にしてる時点で母さんも慣れてるからなぁ。


「とりあえず質問だけ送っておくか。弁当はしゃーない」

「……本当に仲良いんだねぇ。歩君のイメージ的に、もっと怒るもんかと」

「その挑発の答えとして、お前の弁当強奪してやろうか?」


 親に対して弁当程度でキレるわけないだろう。あと正直な話、ここまで吹っ切れてるメニューだと逆にオモロい感はある。


「まあオカズぐらいなら別に。載せるから、ちょっとお弁当こっちに」

「あ、くれんのね。ありがとございます」

「食べられないのある?」

「ないでーす」


 ポイポイポイと、ソフィアの手によってオカズが放り込まれていく。……コレでどうにか弁当の体裁を保てるほどになったな。


「ちなみにその弁当って誰産? マイフレンド?」

「私に決まってるでしょー。──お母様の手作りを上げるとでも?」

「安定の狂信者」


 そんな殺気すら滲ませた瞳で睨むんじゃないよ。別にマイフレンド産の食い物が入ってるわけでもねぇんだろ?


「……ま、オカズももらったし、ちとマトモに話すかー」

「うん。そうして」


 豪華になった弁当をパクつきながら、シリアススイッチをON。飯を恵んでもらった礼はちゃんとせんとな。


「といっても、内容はシンプルなんだけどな。ヒナちゃんに訊きたいことがあるってだけで」

「ヒナに? ……え、何で?」

「俺、イクリプス以外のモンスターと戦ったことないんだよ。ほら、インノケンティウスって怨霊なんだろ? だからスピリット系に攻撃効くかどうか試したいんだよ。それで日本の有名どころを教えてもらおうかと」

「んー……?」


 おや? 別に変なことを言ったつもりはないんだが、何故か納得六割、疑問四割ぐらいのリアクションが返ってきたぞ?


「妙なこと言ったか?」

「いや、やけに慎重だなって。歩君に似合わないというか」

「報酬が用意されてるから、そりゃある程度は検証しようとするっての」


 嘘です。本当はこっそり襲撃かますための下準備です。


「というか、不安ならアーティファクトを貸すよ? どうせ武器とかも使えるんでしょ?」

「まあの」


 使ったことはなくても使えはするよ。見本はいくらでもあるからな。

 だからアーティファクトも問題なく扱えるだろうし、攻撃が効く獲物があればインノケンティウスも余裕だろう。

 でも借りれないからなぁ。一人でカチコミする予定だから。


「……ほらアレだよ。何かあった時に一番頼りになるのは、鍛え抜かれた五体だろ?」

「あーやーしーいー」

「やーかーまーしーいー」


 ええいっ、ジト目を向けるんじゃないよジト目を! 俺はお前の容姿ネタが通じるような相手ではないぞ!!


「……はぁ。ボロ出しそうにないし、もういいけどさ。はいはいりょーかい。ヒナに今度確認しておきますよ」

「いや今しろよ。ハリー」

「何か企んでそうだからダーメ。悪巧みしてるであろう相手に、馬鹿正直に教えるわけないでしょう?」

「チッ」

「その舌打ちはもう自白では?」


 何か言ってるが無視。まあ仕方ないと思っておこう。ここで無理に頼み込んでも墓穴になるだけだ。


「……あ。マイマザーから返信きたわ」

「誤魔化したー」

「本当にきたんですぅ」


 別に誤魔化してませんー。


「じゃあお母さん、何て言ってるの?」

「『うっかりオカズ入ってる方落としたから、代わりにご飯詰めといた』……えぇ」


 母よ、何でそれで両方白米なんですか。だったら二種類のふりかけを掛けるとか、せめて塩とか振ってくれよ……。


「やっぱり歩君、家族仲悪かったりしない?」

「ちょっとばかし否定できない俺がいる……」

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