第74話 魔法って便利ねByやべぇ奴
《side東堂歩》
──分かってはいたが、面倒なことになったなぁと思う。
「ねぇ東堂君! 授業のアレ何!? めっちゃヤバかったんだけど!!」
「あんな運動できるとか知らなかったよ!? というかダンクできるのエグいでしょ!?」
「そんなことより東堂!! お前、マジでバスケ部入れって! お前がいればガチでインハイいけるぞ!?」
体育が終わり、ついでに他の授業も終わって昼休み。かなりの人集りが俺を中心にできていた。
二日連続で自分の席周辺の人口密度がエグくてゲンナリしている。何だってんだこの野郎。俺はパンダじゃねぇんだが。
「やーかーまーしーいー。そんな集られたら飯食えんのよ。ほれ散った散った。弁当広げられんじゃろ」
「えー。じゃあ一緒に食べようよ」
「いやソフィアと二人で食べるんで」
「え?」
「む。それを言われると引くしかないか。ソフィアちゃんにも悪いし」
「え?」
「おう是非そうしてくれ」
この辺はね、女子としても気を遣うからな領域だからな。特にソフィアの場合、性格と容姿ですでにカーストトップっぽいし。横の意識が強いJKなら、下手な波風を立てようとはしないだろう。
うん。恋人ってわけではないにしろ、こういう勘違いはしっかり活用していくべきだな。
「歩君。私の意思は?」
「は?」
「ナンデモナイデス」
ヨシ。とりあえずコレで女子連中はオーケー。残るは男子かぁ……。
「部活には入る気ないから。勧誘はもう勘弁な」
「何でだ!? あれだけのスキルを活かさないのは勿体ないだろ!? プロにだってなれるぞ!?」
「ガチでやるスポーツがそこまで好きじゃない。バイトが忙しくて部活している暇がない。その他諸々の理由でNG。てか俺、さっきの授業中にオタクの顧問の勧誘断っとるんよ」
アレはマジで鬱陶しかった。そりゃ顧問の立場からしてみれば、プロばりのプレイを連発してたら必死に勧誘するんだろうけども。
スポーツとかマジで興味無いのよ。勝負になんねぇ以上、ただの時間の無駄でしかないし。スマホ弄ってる方がよっぽど建設的だもの。
「ともかくよ。マジで昼休みの時間なくなるから、やるにしても今度にしてくんね? ソフィアにも迷惑かかるし」
「え?」
「……あ、いや、そか。そりゃ確かに悪いな。花園さん、ごめん。でも東堂、俺は諦めないからなー!」
「え?」
「諦めてくれー」
……ヨシ。これで男子もオーケー。やっぱり人気者の美少女って最高だな。人間関係の防波堤としての機能が高い。
「ソフィア、そんじゃ行くぞー」
「……はいはい……」
そんなわけで、弁当片手にサクッと移動を開始。教室にいたらまた囲まれかねんからなー。
「上手い具合に利用してくれたねぇ……」
「お前さんが便利なのが悪い。てか、同盟相手だぞ俺。何か文句でもあるんけ?」
「いやないけどさー」
あってたまるかって話でもあるんだが。単に飯食うだけだし、ビジネスパートナーみたいなものだし。
雑談はもちろん、割と真面目な話も──
「……あ。そういやソフィアに訊きたいことあったんだ」
「訊きたいこと?」
「そーそー。昨日の件の延長で、ちょっと重要な点に気付いてな。朝から色々あってすっかり忘れてたけど」
本当に頭の中からすっぽぬけてた。ぶっちゃけコレがなかったら当分思い出さなかったかもしれない。
「……いやあの、それはできれば忘れてほしくなかったんだけど」
「おん? 俺の上履きがどうでもいいと申すか?」
「うん」
殺すぞ。
「だってそうじゃーん。私たちにとっては悲願なんだよ? それと学校の上履きを比べられてもってなるじゃーん」
「『苦しい』は当人にしか分からんだろうがぁ!」
「それは本気で苦しんでる人の台詞だとおもうなぁ……」
「まあの」
実際は軽くイラッときただけだからな。ナメられるのと、付け上がられるのが腹立つから絶許カテゴリーに入ってるだけで。
「あとアレ。本気で苦しんでいたとしても、『その程度で?』としか思えない。個人的に気に食わない。私の感想でしかないし、苦痛の基準は人それぞれってのも理解しているけど」
「ほん? 意外と過激な意見じゃの」
「だって私、犯罪の口封じで両親殺されてるもん。私自身も『モノ』として売られそうになった。……不幸比べをするつもりはないけど、靴を汚されたとか、悪口を言われたとかで抵抗しないでウジウジしてるのはね。正直、甘ったれるなって思う」
「それはそう」
そういや花園の娘って、全員が不幸のドン底を経験してるんだったっけ。
特にソフィアたちは、世界平和と復讐を天秤に掛けた上で、なお実行しようとしている文字通りのアベンジャーズなわけで。
そんな奴らからすれば、学校での嫌がらせ程度でウジウジしてる者など『軟弱』としか思えないか。
「ちなみに訊くけど、イジメ問題でわりと言われる『自分で動くことができない人もいる』理論ってどう思う?」
「え、別にどうも思わないけど。できないならそれまでだよね、としか。……そもそもそう言う理論って、結局のところ無関係な野次馬の感想でしょ? たまーに専門家とかが、訳知り顔でそんな感じの自論語ってるけど、当事者じゃない時点で観客と一緒じゃん。実際に解決まで動いてくれるわけじゃなし。ならその他大勢の『ふーん』と違いなんてなくない?」
「草」
ドン底経験者の意見は含蓄があるなぁ。そしてどうしようもなく真理だわな。
肩書きがどんなに立派でも、実際に当事者じゃないならどんな言葉も感想だ。理論を唱えて根本の仕組みとかを変えられるならまた別だが、現実でそんなことはまず起きない。
『それでも唱えることに意味がある!』とか、『多くの人に知ってもらい、声を上げる人を増やさなければならない!』なんて力説する奴もいるが……ねぇ?
イジメの開始はプレイボールと同じだ。あとは当事者たちの選択の問題でしかない。どのような結果であれ、ゲームセットを待つしかない。
『その時』に対する偉い人の意見なんて、野球観戦してるオヤジのダメ出しと大差ない。
「で、そんなことはどうでもいいんだよ。イジメ問題とか心底興味無いしさぁ。」
「ほう? 嫌がらせを受けている被害者の前でよく言った」
「下手人は魔法で見つけてあげるから。オーケー?」
「おっけー」
それで全然大丈夫でーす。裏ワザで解決するんだったら、俺としてもこんな無駄話どうでもいいわ。犯人を〆て全部終いじゃあ。
いやホント、魔法って便利ね。
「じゃあ人がいないところに行こっか。この学校、屋上とかって開いてる?」
「危険ってことで基本的に閉鎖されてますね」
「じゃあ好都合だ。私が魔法で鍵開けるから、そこでご飯にしよっか。認識阻害も今掛けちゃうね」
魔法って便利ね。
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