第67話 やべぇ奴と女神の過去 その二
《side東堂歩》
「当時、神々は既に世界から姿を消していた。歴史上の出来事と言っても、なんだかんだ十五世紀だからね。神々の最盛期である紀元前は遥か昔。世界は神ではなく物理法則が支配していたんだよ」
遥か昔、世界は神々によって運営されていたという。正確には、古代の人々の空想を『世界』が利用し、それに権限の一部を与えたそうだが……。
ま、その辺はぶっちゃけどうでもいい。知識としても大して知らんし。
重要なのは神々は世界の制御端末みたいなものだったということ。そして時代が進み最新型制御端末(物理法則)が発明されたから、神々はマイフレンドを除きリストラされてしまったということだ。
「そんな中で唯一生存し、顕現していたのがお母様。でも時代は既に神のものではなく、人のものとなっている。だからお母様は、人の世界とは距離を置いて過ごしていた」
「のんびり隠居生活してたのか」
「間違ってはないんだろうけど、私たちのお母様をおばあちゃん扱いしないでくれる?」
「人間基準でみたら樹木の類ぞ?」
紀元前から生きてるスーパーご長寿さんだろうが。見た目だけだぞ若々しいの。
「ともかく。そんなこんなで当時、お母様は各地を流浪しながら、人里離れた場所で暮らしていたんだ。ただ完全に人間社会と断絶することはできなかった。だってお母様の根幹は与える神格。人間に恵みを与えることが、お母様のアイデンティティであったから」
「ほーん」
曰く、旅をしては人里離れた場所に建てた小屋で生活し、時折近くの町や村に出て魔法薬的な代物を売り捌いていたそうな。まんま童話とかの魔女なんだよなやってることが。
「安くて良く効く薬を販売する美女。当然ながらお母様は行く先々で人気者になっていたんだけど、時代がそれを許さなかった」
「魔女狩りか」
「そ。いつだって人気者を妬む人間はいる。魔女狩りという概念が広まった時、そいつらにお母様は魔女だという噂を流されちゃったんだ。で、狙われた」
「うーん無常」
恩を仇で返すのと同調圧力って人類のデフォルト機能だよなぁ。やられた奴は堪ったもんじゃないんだろうけど。
「女神も苦労するんだねぇ」
「いや全然だよ? 武力的にはどうやったって負けないし、それ以前に女神の美貌で魅了しちゃえば老若男女問わずイチコロだったって」
「何でだよ」
そこは話の流れ的に、悲壮なエピソード扱いされるべきところだろ。何で普通にあしらってんだよ。
「アイギスとか使えるんだし、マイフレンドが負けないのは分かるけども。優しくしてやってた人間に裏切られて悲しみとか、そういうのはなかったん?」
「……まあ、人間基準でいうところのストレス発散だし。猫好きが野良猫に餌あげてるようなものだよ。そういう人ってさ、餌あげてる野良に威嚇されたり引っ掻かれそうになっても、別に怒ったりしないでしょ?」
「ナチュラルに人類見下してる奴じゃん」
神としては間違ってないんだろうけど。悲劇のヒロイン的なポジの奴が抱いて良い感情じゃないんだわ。
今のところシリアス要素ゼロじゃねぇか。ここからどうやってお前たちが決死の覚悟を宿す展開になるんだよ。
「話の展開がマジで読めなくなったんだが……」
「なんかねー、魔女狩り云々を適当にあしらってたら、教会の上の方にまで話が伝わっちゃったらしくて。所属の違う神秘関係者って判断されて、戦闘員が派遣されちゃったんだよ」
「……それで酷い目に遭った?」
「圧勝したって」
「知ってた」
そんな気はしてたよ。悲劇かなって思い込みがなくなりゃ、冷静に彼我の戦力も判断できるわ。
昔のどころか、現代の術者とかの力量がどれぐらいかは知らんけどさ。それでもマイフレンド相手じゃキツかろうよ。
仮にアクダマぐらいを平均レベルとしても、何十人と束で掛かったところで相手にならんわな。
「襲撃は何度かあったらしいんだけど、見事に全部返り討ち。それで面倒になって、お母様は姿をくらましたんだ」
「ほう」
「……そしたら魔女狩りが悪化したんだよね。最低最悪なキャンプファイヤーをしながら、ついでに姿を消したお母様を炙り出そうとした」
「お、おう……」
予想外のところから、意味分かんないレベルの飛び火が巻き起こってて草なんですよ。……いや当時からすれば笑い事じゃないんだろうけど。
「お母様も驚いたってさ。こんな邪悪な奴らがヨーロッパを支配しているのかって。神の時代ではないとしても、一回全て更地にした方が良いんじゃないかって悩んだそうだよ。流石に自重したそうだけど」
「すれば良かったのに」
「……当時は大宗教時代だったから。余波が何処まで広がるか予測できなかったんだよ」
「ま、確実に違う歴史を辿ってただろうな」
世界三大宗教の一つがコケたとなれば、当時から今にかけての全てが変わるだろう。現代の人間全てが別人に書き換えられてもおかしくない。
「ともかく、そういう理由からお母様も隠れるのを止めたんだ。下手に被害を増やすのは忍びないってことで、表舞台に立つことはしなくとも、簡単に追えるような形に落ち着いたんだって」
「豪胆やの」
やってることがRPGのボスなんだよなぁ。居場所を明かした上でも待ち構えってアレやん。掛かってこい、ハリーハリーってことでしょ?
「で、そのついでに人助けを始めたのが、花園の誕生の切っ掛けってわけ。自分の巻き添えで魔女狩りが加速度的に広まっちゃったから、お母様はその罪滅ぼしもかねて、目に付いた被害者を助けたり保護してったんだ」
「地味にシビアな形容詞が付いた気がする」
目に付いた人間だけなの? できる限りとかじゃなくて?
「そこはねー。お母様も神様だから。心優しい御方ではあるけど、相応に厳しいところもあるし? 神であるからこそ、人間全てを救うことはできないって理解している。だから手を差し伸べるのは手の届く範囲だし、あいてを選り好みしたりもする」
「うーんエゴイスティ……いやあいつギリシャ産か」
マイフレンド、あの人間よりも人間らしいで有名なギリシャ神話出身だしなぁ。そりゃ相応に身勝手なのもとうか。
元は違う土着の大地母神らしいけど、知名度的にはアイデンティティはギリシャ寄りだろうし。
「後は単純に、自分がいなくともいつかはあのレベルまで悪化しただろうからって。だから程々に留めた感じらしいよ?」
「分からなくもないような、そうでないような……?」
理屈としては納得できるが、現代社会の倫理からすると微妙に反感を買いそうな気も。
ま、何世紀も前の不幸なんて、現代人からすれば数字以上の意味はないんだけども。
教訓として扱うならともかく、変に憐れみを向けたところで歴史が変わるわけもなし。余計な感傷なんて自己満足でしかなかろうよ。
「まあ、うん。マイフレンドの苦労とか、花園の歴史とかは一応分かったかな」
「うん。それは良かったよ」
……。
「で、インノケンティウスって何時登場するの?」
今んところ件のクソ野郎、怨敵要素ゼロなんだけど。どっちかというと、マイフレンドにボコされてる噛ませ陣営のトップでしかないんだけど。
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