第63話 放課後コーヒータイム(やべぇ奴と馬鹿娘を添えて)
《side東堂歩》
何かやけに意味深な台詞を吐かれたりしたが、とりあえず電車内で深堀するのはアレなので放置。
で、ぺちゃくちゃ喋っている間に目的地に到着した次第。
ということで、ヒルズの上層階の一角にある、エターナルフレンドの自宅(という名の超豪華な玄関)からお送りします。
「はい。粗茶ですが」
「コーヒーじゃねえか」
「……日本のおもてなしの定番台詞じゃないの?」
「間違ってねぇけど間違ってんだよ」
何で部屋に上がって早々、妙なツッコミどころを発生させてるんだよコイツは……。
いや、ヒルズの名前がうろ覚えだった辺りでなんとなく察してはいたけどさ。お前、日本語は達者でも日本文化の方は若干怪しいだろ。
「あと客人に決め打ちでコーヒーを出すな。せめて訊ねろ。飲めなかったらどうすんだよ」
ナチュラルにゴリゴリ豆を挽き始めたから何も言わんかったけども。そこは普通相手に訊ねるんだよ。
「私、コーヒー好きなんだよね」
「アイ・アム・客人!」
「でもキミ、お昼に缶コーヒー飲んでなかった?」
「飲んでたけども」
そういう話じゃねぇんだって。飲み物に関してはその時の気分ってもんがあるだろうが。
「まーまー。一応置いてたおもてなし用の良い豆だから。私のとっておき。何も言わず飲んでみなって」
「……色んな意味で有名なコピ・ルアクとかじゃねぇよな?」
「違うよ。これはブラックアイボリーって豆」
どうやらアチコチでネタにされる、ジャコウネコ由来の高級キワモノコーヒーではないようだ。
いや別に、あのコーヒーだったとしても構いやしねぇけどさ。ゲテモノ寄りではあるけど、飲食物として製品化されてる以上は問題ないんだろうし。
あと個人的な感覚だけど、ああいうのって品そのものに対する嫌悪感や抵抗感よりも、不意打ちで衝撃の原材料を知らされることに驚くんじゃねぇかなと。
「ちなみにコピ・ルアクより全然高いよ。淹れる道具も特別な奴だし」
「くっそ高そうな道具を筆頭に、色々と拘ってはいたよな。やけに手慣れてたし」
「ふふん。これでも花園ではお茶係だからね! 世界の最高級ホテルでだって通用するって、お母様からお墨付きももらってるよ!」
「あ、そう」
そういやマイフレンドがプレゼンしてた時も、コイツがお茶係やってたな。あれ、ちゃんと理由があったんか。
そんで確かにあの紅茶は美味かった。高い茶葉だからとばかり思ってたんだが。
「ささ。温度とかもしっかり調整してあるから、飲んで飲んで。最高級とされるコーヒー豆の香りと味わい。是非ご賞味あれ」
「はぁ、両手。……あ、マジで独特な香りだな。……そんで味も、え、甘っ。何だこれすげぇ」
「でしょぉ!? 人によってはチョコに例えるぐらいマイルドなコーヒーなんだ。香りもフルーティーな感じだしさぁ!!」
何かオタク特有の早口解説が始まったけど、癪なことにそれが気にならないぐらいにはうめぇわ。最高級ってマジでエグいんだな……。
「何でそうなるかっていうと、この豆が象の体内の消化酵素がタンパク──」
「殺すぞ」
「──何でぇ!?」
何でじゃねぇよお前この野郎。象の消化酵素が出てくるってことは、つまりそういうことじゃねぇか。
「コピ・ルアクを警戒してた奴に、何で同系統かつハイグレードな代物を飲ませてんだテメェはよぉ」
「でも美味しいんだよ!? 凄いんだよ!?」
「美味いことは否定しないし、別にこのコーヒーを拒絶もしてねぇけども。せめて事前に説明しろって言ってんの」
だから不意打ちが駄目なんだよこういうのは。めちゃ美味な料理を食ってる途中で、『実は材料に昆虫使ってるんですよ』って言われたらドン引くだろうが……。
「あのな? これは美味いよ。絶品な一杯だ。でもそれはそれとして配慮はいるよねって、そういう話だよ。お分かり?」
「……しゅん」
「口で言ってんじゃねぇよ」
あざといを通り越してギャグなんだよ。その見た目が通用するのはパンピーだけだぞ。
……にしてもマジで美味ぇなコレ。
「……高いって言ってたけど、これおいくら万円?」
「え? 百グラムで三万とかかな」
「エグッ!? てかマジで五桁いってんのかコレ!?」
おまっ、何てもんウェルカムコーヒーで出してんだよ!? 興味本位で値段訊いたらむせかけたじゃねぇか!!
「これが世界で暗躍する秘密結社の財力か……。自称一般家庭出身が聞いて呆れる」
「……いやあの、確かに昔よりも贅沢な暮らしはしている自覚はあるけど、私もそこまで金銭感覚は揺らいでないよ? とっておきって言ったじゃん。私ですら滅多に飲まないよコレは」
「なら余計に何で出した」
「歩君が花園におけるスーパーVIPだからですぅ。だから出したんですぅ」
「……そんでこれ幸いと準備を始めたわけか」
「ナンノコトカナ」
語るに落ちてんだよそのカタコトは。自分が大手を振って飲みたいがために、人をダシにしただけじゃねぇか。
「てか、俺がVIPねぇ……。そんなつもりは全然ないんだが?」
「白白しいなぁ。キミはお母様が認めた唯一対等な同盟者。それと同時に、個人で私たちを鏖殺できる目の上のたんこぶなんだ。全力でもてなすぐらいはするってば」
「……その割にはもてなしが雑な気がするんだが?」
「気のせい気のせい。コーヒーだって美味しかったでしょ?」
美食を盾にすりゃ大抵のことが許されると思ってらっしゃる? このコーヒーがなければ殴り飛ばしてたぞマジで。
「──じゃあアレか? お前がこうしてやって来たのも、俺のVIP待遇故ってことか?」
「そうだね。ちゃんと説明はするつもりだよ。……私たちのお願いも、ね?」
「……」
意味深に。世界の裏で暗躍する真なる女神が率いる一派、歴史ある秘密結社の構成員に相応しい笑みが浮かんでいる。
自然と眉間に皺が寄った。無駄に品格のあるその姿は、どうしようもなく胡散臭い。
「でもその前に。今はこのコーヒータイムを楽しみましょー」
「他の奴とチェンジで」
「何でぇ!?」
何でじゃねぇよこの野郎。一瞬浮かべたシリアスを返せ。
ーーー
あとがき
話の導入で始めた雑談で一話分が埋まったで御座る。なお作者はコーヒーは飲まない。
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