第64話 やべぇ奴は願われる
《side東堂歩》
馬鹿が馬鹿なことを言い出したが、馬鹿高いコーヒーを無駄にするのもアレなので、馬鹿らしく思いつつも渋々従うことにした。
コーヒーうめうめ。……よし完飲。
「ご馳走様です」
「お粗末さま、でいいのかな? それじゃあちょっと片付けてくるね」
「はよ本題に入れ馬鹿」
なに洗い物しに行こうとしてんだテメェこの野郎。そんなん後でできるでしょーが。
説明の方がよっぽど重要だから早くしろ。ハリーハリー。
「はいはい。それじゃあ本題ね」
何でお前そんな『仕方ないなぁ』みたいな雰囲気出してんの?
「まず何から聞きたい? 私がキミの学校に転入してきたことかな?」
「じゃあそれで。……大体予想はつくけどな」
「あらそ? ならざっくりで。私はキミとの連絡係として、花園から派遣されました。以上」
「殺すぞ」
「何でぇ!?」
以上じゃねぇんだよ。ざっくりにも限度ってもんがあるわ。お前、VIP相手の説明それで済ますとか舐めてます?
「マジで何でお前なんだよ……。他にもうちょいマシな奴いたろ……」
「ヒナとセロは日本で顔が割れてるから候補外。他のメンバーは復讐で忙しくてそんな暇ない。だから消去法で私になったんだよね」
「お前さんの復讐はどうした」
「私の相手はねぇ。所詮は大物政治家の一派と、大規模なマフィアだから。面倒と言えば面倒なんだけど、他のメンバーよりはずっと楽なんだ。周囲の影響をある程度無視して、花園の力をフル活用すれば、割と早い段階でケリがつくというか……」
「年齢が理由でグループ卒業間近のアイドルみてぇだな。加齢のせいでキャピキャピした衣装が似合わなくなってる感じの」
「その例えはやめてほしいんだけど」
似たようなもんだろうがよ。つまり卒業間近で仕事少なくなってきたから、地方営業に回されたってことだろ?
「卒業決定おめっとさん」
「悪意があるなー! その言い方は本当に悪意があるなー!」
「純度百パーの悪意が込められてんだよ」
悪意がなきゃ人の復讐云々をおちょくったりしねぇんだわ。素面でやるには超えてはならない一線だろうが。
「……まあアレだ。一つ目に関して了解。携帯で良くねとも思うけども。わざわざ乗り込んでくるのはリスクじゃね?」
メンバーも一部が顔バレしてるし、こんな短期間でやってくるのはどうかと思うんだが。
「それはアレだよ。キミと友好関係を築くのも兼ねてるから。それにリスクもそんなにないよ? キミが言いたいのは、主に蝕獣災害対策局なんだろうけど……」
「けど?」
「国家組織なんて公になってなかろうが、その上の政府を抑えちゃえばどうとでもなるし」
「うわ怖っ。世界規模の秘密結社って怖っ」
すげぇサラッと言ってるけど、内容がえげつなすぎやしませんかね?
つまりアレでしょ? それぐらい日本政府にも影響力があるってことじゃろ? 改めて脅威度が洒落になってねぇなコイツら。
……ただその割にはさ。オタクが派遣してきた人材さん、ちょいとフリーダムすぎやしませんかねぇ? 消去法にしても、もうちょい何とかならなかった?
「……まさかマイナスとマイナスを掛けてプラス理論か?」
「何が?」
「お前の性格だよ。自由人な俺と、同じく自由人なお前。そっちの奴らにさ、俺とお前の性格の相性良いとか思われたりしてね?」
「分かんない。ただアクの強い人間を気に入りそうだよね、みたいなことは言ってたかなぁ」
「お前はそれでいいんか……?」
ソフィアさん? それ身内からアク強い認定されてるってことですわよ? その事実に気付いていらっしゃいます?
あと念のため言っておくと、その分析は地味に正解寄りだったりします。
「まーまーまー。ともかくですよ。クラスメートとして、そして同盟の窓口として。これからよろしくねってことで」
「……絶妙に納得いかねぇけど、まあ了解しといてやんよ」
色々と文句はあるが、来ちまったもんはしょうがないか。
そもそも同盟相手とはいえ、コイツらは別組織。方針に口出しするのもアレだろう。明確な害があるのならともかく、俺との連絡要員を派遣しただけなのだし。……日常生活が騒がしくされたという害は出てるけど、コレで過剰に騒ぐのもみみっちい気もするしなぁ。
てことで、この話題については終了。
「……さて。ある意味こっちの方が個人的に気になってる、本題その二。無駄に仰々しいお前さん、いやお前さんたちのお願いとやらを聞かせてもらおうか?」
「いやん。興味津々なんだね。そんなに私たちのこと、『都合のいい女』にしたいの?」
「おう速攻で願い叶えて全員サンドバッグにしてやんよ」
「ゴメンなさい」
流れるような土下座を決めるな。そこまで滑らかに動けるのなら、そもそも腹立つような挑発をするな。
「違うんです。せいぜい『帰るわ』ぐらいのリアクションだと思ってたんです。歩君の性格的に本当にやりそうなので、切にお願いします。性的な意味でなら全力で御奉仕するので、サンドバッグだけは勘弁してください」
「へぇ、痛いのは嫌か? 身体を捨ててるって意味では大して変わらんだろうに」
「……これ結構ちゃんとイラッとしてる奴だ。いや、あのね? 私はもちろん、他のメンバーもさ。このお願いを引き受けてくれるのなら、キミのサンドバッグにだって喜んでなるんだけど。……流石にお母様が悲しむから、素直に頷けないんだよね」
「えぇ……」
はいストップ。嫌がらせに適当に脅したら、満更でもない反応が返ってきて困惑しております。
Mなのとツッコミたいところですが、ニュアンス的にそのレベルのお願いらしくて嫌。
マジで違う意味でやってらんねぇ。そんな気配がプンプンしてきた。
だってコイツ、いつの間にか雰囲気がシリアス寄りになってるもん。
「覚悟ガンギマリじゃんか。穏やかじゃねぇな」
「まあね。それぐらい重要なんだ。……ちょっと待ってて」
「あん?」
エターナルフレンド、ここで何故か離席。
だが即行で戻ってきた。そんで片手にはペラい茶封筒。
「──お待たせ。はいコレ」
「何これ? すげぇ碌でもない気配すんだけど」
「キャッシュカードとクレジットカード。対応している口座には現状で五億。キミが望めば可能な限り追加もする」
「……わっつ?」
何かエグい金額が聞こえてきた気がするんだけど。……うわでもマジでカード二枚入ってるし。
「私たちのお願い、いや依頼をきいてくれるのならば、成否に関わらず前払いでコレを。依頼達成なら、後払いで私たち花園の娘たちを。なんなら当代だけでなく、過去の娘たちを対象にしたって構わない。未婚に既婚、キミが望むのなら選り取りみどりだよ」
……この時点で完全に察した。駄目だコレ。冗談抜きで碌でもねぇぞ。
「──だから歩君。私たちの願いを、全ての娘たちの悲願を叶えて」
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