第60話 やべぇ奴と謎の美少女(笑)

《side東堂歩》


 平凡な学校生活の最中、突然降臨した謎の美少女転校生。現実離れした美貌と、朗らかな性格を覗かせる東欧系の女の子! 実はアニメが好きで、日朝の女児アニメとかがお気に入りだぞ☆

 だがその正体は世界の裏側で暗躍する秘密結社、異端の花園の構成員! それぞれの復讐のために各国でテロ活動を行っていた悪のヒロインなのだ!

 ……字ズラだけ見るとコッテコテじゃねぇか。何だコイツ。一周回ってアホかよ。何で裏社会の人間が高校生やろうとしてんだよ。


「ねぇねぇ! 花園さんって外国の人だよね!? 何処の国の人なの?」

「転入なんてビックリしちゃった! どうしてこの学校に?」

「花園さんよろしくぅ。俺、田中って言いまーす! クラスメートってことで仲良くしようねぇ」


 とは言えだ。この感想はコイツ、エターナルフレンドの正体を知っている俺だからこそ抱いているもの。

 何も知らない一般ピーポーなクラスメートたちからすれば、エグいレベルの美少女転校生でしかない訳で。

 お陰で凄い人気よ。朝のHRが終わった途端に群がる群がる。

 基本は女子だ。同性だからかなり積極的に声を掛けている。すでに一部の奴らが憧れの視線を向けているのはご愛嬌だろう。

 そんで稀に男子。女子の壁をどうにかこうにか乗り越え、エターナルフレンドに声を掛ける奴らが何名か。……まあ、うん。見た目はめっちゃ良いからねコイツ。なんとかお近づきになりたいと思う奴もいるよね。


「……あのさー。圧が凄いんですがキミたち」


 たださ、隣の席で騒がれるとクッソ迷惑なんよ。特に女子特有のキャイキャイした甲高い声がうっさいのよ。


「もうちょい声のトーン落とすか、それか離れてくれません?」

「えー。ちょっとぐらい良いじゃーん」

「キミらが集ってるせいで隔離気味になってるのよ。男子にゃ辛い空間になってるの。お分かり?」

「分からない」

「分かって?」


 ちくせう。コイツら人の話を聞こうとしねぇ……。俺の居心地より自分の興味優先しやがった。

 当然と言えば当然なんだけどさ。基本的にゃ大人しくしてるせいで、学校内じゃオープンオタな男子生徒でしかないし。

 こういう時の発言力というか、影響力みたいなのは弱いのよな。特に女子が相手だと。

 はぁ……。クラスメート相手に普段の暴力的なノリを出す訳にはいかないし、仕方ないから授業が始まるのを大人しく待つかぁ。


「……?」


 何て思ってたらですよ。エターナルフレンドがこっち凝視してきやがった。しかも信じられないものを見たと言いたげな表情で。フレーメン反応中の猫みたいになってやがる。


「え、待って。キミってそんな大人しくできるの? というか何で会話成立してるの!?」

「その驚かれ方は納得いかねぇんだよなぁ!? 前だって会話は成立してただろうが!!」

「意思疎通できたかは大分怪しかったじゃん!」

「ボディランゲージ!」

「ボディにくるランゲージの間違いだよ!」


 肉体言語は万能言語なんだからそれで正解だろうよ。シバキ倒して言うこときかせれば大体の問題は解決すんだから。


「……もしかして、二人って知り合いなの?」

「「……あ」」


 二人揃って間抜けな声を上げた。

 前触れなくダイナミックな暴言が飛んできたせいで、つい普段のノリというか、以前と同じ感覚で会話をしてしまったのだけど。……ここ花園の本拠地じゃなくて教室だったわ。

 いつの間にか、クラス中の視線が俺たちに向けられていた。

 そりゃそうだよね! だって謎の美少女転校生と、クラスの目立たないオタクが顔馴染みの雰囲気で喋ってんだもん! そりゃ気になるし、なんなら何の漫画だってツッコミたくなるよね!

 ……一瞬でこれまでの努力が水の泡になった可能性が出てきたんだけど、どうしようかコレ?


「えっ、とぉ……」


 エターナルフレンドも『やっべ、やらかした……!』と、あからさまな表情である。冷や汗がツーと頬を伝っている。……んで、俺の方をチラッと見て、視線が会った途端にカタカタと震えだしやがった。


「……ネタキャラか何かお前は」

「ご、ごめんなさぁい……」


 小声でツッコミ入れたら、凄い情けない声が返ってきたんだけど。自分の失言がキッカケだと自覚してるからなんだろうけどさぁ……。

 いやマジで、コイツ何し転入してきたん? てか何でコイツなの? 花園の目的は分からんけど、潜入工作するにしてももっとマシな奴いたじゃん。マイフレンド関係では全員頭が茹だってたけど、それでも比較的理知的な奴らいたやん。

 お茶汲みの時から思ってたけど、コイツってアホな人種だろ。時音ちゃん、木崎さんとは違ったカテゴリのポンだよ絶対。

 能天気というか、間抜けというか。頭悪そうに『ばななぁ』って言ってるタイプだろ。


「ねぇねぇ! どうなの花園さん! 東堂君とどんな関係なの!?」

「そのー、あのー……」


 そんなマヌケが標的となっているせいで、マジで気が気じゃないこの状況。

 エターナルフレンドは案の定な反応。かと言って俺とてベストな言い訳は思いつかん。

 一番食いついてるのが女子だからか、今はエターナルフレンドの方に矛先が向いている。だが何時こっちに狙いが移ってもおかしくないため油断できん。

 しらを切るのは無理だ。あの会話は明らかに面識が、それも知人友人のそれだ。俺のゴットタンをもってしてもそこは誤魔化せん。

 じゃあ言い訳で乗り切るのかというと、それもキツい。まずエターナルフレンド、いや花園側の目的が分からない。コイツにどういうバックストーリーが設定されてるのかも不明だ。コレでは迂闊なことは言えない。

 ……ひとまず時間が欲しいな。幸いにしてもうすぐで一限開始だ。それまでなんとかお茶を濁して、授業中に打ち合わせをしよう。


「おい……」


 他の奴らにバレないように声を掛ける。そしてチラッと時計に視線をやって、余計なこと言わずに時間稼ぎしろとアイコンタクト。


「う、うん」


 エターナルフレンドから頷きが返ってくる。どうやらこちらの意図は伝わったらしい。


「えっと、私と東ど、いや歩君は……」


 ゆっくりと。途切れ途切れに。いい感じに言葉が詰まっている。これなら──


「──私のお母様公認の仲です!!」

「やってくれたなこのサードポン!!」


 全力でバカの頭を引っ叩いた。

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