第58話 やべぇ奴、帰宅
《side東堂歩》
重要な報告(白目)を済ませ、これでようやく家に帰れるなと廊下を対策局の歩いていたら。
「歩さん!」
「東堂さん!」
待ち構えていたっぽい時音ちゃんと木崎さんに声を掛けられた。まだイベントがあったかー。
「敵組織に突撃してきたとは聞きましたが、意外と帰還まで時間かかりましたね」
「無事とは聞いてましたけど、本当に大丈夫そうで良かったです!」
「この差よ」
何で同じタイミングで話し掛けてきて、こうも内容に差が出るんですかね? 付き合いの長さって言われたらそれまでだけど。
ただ時音ちゃんに関しては釈然としないというか。俺、仮にもキミの想い人なんですけど。
「前々から思ってたけどさ。時音ちゃん、こういう時にヒロインムーブとかしないよね」
「心配とかそういうのですか? いやだって白々しいじゃないですか。心配するだけ無駄だって確信してるのに、そういうこと言うの」
「信頼されてるってことでええのかしら?」
ただなぁ。間違ってないんだけど間違っているような気もしなくはないというか。
「それで敵はどんな感じでした?」
「あと一歩まで追い詰めたけど取り逃がした」
「……わざと逃がしたの間違いではなく?」
あらやだ正解ぶち当ててくるじゃんこの娘。多分ニュアンス的には違う意味なんだろうけどさ。
「犯罪者をわざと逃がすような人間に思われてる?」
「違いますよ!? 時音ちゃんが言いたいのはそういう意味じゃないですから! 東堂さんがそんなことする人だなんて思う訳ないじゃないですか!」
「その場のテンション次第ではやっても驚きはしないんですけど、今回は単純に歩さんの力で取り逃がすってのが想像できなかったので」
「時音ちゃん!?」
「相変わらずお口周りに問題あるねキミ」
木崎さんのフォローを秒で叩き割るストロングスタイルは嫌いじゃないよ。
そんでやっぱり時音ちゃん俺に惚れてるわ。俺の解像度が高すぎるもの。……あと木崎さんの信頼が凄い痛い。そんなことしてきたんだ。
「別に力がそういう問題じゃないよ。不意打ちで転移の魔法っぽいのを掛けられてね。そっち方面は専門外だからやられちった」
「あー。そういう感じですか」
「そそ。攻撃とかだったら効かない自信はあったんだけどねぇ」
「転移なんてトンデモ魔法を使う時点で相当ヤバいんですけど……。そんな相手の攻撃でも耐えるんですね東堂さん」
「まあの」
んー。木崎さんからはドン引きされたけど、なんとか誤魔化すことはできたかね?
「ともかく、そんな感じでなんやかんやで帰還した訳よ。逆にそっちはどうだった? 俺がいなくなった後とか」
「てんやわんやでしたよ。阿鼻叫喚の地獄とも言います」
「……大変でした。気付いた時には位置どころか景色も変わってますし、東堂さんも行方不明。もう最初は何がなんだかって感じで……」
詳細は聞かないけどいなくて良かったと思った。被害規模からして相当な地獄だったんだろうなぁ。
ただそれはそれとして。
「何でワイ行方不明扱いになってたん?」
「気付いたらいなかったからですよ。一瞬で私たちも移動してたんで、多分移動したのを見えてなかったんだろうなとは思いましたけど」
そういや行先も告げずに超高速でカッ飛んで行ってたわ。セロたちを剥いてた直後でカメラとかも切ってたから、そらそうなるか。
「……私だけでしたよ。東堂さんがいなくてオロオロしてたの。焦ってはいましたけど、東堂さんの安否よりも消えた先での戦闘被害がメインでしたし」
「優しくねぇなぁこの組織」
「信頼されてるんですよ歩さん」
「信用や信頼って言っておけば何とかなると思ってない?」
行方不明の味方に対して、安否じゃなくてやらかしてるかどうかを不安視するのは絶対に違うんだよ。やらかして帰って来てるから何も言えないんだけどさ。
「その後はアレです。歩さんが下手人を仕留めたせいが、イクリプスの反応、出現予測も含めて完全に消失してたんで、多少の様子を見た後に私たちは帰還しました。大量の隠蔽作業員と入れ替わる形で、凄い気まずかったです」
「私たちもちょっと前まで報告やらで動き回ってましたけどね。……現場の方は現在進行形で超修羅場でしょうけど」
「全方位が不幸になってて笑えねぇな」
やっぱりテロって碌なもんじゃないね。見逃した奴の台詞ではないけど。
ただヒナの復讐以外で日本でのヤンチャを禁止しといて正解だったとは思う。
「なんというかご愁傷様で。雑魚ボコッて帰らされただけの自分が気まずいわー」
「歩さんじゃなければ決死隊なんですがね」
「そうですよ! 東堂さんは堂々してて大丈夫です!」
「あ、うん」
うん二重の意味で気まずいわ。普通にティータイムしてたし、その上で木崎さんの真っ白な信頼が本当に痛い。
純粋さと善意は時に人を傷つけるんだよ。特に俺みたいな後ろ暗いことしてる輩にはね。スリップダメージが入る。
「じゃあ堂々と帰るかー。そしてまったり日常を謳歌するんだ。ボコりはしたから、当分ちょっかい出してはこないだろうし」
「……あれ? そういえば東堂さん、さっき帰還したんですよね? 報告が終わったっぽい雰囲気出してますけど……早すぎません? 私たちは報告とか諸々で結構掛かりましたよ?」
「ザックリ説明だけしてさっさと退散してきたのよ」
「それ許されるの歩さんだけですよね」
「実力主義って言うんだよ」
「多分違いますね」
ご機嫌伺いしなきゃいけない状況になってるから似たようなもんだって。
てか戦姫だって程度の差こそあれ似たような待遇でしょうに。
「そもそも報告とかマトモにやる気ないからねぇ。戦闘員は戦闘だけしてればええんよ。難しいことは考えない。暴力は全てを解決する」
「単純に面倒事を嫌っての台詞というのは分かるんですけど、素でそれを言えるのはどうかと思いますよ。歩さん最近まで一般人でしたよね?」
「……あ、そっか。東堂さんって元は一般人……え、一般人?」
「その二度見の意味を教えてもらおうか」
こちとら戸籍的には極めて普通な家庭の出身じゃが? 先祖までは分からんけど、こっちの世界に拘わるような血脈では断じてないが? 親父殿と俺だけ突然変異疑惑があるけど。
「……根本的な質問なんですけど、東堂さんってどういう日常生活送ってるんですか?」
「普通に朝起きて学校通って、帰宅or遊ぶor仕事からの就寝ですが。極めて一般的な学生やってますが」
マイフレンドたちのテロのせいで最近は学生できてなかったけど。
「……よく考えたらちょっと前に六月に入ったから、中間テスト終わったんだよな。そう考えるとラッキーか?」
ここに所属する時も、今回みたいな状況では公権力や魔法的なサムシングで裏から手を回してくれるって言ってたし。
ぶっちゃけ成績とか大して気にしてないけど、単純にどんな感じで処理されてるのかは気になるところ。
「あ、今のはなんか凄い学生っぽいですね」
「学生なんよ」
「そういえば東堂さん、成績とかってどうなんですか? 案外頭良かったりします?」
「案外を付けてる時点で頭良いと思ってないねぇ!? これでも一年の時の学年末の結果は総合十位ですが?」
「「うっそぉ!?」」
すげぇ絶叫されたんだけど。二人ともマジで人のこと馬鹿って思ってやがったなコレ。
「……意外と勉強できたんですね」
「まあネタバラシすると、一年のクラスに学年一位の奴がいてな。テストの時はそいつの動きをトレースした後、適当に記号で答えよって奴を一・二問空欄にして出してただけなんだが」
題して中忍試験カンニング。大抵のテストはコレでいけるぞ。席が遠ければ絶対バレないし、クラスで一番の奴の答案のコピーみたいなもんだから結果も約束されてる。
「ですよね!! それでこそ歩さんですよ!」
「何でそんなにホッとしてるの? 俺が頭良いと駄目なの?」
「だって歩さんが勉強できるとか違和感が凄いんですもん!」
変な解釈違いを主張しないでもろて。
「というか堂々とカンニング宣言しないでくださいよ……」
「あんな紙切れ一つで評価されるほど薄っぺらい人間じゃねえし。そりゃ真面目にやらんよ」
「人類でもトップクラスでアクの強い人が言うと、トンデモない説得力ですね」
「単純に学校の成績と将来がマジで無関係ってのもある」
現状でも将来が約束されてるからね。神崎さんいわく、表向きの身分ですら防衛省とかの役人らしいし。
ま、それを抜きにしても金にはどうやっても困らんから。パワーisジャスティス。
「なんというか、本当に東堂さんの学生姿が気になります」
「あ、それは私も気になります!」
「何でだよ」
「「まったく想像ができないんで!!」」
「口を揃えて言うほどかね……」
というか人に向ける視線じゃない。自由研究で生物の観察日記付けてる子供の瞳だぞソレ。
「冗談抜きで普通だよ。普通を演じてる」
一昔前に流行ったクラスカーストとかなら、二軍の下か三軍ぐらい。
オープンなオタで、特定の奴らばっかとつるむような普通の学生って奴よ。
「……倫理観とか隠し通せるものなんですか?」
「最初の疑問がそれか。そして身体能力じゃなくて倫理観をピックかい」
どういう風に思われてるのかよーく分かったよ。前から知ってたけど。
「そこは演技力って奴よ。フィクションを再現できるんだ。そこらにいる奴らの真似なんて朝飯前さね」
人並み程度に動き縛って、口八丁で誤魔化してりゃ割となんとかなるからな。……ただ学校でつるんでる連中には、俺のゴットタンをしても性格やら感性やらがバレ始めてる。
隠しきれない自分のアクの強さが誇らしい。
「そもそも周りに合わせるって時点で割と驚いてます」
「……キミらと歩調合わせて任務とかこなしてるんですが」
協調性皆無みたいな言い方止めよう? 現場で見習い介護とかできるぐらいには協力してるよワイ。
「いやそうですけど、そうじゃないと言うか……」
「変に目立って周りが騒がしくなったら、ゆっくりアニメとか楽しめないでしょうが」
「あ、そういう理由ですか」
「面倒事の回避以外に理由なんてないよ」
別に目立ちたがり屋って訳でもないしなぁ。凄いメリットとかがないなら擬態してるに限る。
「でもそれ、ストレスとか溜まったりしないんですか?」
「特には。気に入らない奴とかいたらバレないようにシバいてるし」
「あ、我慢はしてないんですね」
「そらそうよ」
擬態と我慢は全然違うもの。手を出されたりしたら遠慮なく認識されずに仕留める。
「そう言われると何か納得できました。やっぱり歩さんは歩さんですね」
「そこで嬉しそうに納得するのはちょっと違うと思うよ時音ちゃん……」
「キミの中では俺は傍若無人じゃなければいけないの……?」
そんな解釈違いかと思ってたら解釈通りだったオタクみたいな反応されてもね……。
ゲテモノ側が言うことではないが、ゲテモノ好きが過ぎるのではなかろうか。
「……ま、いいや。そろそろ俺帰るよ。一応は一件落着ってことで元のシフトに戻ったから、明日からまた学校なんだよね。だから帰ってダラダラする」
「……このタイミングで言うのもアレですけど、歩さん転校したらどうです? 私たちが通ってるような、こっち側の事情知ってる学校なら、色々と融通効きますよ?」
「そもそも手続きとかが面倒だからパース」
何かあれば対策局の方で手を回してくれるんだから、わざわざ転校するほどでもないだろう。
授業とかは気配消してりゃ色々と暇を潰せるからね。昼寝、ソシャゲ、読書とかね。
「んじゃお疲れー」
「お疲れ様です歩さん」
「お疲れ様です!」
さぁ帰ろ帰ろ。久々の我が家じゃ。
ーーー
あとがき
花園編終了。お次は学生編を予定しております。
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