第57話 やべぇ奴は報告する
《side東堂歩》
「さーて。みーのうぃっとにとんだじょーくで場が温まりましたね」
「いやそういうのいらないんだが!? 本当に真面目にやってくれないかね!?」
「チッチッチ。ユーモアがないのはバッドコミュニケーションに繋がりまっせ支部長さんや」
単刀直入だったり淡々と説明するのも大事だけど、僕ちんとしてはそれじゃつまんない訳ですよ。個人的には雑談やらジョークやらを挟みたい。
そんで説明するのは自分なんだから、そりゃこっちの流儀に合わせてもらいたいというか?
実際はテケトー言って煙に巻きやすくしようってだけなんだけども。
「ほらスマイルスマイル」
「だから! ふざけてる暇はなくてだね!?」
「──でもコレぐらいのノリで話さにゃ深刻すぎて空気が死ぬべ?」
はいここでガチトーンを差し込みます。お説教の途中だろうが関係ありません。そうするとあら不思議。一気に空気がシリアスになるのです。
緩急。または落差のマジック。雨の日に子犬を拾う不良効果。つまるところ、普段ネタキャラしてる奴が真面目っぽいこと言うとそれだけ大抵はやりすごせる。
「…………そんなになのかね?」
沈黙。からの絞り出すような疑問。
それに対する答えは一つ。
「YES」
「……そうか」
支部長だけでなく、呆れ気味に静観してた他の二人の表情も変わる。
たった一言。たったのアルファベット三文字。だが俺の台詞の意味は果てしなく重い。
これで流れは完全に掌握した。あとは私のゴッドタンが唸るだけでございます。これライフハックだからテストに出しますよー。
……まあ実際問題、花園の脅威度は洒落になってねぇけども。ガチのラスボス組織だからかあそこ。どんなにぼかしても脅威度は高いというね。
「……分かった。説明をお願いしよう」
「あくまで俺の主観。それでもOK?」
「構わん。分析は我々の仕事だ」
「はいなー」
頷きながら考える。どう話したもんかねぇ。
変に嘘で誤魔化すのは悪手だ。どんなタイミングで矛盾が出るのか不明だからな。
つまり嘘は最低限で、大事なのは情報の取得選択。詳細な情報を与えなければそれでいい。
この場の空気は完全に俺が握っているのだから。
「ちなみにあの二人の戦闘までは説明不明よね? 映像あるよね?」
「ああ。あの二名に関しては現在全力で調査中だ。……アーティファクトとやらも含めてな」
まあそうよな。ヒナとセロをひん剥く時に通信機の類は全ギリしたからな。
てことは、アーティファクト系の情報は伏せなくて良いと。
「先に伝えておきますけど、アーティファクト関係の情報は皆無でっせ? なにせワイは完全に戦闘以外は専門外ですし」
「……予想はしてたけど、やっぱりそうよねぇ。せめてあの二人を、そうでなくとも現物を確保できてたら……」
「もしかして責めてます?」
「まさか。あの状況で戦姫ごと無事に撤退できてる時点で十分すぎるわ」
「そら良かった」
それは流石に無茶振りすぎるだろうと思ったが、そこは安心安定の神崎さん。ならお前がやれ案件のブーメランは投げんかったか。
まあ研究者でもある神崎さんとしては歯痒かろうて。とんでもない逸品が直前でロストしたんだから。
「となると砕けた槍の捜索待ちねぇ……」
「ああ。そういやゲイボルグ・レプリカがありましたね。サンプルがゼロって訳ではないのか」
めっちゃ粉々になりはしたけど、それでも神話の槍の模造品だ。欠片でもゴミと片付けるには上等すぎる。
「ただ回収する前にアイギスの石化の呪いがばら撒かれたから。あの一帯が完全に石化してるせいでそれどころじゃないのよ。神秘の気配も蔓延してるから捜索も難航しそうだし」
「頑張ってください」
「他人事ねぇ……」
だって戦姫待遇の俺には何もできないし、手伝う義理もないのもの。諸共粉砕するぐらいが関の山よ。
という訳で、オッサン含めた現場職員の皆様のご冥福をお祈りします。合掌。
「そんじゃ話を戻しまして。時音ちゃんたちを抱えて退避した後は、あのポっと出の敵の首魁らしき奴を追いかけて、空間をぶち抜いて追跡したんですがね」
「ストップ。空間をぶち抜いたってのは事実だったのかね?」
「事実っすよぇ。まだ何か空間、てか座標? まあそんなサムシングの奴が繋がってそうだったんで、ぶち破ってみたらできたというか」
「……頭が痛いなぁ」
んなこと言われても、できちまったんだから仕方ない。
「それで敵アジトと思われるところに突入したら、推定ボスと回収された二人、更に四名のメンバーが呆けた顔で突っ立ってたんすわ」
「……そりゃ驚くだろう……」
「歩、確認だ。敵は全員で七人だったんだな?」
「そそ。少なくともあそこにいたのはな。ついでに言うと全員が女だった。ボス含めて。偶然か必然かは知らん」
性別ぐらいは問題ないという判断で報告。人数に関してはちょっとぼかし気味にして、正確な数は不明みたいに演出。
「よし続けてくれ」
「後は普通にバトっただけだよ。部下もボスも殺さない程度にボコった」
「まさか勝ったのかね!?」
「戦闘はですねー。トドメ刺そうとしたら不意打ちで転移魔法を叩きつけられて、よく分からん外国にいたんですよ。つまりしてやられました」
ここは嘘。試合で勝って勝負に負けた感じで伝える。
「そんで仕方ないので徒歩で帰ってきたんすよ。めっちゃ疲れましたわ」
「……行きと同じように再突入はできなかったの?」
「ガッツリ対策されてたのか無理でした」
ここも嘘。ただ余計なことは言わない。何か知らんが無理だったとだけ伝えればOK。
「……現代で転移魔法ってだけでもデタラメなのに、しっかり東堂君に通用するレベルの改良を加えている。やはりレリックホルダーだけあって、神話クラスの使い手みたいね」
そりゃ神話クラスというかガチの女神やからなマイフレンド。
てか転移魔法ってそういう括りなんか。いや月から任意の国家に人員送れるのはデタラメだけども。
「いやだが待ちたまえ。今のところキミが深刻というほどの情報はないぞ? 確かに敵の首魁は危険なレリックホルダーなのだろうが、口ぶりからしてキミの圧勝だったのだろう?」
「そっすね。俺は圧勝でした」
「では何がそこまで警戒する必要がある? キミが深刻だと判断する要素が見当たらないが」
「そんなの単純っすよ。俺以外じゃ多分アイツらにゃ勝てない。だからヤバいんじゃねと」
「っ……!!」
残念なことにコレはガチ。ぶっちゃけ対策局、それも日本全体の戦力合わせても花園の方が強いんだ。
「……それほどの強敵なのか」
「そりゃ部下だけでも全員アーティファクト装備よ? 自爆覚悟すればお手軽に神話クラスになれる奴らが群れてんだから、普通に考えて無理だろ」
「ぬぅ……」
戦った所感的には、レリック持ちの花園メンバーが一人と戦姫数名でトントン。オーバーロード状態(ヒナ基準)だと突出した戦力がいないと戦姫を二桁揃えても普通に負けそう。
「なによりボスがヤバい。レリックめっちゃ持ってた」
「何だと!? アイギス以外にもか!?」
「そー。少なくとも三・四個は使ってたなぁ。ただあの感じ的にもっとありそうな気もする」
「なんという……」
ヤバさ演出は必要なので、ここは伝えておく。ガチ女神ってことだけ伏せときゃいいだろ。
それでもアレだよ。これだけの情報でもオッサンと神崎さんは理解できるはずだ。日本の戦姫全員集めても、マイフレンドはそれを瞬殺できるって。
「……よく無事だったわね東堂君」
「よくも何も余裕でしたが」
「今ほどキミの存在を心強いと思ったことはないわ……」
「ありがとうございます」
実際は両属状態のコウモリ野郎ですがね。それでも絶望的な戦力差を覆せる立ち位置だから、コウモリが正真正銘の切り札という悲しみ。
「俺が話せるのはコレぐらいですかねぇ」
「……とても貴重な情報だった。よくぞ持ち帰ってくれた」
「……問題はこの情報があまりに爆弾すぎるということかしら」
「この支部どころか、日本だけで抱えることすら許されんものだよコレ……」
沈鬱そうに頭を抱えるお偉いさんトリオが爆誕。
やはりこうなったか。ボスがガチ女神、組織の正体が世界を裏から支配できる秘密結社、本拠地が月など、特ダネを伏せてなおこの空気よ。
当然っちゃ当然なんだけどねぇ。だって判明してる情報を並べてもコレよ?
・ボスが国すら落とせる超戦力。
・構成員も潤沢な聖遺物モドキを活用することで準神話クラスの強さを持つ。
・イクリプスを操っての国家規模の破壊工作を行っている。
・転移魔法のせいで神出鬼没。
・それ以外は詳細不明。
……列挙するとガチのラスボス組織で草しか生えねぇわ。
「各国に通達するにしても、対処できない可能性が高いというのが致命的すぎる……」
「日本、というか関東支部ですら東堂君がいなきゃ対処も何もないですし……」
「かといってその彼の存在も爆弾そのものだからなぁ……」
「面倒起きたらトンズラしますし、なんなら敵側に寝返るのも辞さないと宣言しときます」
「分かってたけど堂々と宣言しないでくれるかね!? 本当に爆弾だなキミは!!」
えへへ。すでに両属だけどえへへ。
「頭が痛いぞ本当に……! こんなのどうすれば良いのだ……!!」
「頑張ってつかあさい」
「他人事だねぇ!?」
「他人事ですものぉ!!」
色々と考えるのは俺の仕事じゃないですし、なんなら敵対しないってマイフレンドから確約されてますし! 花園関連では日本と知り合いの安全は確定してますしぃ!
……ああでも、遠回しにコレは伝えとくべきか。
「ま、不幸中の幸いでしょうが、日本は当分は安全だとは思いまっせ?」
「……何でそう言いきれるのかね?」
「どうしようもないレベルでボコボコにしてきた相手がいる国とか、普通は避けるでしょ」
しかも尋常ではない方法で本拠地に突撃されてますし? こっちの裏事情を知らなくても、常識的に考えて触らぬ神に祟りなしでファイルアンサーよ。
「……なるほど。一理ある。警戒はしておくとしても、一時の希望としては上等だ」
「それじゃあ下がってよろしい? 個人的にはもう話すことはないのだけど」
「ええ。報告ありがとうね東堂君。不明な点があればまた確認させてもらうわ」
「あいあい。了解です。それじゃあ御三方も、お偉いさんの話し合いを頑張ってくだせぇな」
「……本当にお気楽だなキミは……!」
「こういう性分なんで」
そんじゃホイならー。
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