第56話 やべぇ奴は嘘つきだ

《side東堂歩》



 元ネタは何だったか知らないが、もはやネットミームと化している嘘に関する名言がある。『嘘の中に少しだけ真実を〜』って奴だ。

 実際それは正しいと思う。朱に交われば赤くなるように、一欠片の真実は嘘を染めることがある。朱、真実になることはなくとも、真実のような赤にはなってしまうのだから。


「前置きとしてこれだけ言っておきます。信じられないかもしれませんが、と」

「う、うむ……」


 だが同時にこういう言葉もある。『事実は小説よりも奇なり』。下手な嘘よりも嘘みたいな事実が巻き起こるということ。現実は時に赤を超え、朱を超え、真紅の輝きを放つことがあるのだ。

 で、だ。今回はどれに当てはまると思う? はいそうです真紅パターンです。割と始まりから終わりまで嘘みたいな現実でしたね。

 逆にコレどう誤魔化せばいいのかと思わなくもない。だから私は発想を逆転させたのです。


「……異世界でした」

「……うん、うん?」

「転移魔法か何かで逃げた正体不明の敵。ですがまだ直感的に空間は繋がっていると察知した僕は、逃がすものかと空間をぶち抜いて奴を追ったのです」

「ん、ん?」

「そしたら勢い余って世界の壁ごとぶち抜いてしまったようで。モンスターがいてレベルやステータスが存在する異世界に移動しちゃったんですよ」

「すまないがそろそろ待って貰っていいかな!?」


 はい待ちましょう。


「色々ツッコミところはあるのだけど、まず異世界って何!?」

「異世界は異世界ですよ。ちょっと、いやもうまあまあ前から流行ってるジャンルのアレ。そんな感じのサムギョプサルですよ」

「絶え間なくボケるの止めてくれないかね!? ツッコミが追いつかないから!!」


 あーい。


「次にレベルやステータスって何!?」

「ゲームとかのアレですよ。『ステータス!』って叫んだら浮かんできました。ちなみにレベルはMAXで物理関係と耐久系のパラメーターはカンストしてました」

「それだけはなんとなく想像付くけども!!」


 それはそれで腹立つなオイ。脳筋と言いたいのかこの野郎。


「というかそれマジで言ってるのかねキミ!?」

「いや嘘ですけど」


 明らかに嘘だろこんなの。何ちょっと信じそうになってんだこの人。


「だよね!? そうだよね!?」

「当たり前でしょ。素直かアンタ」

「キミが言うと荒唐無稽なことでも嘘に聞こえないんだよ!!」

「あれー?」


 色々と面倒だから、真紅すら超える真っ赤な嘘でも叩きつけてしまおうと思ってたのだけど……。

 どうやら俺の方がもっと赤い人だったようで。まだまだ俺も自己分析が甘いなぁ。


「……認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」

「適当なこと言ってないで真面目に説明してくれないかね!?」


 ……この名台詞に無反応だと? まさか支部長、見た目の割に結構若かったりする?

 あ、はい。そろそろちゃんと話しますよ。




ーーー

時事ネタ

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