第55話 おかえりやべぇ奴
《side東堂歩》
端的に事実のみを語ろう。現在、私こと東堂歩は取り調べを受けております。取り調べ担当は支部長、神崎さん、オッサンの三名です。
なお私は無罪を主張しております。
「何故現場から帰ってきただけでこんな扱いを受けなければならないんだ! 弁護士を呼べ!」
「帰還ついでに殺人未遂事件を犯してきたと自白したからだが!? 何故それで不服そうな表情をできるのかねキミ!?」
「え、レイパーDQN相手だから無問題でしょ?」
「私刑を許したら法治国家は終わりなのだよ!!」
「裏組織の支部長が凄いマトモなこと言ってる……」
うそん。仮にも世界の裏側に分類される特殊機関の偉い人でしょ? 何でそんな遵法精神高いの?
「むしろ何でキミはそんなにアウトローなのかね!? 普通に生活してたら例え犯罪者相手でも拷問とかできないよ!?」
「……ごう、もん? え、何がです?」
「待って何でそこで不思議そうな顔をできるの!? 内容を聞く限り完全に拷問だよ!?」
「いやアレは拷問とは言いませんよ。途中からテンション上がってシバいてただけで」
「なお悪いわ!! というか人体を欠損させながらテンションを上げるんじゃない!!」
いやー、何だかんだ言って普通の人間シバいた経験なかったもんで……。予想以上に脆かったのが興味深くて。壊しても問題ない奴らが湧いてたから、ついね?
マイフレンドのとこの馬鹿娘たちはボコったけど、殺さないように気を使ってたし、やっぱり敵キャラやれるスペックある分頑丈だったからなぁ。
「まあ良いじゃないですか。害虫駆除みたいなもんなんすから」
「だから刑罰は法に則るべきであってだね……!」
本当にこの人遵法精神に溢れてんな。真面目か?
「あのね東堂君。別にキミの行為を法的に罰するつもりはないの。ただ単純に手間なのよ」
「神崎君!?」
俺たちのやり取りを見兼ねた神崎さんが割って入ってきた。なおこちらはそこまで遵法精神は高くない模様。
「警察の方にも裏から色々と手を回さないといけないし、今度から中途半端はやめてほしいの。もし次やるなら証拠を残さないよう徹底して始末するか、一般レベルに留めるかのどちらかでお願いね」
「いや止めよう!? 大人ならそこは止めるところだよ神崎君!?」
「力の伴わない制止は徒労なだけですよ支部長。東堂君が相手の場合、罪のない一般人に手を出してないのなら良しとするべきです」
「そういう問題かねコレ!?」
「そういう問題ですよ。あと個人的には強姦魔が相手という時点で……」
「いや確かに女の敵であるけれどもね!?」
まあ女性の身では強姦魔の権利の保護を主張したくはないわな。
「くっ、なら武蔵君からも何か言ってやってくれないか!?」
ならばとオッサンに狙いを変える支部長。何故この人はそんなに遵法精神を説きたいのだろうか?
「……確かに無色支部長の主張はもっともです。歩のしたことは人道的に許されることではない」
「おん?」
あれまさかのオッサンが支部長サイド? ま?
「だよね!? そうだよね!?」
「ええ。我々もこうした立場故に、時として法を無視した手段を取ることもあります。ですがそれも国民の安全を守るという大義のもと、断腸の思いで起こなっているもの。少なくとも歩のように私情によるものではありません」
「うむ! 流石は武蔵君だ!」
「いえいえ。無色支部長の揺るぎない善性があるからこそ、私を始めとした部下一同は道を誤らずに済んでいるのです。我々は後ろを歩いているにすぎません」
「ははは! そこまで言われると流石に照れてしまうね!」
「むしろ胸を張っていただきたい。無色支部長は今後も変わることなく、関東支部を正しき方向に導く光でいてください。今回のように歩の暴挙をお咎めなしで済ませることも、本来ならば許されざる悪しきことであると我々が忘れないように」
「ああ! もちろんだ……と、も?」
や は り か。
「……え? ちょ、武蔵君?」
「申し訳ありません無色支部長。私も心情としてはそちら寄りなのですが、現実的な問題で歩を処罰する訳にはいかないのです」
凄い持ち上げられてからの突然のテノヒラクルーに、支部長はもう唖然呆然。なんかもう見ているこっちが悲しくなるぐらいの哀愁が漂いはじめている。
だがそれすら気にせずオッサンは言葉を続ける。多分わざとではない。コレは天然のアレだ。
だってさりげなく目立たない位置に移動した神崎さんが死にかけているもの。不意打ち気味に致命傷を受けて静かに悶えているもの。
やはり試験と称して真剣で斬りかかってくるサイコは違う。ナチュラルド畜生オヤジだコイツ。
「イクリプスを使役する力を持っていると予測され、更に強力かつ危険極まりないレリックホルダーを擁する正体不明の敵。そんな存在がいると判明した以上、歩という最高戦力を失うことは我々にはできません。同様の理由から、離脱の可能性がある処罰もできないのです」
「……ああ、うむ」
オッサンの言ってることは極めて合理的だ。正論ではなく合理的だ。
屑な小悪党どもの権利よりも、局全体の戦力、ひいては大多数の国民の安全を優先したということなのだから。
……そうしてまで優先した俺が敵の正体を知っているのと、なんなら同盟も組んでいる両属状態の蝙蝠であることを除けば、素直に感心できることだと思うよ。うん。
「ですのでどうか、ここは大事の前の小事として引いてくだいませんか? 無色支部長の主張は素晴らしくもありますが、情勢がそれを許さないのです」
「……そうだね。仕方ないね」
気づいてサイコなソード中年ゴリラ! 支部長さん、既にお前の華麗な裏切りムーブで心折れてるよ! いい感じに盛り上がってた状態から地面に叩きつけられたことで、ものすごい悲しい気配が漂ってるよ!
終電一本前ぐらいの電車内で、虚ろな瞳で電光掲示板を眺めてる社畜サラリーマンみたいになってるから! 気づいてあげて!
「理解していただき感謝いたします。それでは歩に今回の一件に対する説明を始めてもらいましょう」
「……うむ。うむ」
「では歩、説明してくれ。あと帰還に際し強奪したという携帯をあとで渡してくれ。こちらから手回しするために、そして向こうの警察が強姦魔たちの余罪を調べるためにも必要だ」
「あいあーい」
言われた通りオッサンに犯罪者Cのスマホをパス。
それじゃあ状況説明、もとい蝙蝠状態をバレないようにするための誤魔化しタイムといきましょうか。
さあ唸れ俺のゴットタン。かつての大英帝国を彷彿とさせる三つの残像に刮目するがいい!
「──それはそれとして支部長さん今どんな気持ち?」
「いちいち人を煽らないと気が済まないのかね!? 普通に哀しくて泣きそうだよ!!」
無言でハンカチを差し出した。やっぱりサイコ帯刀ド畜生ゴリラ(天然仕立て)は許されないと思うの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます